いざダンジョンへ
「あのダンジョンで、ボス以外の魔物を倒すとね、その魔物が持っていた魔石は、全てボスである『バキュラ』の元に集まるんだよ。言わば貯金箱だね。それを3年に一度回収しているというわけさ」
「不思議なダンジョンですね……」
「そうだねぇ……、だが、そのお蔭で、延々と湧き続ける雑魚を倒す場を、新人召喚師達に提供できるんだよ」
「なるほど……でも、なぜ3年なんですか?」
「3年を越えるとね、バキュラが強くなりすぎて、我々だけでは倒せなくなってしまうのさ」
「そうなんですね……」
「ところで、聞いた話だけど、瀬名くんはS級なんだって?」
「あ……はい」
「ふぁっふぁっふぁっ、君は運が良いねぇ……」
神様が突然笑い出した。
「ちょうどね、今月が3年目なんだよ……」
そう言って、神様が猫を膝から降ろした。
「石丸くんの紹介だしね……、君にボスを倒させてあげよう。悪いけど魔石は私がもらうよ?」
「は、はい! もちろんです!」
「じゃ、じゃあ、回収は俺がやっておきます!」
「うむ、じゃあ、二人で行っておいで」
神様はポケットから小さな鍵を出して、石丸さんに渡した。
「よし、瀬名くん、行こう!」
「はい!」
*
神様の住む本宅から広い裏庭に出た。
見ると、庭の真ん中に正方形の建物があった。
「あれがそうさ」
石丸さんが建物を指さす。
建物に窓はなく、ステンレス製の両開きの扉だけが付いている。
その取っ手には、レスラーが巻くようなぶっとい鎖が巻き付けてあり、馬鹿デカい南京錠で鍵が掛けられていた。
石丸さんが手に持った鍵で南京錠を外し、二人掛かりで鎖を解いて扉を開けた。
中は、打ちっぱなしのコンクリートで何も無い。
床にマンホールのような穴が空いていて、覗くと下に降りる鉄梯子が暗闇に向かって伸びていた。
「何か怖いですね……」
「わはは! 何言ってんだよS級が~! さ、降りたらもう入り口になるからな、心の準備はいいか?」
「はい、OKです!」
石丸さんは頷くと、鉄梯子を降り始めた。
*
下まで降りると、横に道が延びていた。
道の向こうにポータル特有の魔素の放出を感じる。
二人で入り口まで行くと、石丸さんが言った。
「さぁて、ここから俺は瀬名くんの後ろから付いていく。一切手出しはしないからな」
「はい、ありがとうございます、じゃあ行きましょう」
俺はポータルを潜る。
肌に抵抗を感じるような感覚……、魔素濃度が急激に上がった証拠だ。
先に憑魔をしておくか……。
「石丸さん、ちょっと憑魔しますから、待っててください」
「ああ、OKOK」
さて、アスモデウスで一気に殲滅するのも良いが……久しぶりにアンドロマリウスに会いたいな。
あれからどうなったのかも気になるし……。
『 ――ソロモンズ・ポータル!』
目の前に黒い穴が開く。
『――来い、アンドロマリウス!』
ポータルからスモークのような煙が吹き出す。
その中から、ゴスメイド服を着た黒髪の美少女がぴょーんと飛び出して来た。
『はわーっ! マスター! よくぞ、よくぞお呼び下さいました……うぅっ、もう呼んでいただけないかと……』
ぎゅーっと抱きついてくるアンドロマリウスを引き離す。
「わかった、わかったから落ち着いてくれ!」
『いいですよぉ……どうせ私は用なしですよね……』
そう言って、拗ねたように地面の砂を指で触る。
「ち、違うって……、そうだ! ほら、オルキデとはどうなった?」
『そ、それは……聞かないでください……』
青ざめた顔で俯くアンドロマリウス。
悪魔が青ざめるなんて、アイツ一体何を……。
「ま、まあ、色々あるよな、うん……」
するとアンドロマリウスは、スカートを広げ腰を落として礼をする。
『とにかく、呼んでいただきありがとうございます、マスター。お役に立てるよう頑張ります』
「あ、うん、よろしく」
『では……いただ……オホンッ! 失礼します』
アンドロマリウスが俺の目を真っ直ぐに見つめ、顔を近づける。
唇が触れようとした時、アンドロマリウスが赤い舌を伸ばした。
「んぐ……⁉」
『んふ♥……れろ……ん……』
柔らかな舌が蛇のように絡みついてくる。
時折、漏れ聞こえるアンドロマリウスの吐息。
潤んだ瞳で俺を熱っぽく見つめ、激しさを増していく――。
『ま、ますたぁ……んふっ……はぁはぁ……♥』
アンドロマリウスが俺の手を胸に引き寄せる。
ふわぁっと極上の絹を触っているような手触りと、心地よい弾力が俺の手を包む。
こ、これは……⁉
脳内に閃光が迸った!
「うぉおおおおお……キタキタキタ―――――――ッ!!!」
身体に紋様が浮かび上がり、全身に雷のようなエネルギーが駆け巡る!
細胞の一つ一つから溢れ出るような力を感じた。
次の瞬間、俺は全能感に包まれアンドロマリウスと一体になった。
「よしっ! 憑魔完了!」
「瀬名くん……お、終わった?」
振り返ると、両手で顔を隠していた石丸さんが、指の隙間から俺を見ていた。




