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9/22

~リッチなお坊っちゃま,お嬢様ほど親を大切にするものだわ~

戦国時代の武将はアニメではスタイリッシュでカッコいいイメージだが、昨夜の’殿‘は若い命を懸けなければならない理不尽な運命の時代を格好をつけること無く覚悟をもってしっかり生きていたと、キキョウは体験から知ることができた。


彼はあれから戦の準備をしたのか、もうどこかへ出発してしまっているのか、いずれにしても相手に勝たなければ幸せも自分の生命さえも無くなるような時代を、彼なりに精一杯生きるしか選択肢がなかったことがとても恐ろしい社会に感じられた。


‘殿’はキキョウに、もし自分が戻らなかったら実家に戻るようにと言っていたことから時代劇映画のように身内が戦で負けても妻たちまで自害しなくていいのだと知ったが、

自分がラスボスである’殿‘は逃げ出さず、あるいは逃げきれず、自分の命をかけて戦っているのだということもわかった。


おそらく彼は産まれたときから’殿‘であり、兄弟姉妹はみなお坊っちゃまとお嬢様で、親のお陰で庶民よりずっと学ぶ機会も多く衣食にも困ったことは無かっただろうが、そんな生まれゆえに過酷な環境が与えられながらも凛とした大人に育ったのだろう。


昨夜の‘殿’の優しい声と、彼の胸に引き寄せられたときの痩せた力強い腕の感触が忘れられず、キキョウはもう二度と会えないかもしれない相手に恋をしてしまったことに気が付いた。


今朝は父と母がゆっくり話をしながら食事をしていたので、サッとミルクを飲んでお弁当を持ち玄関から飛びだした。


いつものバスの中には気になる男の子は乗っていなかったのだが、今朝のキキョウは図書館で同じ本を借りて今夜もあの’殿‘に会いに行くことばかり考えていた。


45分だけの昼休みはひとりで父が作ってくれた茶色いお弁当を5分で食べ終え図書館に急いだのだが、どうしても昨日の本を見つけることは出来なかった。


キキョウは豊臣秀吉の時代の能舞台と花見の絵を見つけたので何枚か写メって、今夜は舞いを披露している女たちの一人の生活を覗いてみることにした。


~~~~~~~~~


お香と花の匂いが混じったような少し温かな風が前髪をとかすのが心地良く、前の女たちに遅れないように続いて舞いを終わった歩みを舞台から降りる階段に進めていくキキョウは、自分をじっと見つめている武将の視線に気がついた。


他の女たちがやっているのを真似て頭の飾りや上に羽織っている着物を脱いで軽くなった後、みなそれぞれ違う和室に連れていかれ、キキョウもひとりで座ってしばらく待っていると舞台を降りるとき自分をじっと見つめていた男が入ってきた。


父くらいの年齢かそれよりは少し若いくらいのその男はどう見ても中年で父より色が黒く痩せて大きい目で微笑んでいる。


‘名はなんだ?’

’キキョウです…‘

‘酒はもう充分飲んでおる、気遣わないよう’

’お水いりますか?‘

‘舞いを見た後にすることをしに来ただけだ’

’?’

’キキョウは朝まで居ても良いがわしは終われば帰る‘

‘!’


キキョウの思ったとおり、武将達は舞いを見たあと舞台で踊っていた女の中から好みの者を選んで性的なサービスをさせるのが通例なのだ。


あらかじめ布団が引いてあるわけでも無かったこの板間の部屋に横たわるのは痛そうだなと逃げ腰のキキョウを、その中年武将は優しさのかけらもなく力まかせに掴んで倒し、どんと配慮無く自分の体重をかけてきて動けないようにしておいて着物を無理やり剥ぎ取っていく。


酒臭い息でキスをしようと顔を押さえられたキキョウは、こんなオッサンになんでよ…!と思った瞬間、

これまで出したことが無いような大声をあげてこのシチュエーションからの即時離脱を強く強く望んだ。


























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