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凪の中の突風  作者: NBCG
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6話 波状攻撃

明海元年 9月15日


臨時瀬保基地所属艦隊 千鶴型航空母艦二番艦飛鶴


全く。


臨時の援軍を行いに行ったと思えば、この船はいつの間にか臨時の地方艦隊の船になってしまっている。


死ぬかもしれないとはいえ、初の実戦。初めて戦場を飛行機で飛んだ人間になれるかもと内心期待していた自分が馬鹿だった。


実戦を期待していた罰が当たったのかもな。


あの倉田でさえ、船上に向かう途中は笑いながらも冷や汗を掻きっぱなしだったし。


そうは思いながら、今日も哨戒である。


群鶴の艦隊と持ち回りで行っていて、今日は自分たちの日である。


敵の第一波を凌いだとは言え、未だ浜綴と唐国は戦争状態にある。


気は抜けない。


そういいつつも、自分は飛行甲板に吹く海風を臭い臭いと言いながら朝焼けを楽しんでいるのだが。


やはり罰が当たるのか何なのか、いつも起こって欲しいときに起こらず、起こって欲しくない時に物事と言うのは起こるらしい。



『気球より報告、不明の艦隊を発見』



そう、艦内放送の拡声器が声を響かせた。


……。


実戦の空。


とはいえ、任務は只の偵察だ。


偵察を行い、記録し、攪乱の為に銃を敵艦隊に向け散発してから帰還する。


「敵艦隊視認。軍旗確認、唐海軍と認む。全八隻、陣形は単横陣」


全くもって楽な仕事である。


さて、出ている飛行隊の他の三機と共に、銃の用意をする。


「撃ち方用意……始め!」


唐海軍 東洋艦隊及び北洋艦隊 旗艦 趂遠


「あれはなんだ!?」


「鳥か?」


「でも羽ばたいてないぞ?」


「未確認の空中の物体、全部で何個存在する?」


「ええと……イー、アール、サン……八個です。また、敵の気球と思われるものも確認できます」


「主砲でも小口径砲でも何でもいい。撃ってみろ」


「当たるかどうかは分かりませんが……」


「当たらなくても良い。撃ってどのような行動をするかが見たい。もしあれが敵の新兵器であるならば、これから新たにそのようなものの開発を急がせなければ……」


「空中の物体、発砲しているようです!」


「そんなの分かっている!すぐに砲で撃ち返せ!」


「は、はいぃ!!」


第一航空戦隊飛鶴所属 海軍第二一航空群 第二〇一飛行隊 隊長 相坂


「撃ってきた……でも射程からするとまだこちらの艦隊には届かないはず……狙っているのは自分たちか?」


しかし全く届いている様子はない。


ふむ……、よし。


自分は自らの機体を揺さぶり、他の機に帰還を促した。


これが歴史上初の飛行機による偵察と戦闘となったのであった。


……。


臨時瀬保基地所属艦隊 飛鶴


「やはり唐国海軍か……で、陣形は単横陣と」


「はい。速度はおよそ12ノットほどです。彼らの船の諸元から見ると、修理が完全には完了していない船を出してきている模様です」


「彼らももう単横陣の脆弱性に気付いたと思ったが……これは良いな」


「飛行隊はどうします?」


「再び発艦し、偵察を続行せよ。特に報告の必要性を感じたら帰還し、報告せよ。その必要がなければ、航空小銃による攪乱を続けろ。当たらないとは思うが、こちらと向こうの流れ弾には気を付けろ」


「分かりました。では、再び発艦の準備をしてきます」


「応。さて、前衛の戦艦もそろそろ戦闘範囲に突入する頃か。こちらは四隻、向こうは八隻。しかもこちらは副砲ほどの単装の小口径砲を二基二門しかない空母が半分の二隻。群鶴の援軍は間に合うか……?」


そんなことを司令がぶつぶつ言っている間に、自分は再び空に発つ準備をする。


低音で唸りを上げる機関。


頬に感じる潮を含む風。


少し油臭い機体。


鳥々の群れ。


眩い日光。


たった数十分離れていただけなのだが、それでも空の全てが懐かしい。


戻って来た空には、既に先客がいた。


千鶴所属の第一〇一航空隊だ。


因みに今までの飛行試験や訓練で全ての「最初」を担った自分だが、初の航空隊、それはおろか、初の空母千鶴にさえ所属にならなかったのは、千鶴に所属する殆どが「貴族」の連中であるからだ。自分は農民の出だ。


