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世界最強の憑魔術師に覚醒したので第二の人生を楽しみます!  作者: 雉子鳥幸太郎
二章

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討伐前夜

 テーブルに料理が運ばれてきた。

 どこから手を付けて良いのかわからない。


 近代芸術的造形の前菜だ。

 野菜……なのか? 材料が何かすらピンと来ない。

 どうしたものかと躊躇していると、隣で石丸さんが前菜をパクッと丸呑みした。


「えっ⁉」

「ん? どうした?」

「あ、いや……別に」


 俺も前菜を思い切って口に入れる。

 あ、野菜……大根か?

 うん、シャキシャキしてうまい。


「せ~なっち!」

「ブホッ⁉」


 突然、後ろからハグされる。


「あはは、ごめんごめん」

 振り返ると藍莉が笑顔で立っていた。

 フォーマルなスーツ姿だが、相変わらずどう見ても男には見えない。


「藍莉……」

「瀬名さん、誰ですかこの女は?」

 何故か小鳥遊が不機嫌そうに言った。


「あら、貴方こそ誰かしら?」

 肩までの黒髪を耳にかけ直すと、ミントベージュのインナーカラーが見えた。


「まあまあ、二人とも落ち着いて。それと小鳥遊、信じられないかも知れないけど……藍莉は男だよ」

「「えっ⁉」」

 小鳥遊と石丸さんが同時に驚く。

 藍莉はニッと笑って、

「ボク、藍莉。よろしくね♥」と二人にウィンクをした。


「ま、マジかよ……信じらんねぇ……」

 石丸さんがあんぐりと口を開けている。

「ですよね、俺も最初は信じられませんでした……」

「でも……た、例え男であろうと、貴方は瀬名さんに馴れ馴れしくしすぎです!」

 小鳥遊が顔を紅潮させて食い下がった。 


「あれー、もしかしてヤキモチ焼いてるのかなぁ?」

「なっ⁉ ぼ、僕はヤキモチなど……!」

「ふぅん、じゃあこういうのも平気?」

 そう言って藍莉は席の間に入り込み、俺の膝の上にちょこんと座って抱きついてきた。


「あ、藍莉⁉」

 な、なんて華奢な……それに良い匂いがする……。

 ハッ! いかんいかん! 相手は男……男。


「は、離れろ! 失礼だぞ!」

 小鳥遊が席を立ち、藍莉を引き離した。

「あれれー、本気で怒らせちゃった……」

 藍莉が苦笑いを浮かべたと同時に、後方の通路から桐谷が姿を現した。

 仕立ての良いスーツに均整の取れた身体、流石に鍛えられているとすぐにわかる。

「藍莉、そこで何をしている」

「あ、兄貴⁉ いやぁ……別に……」

 決まりが悪そうにして、スッと俺から離れる。


「桐谷さん、躾がなってないんじゃないですか?」

 突然、小鳥遊が桐谷に噛みつく。

「ちょ⁉」

 おいおい、それは言いすぎだろ⁉ ったく、こんなにハッキリものが言えるのに、何で池袋ポータルではあんな弱気だったんだ?

