レベルS
紫がかった空、冷たく湿った空気が意識を覚醒させる。
隊列を組み、朝露に濡れた木々の中を進んでいくと、切り立った岩壁に空いた洞窟に辿り着いた。
先頭に立つ桐谷が声を上げた。
「ポイントに到着! 各自、最終確認を行うように!」
「いよいよだな……昨日はあまり眠れなかったんじゃねぇのか?」
石丸さんが荷物の中を確認しながら言った。
「大丈夫です、鼾は途中で慣れましたよ」
「ありゃ……やっぱ、うるさかったかぁ……すまんな、へへへ」
「これいいよな~、こんな高級品配るなんて金曜会は気前が良い」
そう言って、石丸さんは嬉しそうに、紺色のボディスーツを撫でた。
若干、サイズが小さい気もするが、本人はジャストサイズだと言い張っている。
「確かに、全然寒くないですし、動きやすいです」
俺の方は黒で、肘や膝にガードが付いている。
いずれ買おうとは思っていたので、ちょっと得した気分になった。
「確認を終えたら、各自振り分け通り、五人一組になれ!」
「えっと、どれどれ、俺達は小鳥遊くんと瀬名くん、後は桐谷氏とモリーナって人……で、俺は戦闘が始まったら後方待機か、よしよし」
専用端末を見ながら石丸さんが頷く。
まさかモリーナさんと同じ班になるとは……。
正直、気まずすぎるんだが。
「さ、桐谷さんのとこに行きましょうか?」
いつの間にか後ろにいた小鳥遊が、遊びにでも行くかのように俺の袖を引いた。
「あ、ああ」
洞窟の入り口前に、ボディスーツ姿の桐谷とモリーナが立っていた。
桐谷は濃い紫色、モリーナは臙脂色だ。
こうして見ると、美男美女で絵になるな。
「おはようございます……」
挨拶をすると、モリーナが俺を見て、
「あら、縁があるわね?」と意味ありげに微笑んだ。
「ど、どうも……」
もう騙されないぞ、昨日のも桐谷の命令っぽいし……。
案の定、桐谷が俺を見て、わざとらしく笑う。
「おやおや、いつの間に仲良くなったのかな? 瀬名くんも隅に置けないね」
「ホントだぜ、あんな美人と……どこで知り合ったんだよ?」
「い、いや、それはまた今度……」
食いつく石丸さんをはぐらかしていると、桐谷が鼻で笑い、
「二人の馴れ初めは討伐後にでも聞かせてもらいましょう。さ、私達の順番です、遅れないように」と言って、洞窟に向かう。
「俺達も行こう、石丸さん」
「あ、ああ……」
俺達は桐谷に続いて、真っ暗な洞窟に足を踏み入れた。
*
洞窟の中は真っ暗だった。
先に入った班の灯りが遠くに見えている。
「モリーナ、光を」
「了解しました」
『――光球』
ポゥッという音と共に、モリーナの手の上に、片手で掴めるくらいの光の球が現れ、そのまま頭上に浮かび上がった。
「おぉ~」
「明るいですね」
「ふふ、魔術師としては、このくらいはできないとね」
モリーナさんは魔術師だったのか。
ここにいるってことは、高レベルなんだろうな……。
道は狭くなったり、よじ登らなければ進めない場所があったりと、かなり入り組んでいた。
一時間程かけて奥へ進んでいくと、突然、広い場所に出た。
「あ、あれは……」
今まで見たポータルとはまるで違っていた。
横に長い楕円形……現実とポータルの境界線は赤く輝いている。
中心に広がる闇は、マーブル模様のように赤と黒が入り交じっていた。
この、脳が締め付けられるような感覚――。
かなりの魔素濃度だ……。
ポータルの側には、先に到着していた班が待機していた。
桐谷はポータルの前をゆっくりと歩きながら、
「流石にレベルSを見るのは初めてだろう? ポータル突入は我々が一番になる」と言った。
「え……」
「この中で最高火力を持つのは私の居る、この班だからね」
桐谷が念を押すように俺を見た。
「……S級は俺と桐谷さんだけですか?」
「いや、弟もS級だよ。本当はこの班に入れる予定だったんだが、藍莉が君に見られたくないと駄々を捏ねるものでね……まったく、我が儘放題さ」
そう言って、桐谷は肩を竦めた。
「……」
いちいち鼻につく奴だ……。
「突入前にウチの支援術師達でバフの重ね掛けを行う。中で戦闘になった際は、私の指示に従ってもらう。いいかな?」
「……わかった」
桐谷は辺りを見回す。
「よし、では全員揃ったようだな……、確か瀬名くんは憑魔をしないと戦えないんだったね? まず、入った瞬間のアタックを警戒しておこう。私とモリーナ、小鳥遊くんは前衛、石丸さんは後ろ。憑魔が済み次第、瀬名くんは小鳥遊くんと交代だ」
「わかりました!」
小鳥遊が元気よく答えた。
「了解しました」
「わかりました、なるべく急ぎます」
桐谷は頷き、ポータルの前に立った。
ゆっくりと皆の方に向き直り、全員を見た後、口を開く。
「いいか! これは挑戦だ。金曜会の長い歴史の中でも、これほどの少人数でレベルSに挑んだ者はいない! 諸君は選ばれた! この時代に生きる覚醒者の中でも、ほんの一握りの者だけがここに立っている……。総勢50名! 吠えろ! 猛々しく吠えろ! ここに弱者はいない! 名を上げろ! 己を示せ! 立ち塞がる者全てを――掃討せよ!」
「「ウオオォォォ―――――――ッッ!!!!」」
洞窟内が震えた。
凄まじい熱気、熱量、石丸さんまで雄叫びを上げている!
悔しいが、あいつの言葉に……俺も少し高ぶってしまった。
見てろ……憑魔の力で一泡吹かせてやる!
「行くぞ!」
桐谷とモリーナ、小鳥遊に続き、俺と石丸さんもポータルをくぐった。




