神様の家
俺はブネの真っ白な足の裏を見上げていた。
宙に浮いたまま、両手を白衣のポケットに突っ込み、何の感情も読み取れない瞳で俺を見下ろす。
そこには好意も敵意も存在しない。
まるでガラス玉に映る風景のように、赤い瞳には俺が映っている。
――直視できねぇ。
久しぶりに見たブネは、相変わらずの黒い下着姿だった……。
*
約束の日――。
俺は高田馬場駅の戸山口前で石丸さんを待っていた。
近くで学生達のグループが談笑している。
その中の女の子達が、チラチラと俺の方を見てはしゃいでいる。
以前とは明らかに違う、好奇心が見え隠れする視線に戸惑いながらスマホを弄っていると、石丸さんがやって来た。
「よぉ、瀬名くん早いね? 待った?」
「いえ、僕も今来たばかりで」
「そっか、よし、じゃあ行こうか」
石丸さんに付いて、西武新宿線の改札を通った。
行き先は川越。俺は初めて行くが、小江戸と呼ばれる歴史のある街だ。
一時間ほど電車に揺られ、本川越に着く。
タクシーに乗り換え40分ほど経ったころ、「ここで」と石丸さんが運転手に告げた。
車を降りると、辺りに民家は無く、木々の生い茂る森が広がっていた。
「うっし、ここからちょっと歩くからな。飲み物買っとくか」
ぽつんと置かれた自動販売機。
こんな場所に、一体誰が置いたのかと感心してしまう。
「ここを逃すと買える場所はないからな、何にする?」
「あ、自分で買いますよ」
「いいから、ほら」
「すみません、じゃあお茶で……」
石丸さんからお茶を受け取り、二人で山道を登り始めた。
「で、どうだい調子は?」
「まあ、ぼちぼちです」
「へっ、何だよそりゃ。あー、そういや、何でまた急にレベル上げなんてしようと思ったんだ? 瀬名くんは十分強いだろ?」
「実はちょっと……厄介な相手がいまして、今のままだと、良いように使われてしまいそうで……」
「……そうか。言いたくなかったら言わなくていいんだけどさ、その相手ってのは誰なんだ?」
「金曜会の桐谷という人です」
「げっ⁉ ま、マジか……」
石丸さんは大袈裟に両手を広げ、芸人のように大きなリアクションを取った。
「知ってますか?」
「そ、そりゃあ誰でも知ってるさ。金曜会のエースだろ? S級覚醒者で国内最強って話もある……。ていうか、次元が違いすぎてよぉ、俺には何もしてやれねぇわ、わはは、すまんな」
「い、いやとんでもないです! 石丸さんには、こうしてレベル上げできる場所もご紹介して貰ってますし、感謝しかないですよ」
「そ、そう? へへ、まあ、こうして恩を売っとけば、また美味しい思いができるかもってな? がははは!」
照れを隠すように石丸さんが笑った。
「あ、あそこに建物が……」
「お、着いたか。あれが、神様の家だ」
石丸さんはペットボトルのお茶をグビグビと飲んで、
「よし、行こう」とキャップを閉めた。
*
映画のセットのような、モダンで洗練された暖炉付のリビング。
無機質なモノトーンの壁に掛かったカラフルな油絵。床には大きな毛皮のラグが敷かれている。
今、俺の向かいに神様がいる。
悠然とソファに座り、膝には猫が乗っている。
見た限り、小柄でカーディガンを羽織った、優しそうなお爺ちゃんにしか見えない。
てっきり、テストのようなものでもあるのかと思ったが、驚くほどすんなり会うことができた。
「やぁ、よく来たね……、石丸くんのお友達なんだって?」
想像通りの柔らかな声、神様が俺の隣に座る石丸さんを見た。
石丸さんは緊張した面持ちで答える。
「そ、そうなんす! アレを、彼に使わせてやって欲しくて……」
「瀬名と申します! よろしくお願いします!」
「ははは、元気がいいねぇ……ウチに来る子は、大抵思い詰めたような顔の子ばかりだからねぇ……新鮮だなぁ」
目を細めて頷く神様。
「石丸くんから聞いてるとは思うけどね……、一応、私の口から説明させてもらうよ?」
「あ、はい、お願いします!」
俺は姿勢を正した。
神様は猫の背をぽんぽんと撫でるように叩き、お茶を一口飲んでから話し始めた。
「私の持っているポータルはね、3年に一度だけボスを倒すことに決めているんだよ」
「3年……ですか?」
「そう。なぜ3年かというと……それが限界だからだね」
「え……あの、どういうことですか?」
神様の膝の上で、猫が大きく欠伸をした。