 俺は小鳥遊に小声で「やめとけって」と耳打ちした。


「弟がご迷惑を掛けたようで、申し訳ありません」

「弟さんでしたか……、あまり瀬名さんに馴れ馴れしいのは問題だと思いますよ?」

 忠告も聞かず、なおも食ってかかる。

 俺は仕方なく小鳥遊の肩を掴んだ。


「小鳥遊、気持ちはありがたいけど、それを決めるのは俺だろ? もうこの話は終わりにしよう、メインディッシュもまだだしさ」

「せ、瀬名さんがそう言うなら……」


 桐谷は、大人しくなった小鳥遊と俺を冷めたような目で見た後、

「では、ごゆっくりお楽しみください」と藍莉を連れ、その場を離れて行った。


 *


 ――その日の夜。

 石丸さんの鼾で目が覚めた。


「ズゴゴゴゴゴ……ズゴゴゴゴゴ……ズゴッ! フガッフ~……」


 工事現場みたいだ。

 凄すぎてちょっと心配になるな……。


 俺は浴衣の上から半纏を羽織り、部屋を出た。

 廊下はしんと静まりかえっている。


 一階のロビーに行き、自動販売機でホットココアを買った。

 ソファに座り、大きな窓から小さな間接照明でライトアップされた庭を眺める。


 明日は討伐か……。

 アスモデウス、アンドロマリウス、ブネ……、大丈夫、どんな敵にも対処できるはずだ。


「眠れないの?」


 振り向くと浴衣姿の女が立っていた。

 黒髪でエキゾチックな褐色の肌をしている。

 目鼻立ちはハッキリした顔立ちで、何よりも目を引いたのは、浴衣の上からでもわかるスタイルの良さだ。


「こ、こんばんは」

「礼儀正しいのね? モリーナよ」

 女が気だるい感じで、ドサッと隣に座った。


「瀬名と言います、よろしく」

「ふぅん……セナくんね、可愛い♥」

 ソファの背に凭れながら俺をジッと見つめる。


「あ……はは、あはは、やだなぁ、からかわないでくださいよ、えと……モリーナさんは金曜会の方ですか?」

「いいえ、私は違うわ。もっと自由なクランよ」

「自由?」


「そう、Free Raid(フリー・レイド)っていう登録制のクランなの」

「初めて聞きました……」

「でしょうね、いま私が作ったクランだから」

 悪戯っぽく笑い、俺に近づいてくる。


「モ、モリーナさん?」

「ねぇ、討伐前って身体が火照らない……?」


「い、いやぁ……どうかなぁ~、あは、あははは」

 浴衣から覗くすらっと伸びた美しい足が、薄暗い照明に照らされている。

 はだけた胸元からは、黒いレースがチラッと見えていた。

 やべぇ……なんて色気だ……。

 クソッ、悪魔と比べればこれくらい可愛いもんだ! しっかりしろ!


「警戒してるでしょ? 大丈夫よ、無理に襲ったりしないから」

 クスッと笑って、俺のココアを一口飲むと浴衣をはだけた。


「え⁉ ちょ!」


 俺の唇に人差し指を押し当てる。

 そのまま、俺はソファに押し倒された。


 前をはだけた浴衣の中で、美しい身体が蠱惑的な薫りを発している。

 モリーナさんが、俺の顔を覗き込む。


「シッ……、無理には襲わないわ。無理にはね……♥」

「モ、モリーナさん……」

「駄目、モリーナって呼んで?」


 も、もう無理なんすけど⁉

 いかんいかんいかん! これが金曜会のハニートラップならどうすんだ⁉

 しっかりしろ俺!


「ふふ……」

 首筋にキスをされた。


「ふわ……」

 ヤバい! 完全に身体が反応してしまっている!


「Quero ficar a noite toda com você(今夜はあなたといたい)……」

「へ?」

 モリーナさんが耳元で何かを囁く。

 手首をソファに押しつけられ、俺は両手を上げた状態になった。

 逃げようと思えば逃げられる……。

 頭ではわかっていても、モリーナさんの瞳から目が離せなかった。


 俺の反応した部分を見て、

「大丈夫、すぐに楽にしてあげるから……♥」と妖しい笑みを浮かべた。


 ヤバい……これ駄目なヤツだ! ヤバいぞ!!


「……瀬名っち?」


 一瞬で現実へと引き戻される。

 慌てて起き上がると、浴衣姿の藍莉が怪訝な顔でこっちを見ていた。


「あ、いや……その……」


「モリーナ、これはどういうつもり?」

「やだ、怖い顔しないで? じゃあ私はこれで、ま・た・ね、セナっち♥」


 モリーナさんはそう言うと、部屋に戻っていった。


「あれ、二人って知り合い……なの?」

 藍莉は大きくため息をつき、

「瀬名っち、あれはボクんとこのメンバーだよ。良かったね、何も無くて……」

 呆れ顔で、俺の反応した部分を指さす。


「ぬぉあっ⁉ こ、これは……」


「ったく、明日早いんだから……もう寝なきゃ駄目だよ?」

「あ、うん……」

 藍莉はやれやれと小さく頭を振りながら、ロビーを出て行く。


 もし、あのまま行ってたら……。

「あ、危なかったぁ~……」

 ぶるっと身震いをした後、飲みかけのココアを捨て、俺は自分の部屋に戻った。


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― 新着の感想 ―
[良い点] 検索したらポルトガル語ですか。 これを瀬名くんは理解できたのか? しかしこの冗談すらも、ゆくゆくは自分と仲間のためのクランを立ち上げるきっかけにでもなればいいかな
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