~貞淑なのは女ではなく衆道の男だった訳は?~
父親ほど年上のクサい中年男とキスするなんて気持ち悪すぎて、無理だと叫んだキキョウの昨夜の夢は思い出すだけで吐き気がしてくる。
お金のためにパパ活とかあり得ない派のキキョウにとってはかなりインパクトの強い体験となってしまった。
今になって落ち着いて思い出すとキキョウたちが舞いを終えて席の方をみた時、武将たちが女ではなく小中学生くらいの顔立ちや着物がとても美しい男の子を連れていた席がいくつかあって中には仔犬を可愛がるように膝にのせてキスをしている中年男までいた、それが、ものすごく気になっている。
歴史に詳しい数学講師の父に、出来るだけイヤらしくなく聞き出す方法をキキョウは頭のなかで巡らせた。
‘おはよ’
’今朝は早いな‘
‘織田信長のさ、隣に描かれている黒人とか綺麗な着物の少年とか、誰だか知ってる?’
‘弥助と森蘭丸だろ’
‘名前、わかってるんだ’
‘弥助は宣教師の護衛役の奴隷だった黒人を信長がもらったのさ’
’黒人てさ、屏風とかにも描かれてるよね‘
‘本能寺の変でも光秀に殺されずに生き残ってな’
’蘭丸も?‘
‘蘭丸は本能寺の変でキキョウと同じくらいの歳で死んだはずだな、美男子で聡明で剣豪だったとされる信長付きの秘書で執事で愛人だな’
’最後の何よ、愛人てとこ‘
‘女は何回も結婚するし子供も産むし性病も怖いからさ、8歳くらいから気に入った男の子を自分専属と決めてずっと側におくのさ’
’小さい子が自分がトランスジェンダーかどうかわかるの?‘
‘LGBTじゃない、権力者からの強制だよ。でも誰よりも主から信頼されている少年という立ち位置だな’
’8歳とか無いわ、キモかっただろうに…可哀想過ぎる…‘
‘いや、破格の待遇過ぎて、彼の親はラッキーとしか思わないぞ、他の家来たちからは羨望と妬みの対象だよ’
’たかが仕事に生命もエッチも差し出すなんてひどいじゃないの‘
‘戦国武将の妻なんかは何度も結婚するものだったんだ、信長の妹のお市は再婚で徳川二代将軍秀忠の正室になって、お江は三度目の結婚で徳川家光を産んで権力者になった‘
‘わぁ…’
また、当時の日本では寺社や公家や武家の間で当然のこととして‘衆道’といわれる男色文化が浸透し世間的に認知されていたのだが高校歴史で習うことがないキキョウにとっては驚きでしかなかった。
10歳前後から天下の権力者の稚児として性的対象にされていた男の子なんておかしいし、しかも、そのことを親も喜び、周りの者たちは羨ましがるなんて…。
蘭丸は本当に幸せだったのだろうか、と、キキョウは複雑な気持ちになった。
図書館の戦国時代の資料本は、やはりいくら絵のあるページを探してみても、あの素敵な’殿‘と会えたシーンの絵はどこにも見つからなかった。
仕方なく戦国時代の立派な屋敷のオープンな廊下に美しい着物の4人の女と女中らしき3人の女が並んでいて、正面右に建っている大きな部屋の奥に座っている綺麗に着飾った男の子の方を見ている解説の無い絵のところで、ふとページをめくる手が止まった。
この奥の美しい男の子は稚児なのかも、と思ったキキョウは、早速今夜その中のどの女を体験しようかと考えながら女たち一人一人の様子を詳しく見ていった。
結局その中のひとりで後ろ向きに立っている美しく髪を結った、キキョウの一番好みのタイプの色柄の着物を羽織っている細目の女に決めて、写メをとって本を棚に戻して図書館を出た。
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‘さあキキョウ、あなたがフジスケと会えるのはこれで最後なのだから’
’え?‘
‘お話してくればよいですよ、弟さまと’
’…‘
‘まだ9歳ですけれど美しくて聡明なフジスケさまのことですから、殿の小姓としてもさぞやご立派に…’
’稚児として?‘
‘…、キキョウ、奥へ、さあ’
’私は先に殿のお側に上がって姉上たちをお待ちします‘
‘フジスケさまは御立派で何よりですよね、キキョウ’
’可愛らしい美男子の5歳のツルマスさまもそのうちに…‘
10歳くらいから大人の男の夜の相手をさせられるとはなんという時代なのか、と、美男子に生まれた男の子たちが気の毒になったキキョウは、今夜は自分の身には男女的な体験は無くてよい、と思えて、外の月も暗い部屋に揺れるオレンジ色の灯りも綺麗なので素直に空間芸術の世界の作品の一部のようにしみじみと浸っていた。
ところが、やはり、夜も更けて夕闇から暗闇へと時間が過ぎると、キキョウがいる屋敷の中もどうも怪しい気配がしてきた。
開けっ放しのあちらこちらの部屋から男女が抱き合う声や気配がしてきたのでそっと耳を済ませていると、突然どこかからか男がこの部屋にもやって来て灯りを吹き消したと思ったら直ぐキキョウを着物ごと押し倒し、そのまま帯をほどこうとしているがわりとモタモタしている様子でなかなか脱がされなかった。
…暗くなると必ずヤるなんて、スマホもゲームもラインも何にも無いような時代の若いコだもん仕方ないのかも…などと、男が恋人でなく誰なのかも薄暗すぎて分かりにくいだけでなくもう、ほとんど気にならなくなっていた。
逃げるわけでも協力するわけでもないキキョウは、もたもたと帯も着物ももつれさせてなかなか脱がせてくれない男の髪型を見つめながら、これってチョンマゲなのかな、1cm以下の短い毛は剃らないままでいいのかな…、
などと考えているとそのうちに急に眠くなってしまい、目を閉じるとそのまま、朝自分のベッドで目覚めるまで意識はなかった。
キキョウは昨日も今朝も目覚めがボンヤリとしていて、ベッドから起きてもしばらくは寝たまんま夢の中にいるような妙な感覚が強く残っていることから、’この夢を見ている間は自分は全く寝ていないってこと?‘と、誰にも聞けない質問をしていた。




