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世界最強の憑魔術師に覚醒したので第二の人生を楽しみます!  作者: 雉子鳥幸太郎
二章

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思惑

 ――MERRILL(メリル・) TRIAD(トライアド)日本支部。

 支部長室兼、泉堂専用の魔素(マナ)ルームが設置された部屋で、瞑想中の泉堂を緊張した面持ちで見つめる黒田の姿があった。


「失礼致します」

 事務方の青年が部屋に入ってくる。

 黒田は「代わりに聞こう」と、報告を受けた。


宮應(みやおう)副長が、突発型品川ポータル第411号の単独踏破に成功したとのことです」

「ああ、わかった伝えておく」


 青年が部屋を出て黒田が振り返ると、泉堂が魔素(マナ)ルームから出て来た。

「お疲れ様です、宮應さんが品川を落としたそうです」

「そうか」


 泉堂は白シャツのボタンを留め、ネクタイを締める。


「スナイダーは?」

「今は……品川のマンションで就寝中です」


「どうだ、アイツの子守は大変だろ?」

「あ、いえ……」


「で、今日はどうした? 何か私に用があったんじゃないのか?」

「はい、実は……ちょっと気になることがありまして……」

「気になること?」


 片眉を上げ、泉堂は黒田を見た。

 黒田は自分のバッグの中からタブレットを取りだし、泉堂に見せる。


「これは、ここ三週間の間に発生したポータルと、討伐参加クランリストです」

「……これが何か?」

「我々が討伐権限を持っていたポータルはいいんです。問題は……その他のポータルの参加者なんですが、明らかに金曜会とCREDIT(クレディ・) WISE(ワイズ)の討伐参加数が激減しています」


 泉堂を纏う空気が変わった。

 ひりつくような感覚に黒田の身体が強張る。


「興味深いな……」

「き、金曜会に至っては、直近一週間で稼働ゼロ、クレディワイズは魔石回収や資源回収を下請けに回している状態です。こんなことは今まで無かったので……、何か起きているのでは無いかと」


「よく気付いたな? 面白い」

 泉堂は席を立ち、後ろの棚からグラスを二つと、縦型のワインセラーからワインを一本取りだした。

「黒田くん、ワインは飲めるかな?」

「あ、はい……」

「結構」


 グラスを並べ、泉堂は白ワインを注ぐと、黒田にグラスを差し出した。


「MERRILL TRIADへ、ようこそ――」

「は、はい……ありがとう、ございます……」


 ――グラスが鳴る。

 黒田の全身から嫌な汗が噴き出た。

 自分は今の今まで、メンバーとすら思われていなかったのだと黒田は悟った。

 それと同時に、見返してやりたいという気持ちも湧き上がってくる。


「どうした? 赤が良かったかな?」

「いえ、問題ありません」

 黒田はグイッとワインを飲み干し、

「ご馳走さまです。では、自分はこれで失礼します」と、タブレットを取ってバッグに仕舞う。


 部屋を出ようとした黒田に、泉堂が言った。


「ああ、そうだ。スナイダーの子守は別の者を向かわせる。黒田、お前は金曜会とクレディワイズを探れ」

「……わかりました」


 *


 ポータルケアセンターの病室。

 GUILTY(ギルティ・) ROCK(ロック・) BROTHERs(ブラザーズ)遊馬(ゆうま)(エン)、そしてドレッドヘアの師匠(ししょう)の三人がルードの眠るベッドを囲んでいた。


 ミイラのように巻かれた包帯の隙間から飛び出たチューブやコードが、ベッド脇の医療機器に繋がっている

 全身骨折、内臓損傷、生きているのが奇跡……ここまでの状態だと、並の回復術師(ヒーラー)では癒やせない。


「ルード……」

 心配そうに呟く遊馬の頭を師匠が撫でた。


「皆、ルードの姿を見たな?」

 師匠は杖で床をコツンと鳴らすと、宙を見つめて言った。


「なら、俺から言うことは何も無い。それぞれが自分のやりたいようにする、それが俺達のやり方だ。今も、昔も、変わらない。もちろん、これからもだ――」


 師匠は指先で、そっとルードの身体に触れる。

 そして、小さく肩を竦めて皆に問いかけた。


「そうだろ、兄弟マイ・ブラザー? 何をやるべきか――、ここが全部教えてくれる」

 師匠が胸に手を当てた。


 *


 家に帰る途中、道端に停まっていた黒いSUVの中に、あの二人組の姿を見つけた。

 車のウィンドウが降りる。


「どうも瀬名さん、ご帰宅ですか?」

 確か、乾という男だ。


「あの、瀬名さん、もし良ければ……少し、車内でお話できませんか?」

「……ええ、いいですよ」


 近藤さんが降りてきて、後ろのドアを開けてくれた。


「ありがとうございます」


 後部座席に乗り込む。

 近藤さんが助手席に戻ると、乾さんが口を開いた。


「最近はどうです? 何か困ったことなど、我々が力になれることはないですか?」

「まぁ、瀬名さんに困ることなんて無いかもですけどねぇ、ははは」

「近藤、黙ってろ」

「……すみません」

 近藤さんがしゅんとして小さくなった。


 管理局か……。

 彼等なら、金曜会に睨みが利くのだろうか?


「あの……」

「どうしました?」

「管理局と金曜会……、どっちが上ですか?」


 俺の質問に、乾さんと近藤さんが顔を見合わせた。


「金曜会は強大な力を持つクランです。経済界、政界においてもその影響力は計り知れません。恥ずかしながら、管理局内でも息の掛かった部署があると聞きますが、監視課のように影響を受けない部署も存在します」


「じゃあ、乾さん達は……金曜会に逆らえるってことですか?」

「ええ、それが上の指示ならば」

「上が金曜会に圧力を掛けられたら……」

「ご安心を。ウチの課長はそんな柔じゃありませんよ」と、乾さんが微笑む。


 仮に……管理局に協力したとする。

 レベルSが出現すれば、必ず協力を要請されるだろう。

 生きて帰れる保証はない。

 ただそれは、どのポータルでも同じ事だ。


 問題は、彼等が金曜会に対する牽制になり得るかどうか……。

 そこを見極めないと、答えは出せない。


「では、その課長に会わせてもらえますか?」


 二人は驚いたように振り返った。

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― 新着の感想 ―
[良い点] おぉ自ら動き出した。 それが見たかったです
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