千鶴の僚艦である戦艦香椎は多くの熟練の水兵を抱えているが、千鶴に於いては司令と艦長、副長、そして機関関係員以外は全て「貴族」のボンボンばかりだ。


正確には、跡継ぎにならない次男坊、三男坊が殆どである。


それも融通の利かない、でもでもだってを言いたがる奴らである。


現在の政治を担っている旧長島藩や旧冴妻藩など、武系の貴族、華族の人間は駄々をこねたところで本家から冷遇を受けるのでまともな連中が多い。


そんな彼らも元は千鶴にいたのだが、「話が通じない」「空気が違う」と、司令なども公認どころか命令で、操縦士はもとより、整備士含み数名がこちらに流れている。


その為、飛行隊は四人一組だが、千鶴の飛行隊は早風の飛行隊が一、太刀風の飛行隊二の三つで予備機含め十二機、飛鶴の飛行隊は早風の飛行隊二、太刀風の飛行隊二の四つで予備機無しの十二機である。


もとは千鶴所属の武系の貴族筋で固められた一個飛行隊が飛鶴に移ったのである。


そんな彼らも今は甲板で待機し、暇を持て余しているのだろうが。


閑話休題。


貴族のボンボンで固められた飛行隊の操縦士達は基本的に目立ちたがり屋の危ない飛び方ばかりする。


未だ死者は出ていないが、いつか死人が出るとは思う。全く以って彼らと同じ船に乗らなくて良かった。


今も彼らは危険な飛び方をしている。


ぎりぎり捕捉できない程度の速度と距離で敵艦隊の周りを飛んでいる。


彼らの後ろのあたりには届きそうで届かない銃弾や砲弾の水柱が立っている。


「撃ち方始め」


優雅に戦場を遊覧飛行とはいかないので、自分も敵艦隊に対して機に付けられた銃を、機体と共に向け、放つ。


清々しい破裂音が海の上の空に再び響く。


これから放たれたものが水柱を上げている限り、どうやら敵艦には当たっていないようだ。


照準を敵艦に合わせようとするが、それを確実にするまでに敵艦に近づきすぎてしまい、とても危険だ。


主砲や副砲程度なら当たることはないが、対海賊用の銃火器なら対応が比較的に速く、当たってしまえば落ちてしまう可能性が高い。


せめてその射程の範囲には入らないようにしたい。


特に、艦の間を縫うように飛行する場合は、細心の注意が必要だろう。片方の艦に気を取られていては、もう片方の艦に撃たれかねない。


そのような安全性を考え、単横陣を取る敵の艦隊の端の艦から撃っていく。


「あいつら……」


そんな中、敵の中央あたりにいる旗艦に攻撃をしようとする千鶴の搭載機からなる飛行隊に思わず声が漏れる。


目立ちたがり屋どもは旗艦を沈めたいらしい。


確かに航空小銃は陸のイチサンよりも威力が高く、木造家屋や木造船なら破壊できるが、鉄甲船にはそんなに効果は無い。


船乗りたちを幾人か殺すことはできても、船の損害としては少ないだろう。


船を確実に沈めるには、砲弾くらいの爆弾でも落とすしか……、爆弾か。


こういう案も整備士達や司令などと相談すべきだろうか。


「照準器に捉えた」


撃つ。


すると敵の艦の甲板に当たり、ほんの少しだけ、弾かれたような甲高い音が聞こえた。


自分の飛行隊は目標が船だった場合には、何らかの影響が船に当たるか、四度目の攻撃が終了するまでは同じ目標に対して攻撃することにしている。


その為、飛行隊の仲間も同じ船に対して攻撃している。


自分が当てた銃弾の他に、二回ほど甲板に当たる甲高い音が聞こえた。


「それぞれ次の攻撃は敵を通り過ぎるから無理か……」


飛行隊の機はそれぞれ第四波目の攻撃を終え、自分はもう一つの端の艦に対して向かい、その艦を攻撃することにした。


向かう途中、未だ敵の旗艦と思しき艦に対して、先と同じ飛行隊が攻撃しているのが見えた。


「……」


もはや溜息も出ない。


