実験体
「う……上だぁ―――――――っ!!」
上空の魔方陣から、一斉にドラゴニュートが降ってきた。
全身を光沢のある黒い鱗に覆われ、大きく裂けた口からは鋭い牙が覗いている。
縦長に開いた金色の瞳孔が、まるで降り注ぐ流星群のように煌めいていた。
「に、逃げ場がねぇ!」
「か、壁を背にするぞ! 全員でこっちを叩け!!」
桐谷が大声で叫ぶ。
だが、その瞬間、まるで桐谷をあざ笑うかのように、目の前に魔方陣が並んだ。
「クッ……!」
そうしている間にも、空からドラゴニュートが降ってくる。
わずか数分にも満たない間に、この部屋は地獄と化した。
「上等だ……ぶっ潰してやる!」
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HP:94(+2444)
MP:1033(+8548)
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憑魔:ブネ
・魔素執刀
切開、切除、縫合、思いのまま(MP1000/時間)
・再構築
ブネ家所有の実験体を場に再構築する(MP300/体)
・■■■
現LVでの使用不可
・■■■
現LVでの使用不可
・■■■
現LVでの使用不可
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よし、俺のMPはほぼフルで残っている――。
ぶっつけ本番だが、ブネのスキルでこっちの頭数を増やす!
『全員どいてろぉ! ――――再構築!!!』
そう叫んだ瞬間、場に複雑な多重魔方陣が展開された。
「な……なんて美しさなの……この魔方陣は⁉ い、いったい」
モリーナが呆然と立ち尽くす。
『――実験体が私の実験体を呼ぶか……ククク、面白い』
ブネの声が聞こえた。
魔方陣から現れたのは異形のキメラだ。
獅子の頭部、竜の身体、大蛇の尾、それだけではない、昆虫の身体を持つ者もいるし、全身が軟体のような化け物までいた。
「これがブネの実験体……」
『さあ、遠慮は要らぬ! 思う存分使ってくれたまえ、私の最高傑作たちを!』
「よし……お前ら、好きなだけ喰らいやがれ!」
再構築した20体が、一斉にドラゴニュートに襲い掛かる!
獅子頭のキメラが腕を振ると、ドラゴニュートの頭が簡単に吹き飛んだ。
回復する間もなく、隣に居た軟体生物が胴体を取り込み消化してしまった。
また一方では、全身が剣に覆われた山嵐のような、最早生物らしさの欠片もない実験体が上空に飛び上がり、ドラゴニュート達を串刺しにした。
圧倒的なまでの力……そこら中で断末魔が飛び交う。
あれほど手こずっていたのが嘘のようだ……。
最早、ドラゴニュートは実験体達の捕食対象でしかない。
「ひ、ひぃぃ! 何だこの化け物は⁉」
「に、逃げろ!」
「せ、瀬名! 何だこれは⁉」
桐谷が俺に向かって叫ぶ。
「まあ、そこで大人しく見てろよ」
石像の持つ宝珠が光る度に、ドラゴニュートを召喚する魔方陣が展開されている。
「まずは、あれを潰さねぇとな……」
『――魔素執刀』
視界が赤く染まる。
こりゃすげぇ……さすがレベルSダンジョン、魔素濃度が桁違いだ。
――俺はイメージする。
強く、鋭く、しなやかで、何物をも切り裂く……剣を。
イメージに合わせて、俺の手に集まった魔素が剣の形となり凄まじいオーラを放った。
「な、何だその剣は……お前は一体……」
「ククク……桐谷、お前がそんな顔を見せるとはな」
石像に向かって飛び、俺は宝珠を一閃する。
赤光の筋が走り、宝珠は二つに分かれた。
「オラオラオラ―――――ッ!!」
その勢いで無茶苦茶に切り刻むと、石像は崩れ落ち、ドラゴニュートを生む魔方陣も消えた。
「よぅし、後は残党狩りだ! ぶっ殺せ!!!」
俺の言葉で、メンバー達の目に光が戻った。
「う、うぉおおおおーーーー!!!」
状況は一変し、攻撃に転じる。
全員で残ったドラゴニュートを狩りまくる。
最後の一体は俺が真っ二つに切り裂き、ご褒美代わりに軟体生物にくれてやった。
*
「ヤベぇぞこりゃあ……地獄かと思ったが天国だ!」
そこら中に散らばる魔石を見て、石丸さんが鼻息を荒くする。
「見ろよ⁉ この魔石の美しさを……かぁ~竜系はやっぱモノが違うぜ!」
「全部一緒に見えるけどね」
「おいおい、まったく、戦闘以外はまるで駄目だな……」
石丸さんが信じられないという目で俺を見る。
「そうですかねぇ……」
その時、桐谷が近づいてきた。
「一応、礼は言っておく……」
「……そりゃどうも」
しばらくお互いに目を逸らさずにいた。
崩れた石像の前にいたメンバーから声が上がった。
「桐谷部長ーっ! 通路があります!」
二人で駆け寄ると、残骸の向こうに奥へと続く通路が見えた。
「よし! 石をどけろ! 準備が整い次第、奥へ進むぞ!」
「「はいっ!」」
*
洞窟を覗き込むスナイダーがニヤリと笑った。
「見つけたぜ……、おいクロ、泉堂にメッセージを入れろ、『ちょっとスナイダーさんと遊んできます』ってな」
「ちょ、無茶言わないでくださいよ! あの桐谷もいるんですよ⁉」
そう言った瞬間、黒田の身体が浮く。
「チチチ、わかってないねぇ……、日本にいるS級は全部で9人だ。その内、泉堂、宮應はいない、クレディの鵜九森もいない、アヴァロンの3人もいない、なら、中にいるのは何人だ? Am I making sense?」
「く、苦しいっす……」
「な? 桐谷兄弟と、九人目のガキだけだ」
黒田がスナイダーの手をタップすると、スナイダーがポイッと手を離した。
地面に落ちた黒田は喉を押さえて咳き込む。
「オホッ! オホオホッ! ど、どういう意味っすか……?」
「たかが日本のS級が三人だろ……? OKOK、何も問題ない、俺なら全員潰せて皆ハッピーってことさ」
スナイダーは笑って肩を竦めた。
「もう嫌……誰か助けて……」
黒田が天を見上げ、小声で呟いた。