気にせずに戦闘を行うしかないなと、機の速度を上げる。


唐国の軍艦は旧型であり、ほぼ全ての砲熕兵器が前方に配置されている。


特に唐国の艦隊から見て前方にしか敵が存在していない場合、基本的に後方の自衛兵器に配置をわざわざ置くことはない。


そのため、唐国の艦隊の後方を飛べば、比較的安全に移動することが出来る。


そして、反対側の端の艦に対して攻撃を仕掛ける。


「撃て!」


唐国海軍 単横陣右翼 最右端 連捷


カァン!カァンカァン!!


「空のあれらは一体何なんだ!?」


「分かりません。しかし、空から銃撃されていることは確かです」


「クソゥ……実害はまだ殆ど出てないが、これだと何れ兵器が壊れかねないぞ!」


「またやって来ます!」


「回避!面舵を取れ!」


「回避!面舵一杯!」


カァン!


「今回は一発だけこの船に当たったのか?」


「見張り員が一人当たりました!」


「船に被害は!?」


「特にはありません!」


「当たった水兵はとっとと医務室に連れ行け!」


「分かりました!」


「僚艦の撰寧より信号!すぐさま戦列に戻れとのこと!」


「そんなのは無視して良い!船を沈めないことが第一だ!」


「りょ、了解!」


「艦長、砲撃可能な範囲から外れます」


「あとで再び戦闘圏内に入ればいいだけだ。一時的に空の奴らから退避してから対艦戦闘に移れ」


「分かりました。一時的に戦線を離脱します」


「それでいい」


唐国海軍 連捷僚艦 撰寧


「連捷、戦線を離脱していきます」


「あ奴らは何をしとるんだ?」


「恐らく、敵の空の物体からの攻撃を躱すために回避行動をとっているのかと」


「あれらは何かわかるか?」


「空のやつですか?」


「そうだ」


「いえ……見たことも聞いたこともありません」


「そうか……」


「あの空の物体、こちらに来ます!」


「連捷を戦線から離脱させたからか?まあいい。第一砲塔はそのまま対艦攻撃を続けろ。第二砲塔は空の物体を追い払え!」


「分かりました。第二砲塔、回せ!目標、空の謎の物体!当てなくても良い!追い払え!」


「了解!第二砲塔、目標、空の物体。撃て!」


砲が轟く。


「該死!ちょこまかと!」


上空を遊覧飛行するそれは一機たりとも堕ちやしない。


「当てなくてもいい!追い払えたら良いんだ!」


「でも追い払えません!」


すると聞こえる銃弾が甲板に跳ねる音。


「空の奴は銃を撃っていたのか!?」


「あれで連捷は戦線から退いたのか……って、連捷はまだ戦線復帰しないのか!?」


「まだです!連捷は未だ戦線に復帰する様子はありません」


「あの腰抜け共……もし戦闘後に両方が生き残っていたら、艦長から木端水兵まで全員細切れにしてやる!」


この艦の艦長が吐き捨てた暴言の後、その艦全体に轟音が響く。


燃え上がる火柱。


「なんだ!?被弾したのか!?」


「被害報告せよ!」


「第一主砲と第二主砲の間に被弾!両砲塔に被害あり!両砲、発砲が不可能となっています!復旧には時間が掛かります!」


「ま、また撃ってきた!」


「回避!回避ぃいいいいいい!!!」


後に残されていたのは、沈む撰寧の姿であった。


この後、唐国海軍は飛行機に集中力を奪われ、結果、かなりの数的優勢にあった状況で、彼らにとっての敵、大浜綴帝国海軍を一隻も沈めることも、飛行機を一機も落とすことは叶わず、この海戦に投入した戦力である八隻の軍艦の内、一隻が沈没、一隻が中破、三隻が座礁し行動不能、そして残り全ての船舟ですら、小破の被害と言う、後に唐国は全ての情報を遮断するほどの大敗を喫したのであった。

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