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世界最強の憑魔術師に覚醒したので第二の人生を楽しみます!  作者: 雉子鳥幸太郎
一章

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守りたいもの

 乾いたノック音が響く。

 西欧アンティークの机に向かい、PCのモニターを眺めていた桐谷が、

「入れ」と言った。


「……失礼致します」

 緊張した面持ちの男が中に入り、丁寧に頭を下げた。

 部下の男は桐谷の言葉を待っている。


「構わん、報告しろ」

「はっ、報告します。剣ヶ峯の件ですが……先ほど高密度魔素を検知したと報せが入りました」


 桐谷の口端が僅かに上がった。

「そうか、管理局は?」

「はい、当該ポータル自体が入り組んだ場所にあるため、現段階において、外部への魔素放出がほぼ無い状態です。ですので、管理局の広域魔素検知システム(カナリア)に掛かるのは、まだしばらく先かと」


「うむ、調査部には手を回してあるな?」

「はい、そちらの方も滞りなく。あと、もう一点、ご報告があります」

「何だ?」


 椅子の背に身体を預け、桐谷が先を促す。


「はっ、現在、首都圏のレベルC~Bポータルにおいて行われております、GUILTY(ギルティ・) ROCK(ロック・) BROTHERs(ブラザーズ)MERRILL(メリル・) TRIAD(トライアド)の抗争についてですが、現時点では、MERRILL TRIADが優勢との報告が入っております」

「そうか」


 桐谷は席を立ち、窓際から外の庭園を眺めた。


「だが……、何事も調和というものが肝心だ。Morgan(モーガン・) Steins(シュタインズ・) Avalon(アヴァロン)に動きは?」

「いえ、今のところ、本件に干渉する気は無いようです」

「ふむ……。よし、抗争中のポータルの三割程度にウチから何人か向かわせろ。両者に決定的な優劣を付けさせるな。それと……、スナイダーに対しては絶対に関わるなと伝えておけ」


「は、畏まりました。そのスナイダーによって、ギルティロックのルードが戦闘不能に追い込まれたようです。都内の病院に搬送され、現在ICUで治療中ですが、昏睡状態のようです」

「メリルも厄介な男を呼び寄せたものだ……」


 そう呟き、ゆっくりと室内に振り返ると、桐谷は部下に視線を戻した。


「ところで……湊リディアの件だが、進捗は?」

「はい、先日、3年の専属契約を交わしたと報告がありました。元々、湊自体の市場イメージが良かったこともあり、ブランド側からは特に不満は上がっておりません」


「そうか。まぁ、十分に力は見せた。問題がなければ、後は現場の判断に任せると伝えておけ」

「はい、畏まりました」


「あとは?」

「いえ、報告は以上です」

「うむ、下がっていいぞ」

「は、失礼致します」


 深く頭を下げた後、男が部屋を出て行く。

 入れ違いで藍莉が部屋に入ってきた。


「兄貴……、今いいかな?」

「何だ?」


 藍莉は言い出しにくいのか、モジモジと身体をくねらせている。


「あのさ……、例のレベルSなんだけど……、やっぱボクも行かなきゃ駄目だよね?」

「……どういう意味だ?」

 スッと桐谷の瞳の色が変わる。


「あ、いや、そのー、瀬名っち……あ、瀬名くんも来るし……あの姿は見られたくないかなぁ……って」

 藍莉の傍らに回り込み、桐谷はそのまま後ろ髪を掴んで顔を上げさせた。

 インナーカラーのミントベージュが揺れる。


「藍莉……お前は俺だけを見ていればいい。違うか?」

「は、はい……そうです」


 震える瞳で桐谷を見つめる藍莉。

 その瞳を覗き込んでいた桐谷がようやく手を離した。


「わかったら……二度とくだらん事を考えるな」

「……し、失礼しました」


 逃げるように部屋を出る藍莉を一瞥し、革椅子に腰を下ろした桐谷は、何事もなかったように呟く。


「後は、ポータルの活性化を待つだけだな……」


 *


 週末、リディアと待ち合わせをしているカフェに向かう。

 店内に入ると、奥の席に座ってるリディアをみつけた。


 グレーのニット帽が良く似合ってる。

 しかし、これだけ客がいてもハッと目を引くのは、リディアだけ可愛さのレベルが違っているせいなのか……。

 リディアのところへ向かおうとすると、俺に気付いたリディアがこっちを見て手を振った。 


「お待たせ、ふぃ~、外、寒いよねぇ……」

 両手を擦り合わせながら向かいの席に座ると、リディアが自分のコーヒーで温めた手で、俺の手をぎゅっと包んだ。

「ふぁぇっ!」

「どう? 温かい?」と、上目遣いで俺を見る。


「う、うん……あったかい……」

「へへ、何だかすっごく久しぶりな気がするね?」

「そうだね、まあ、色々あったから……」

「あれ? 討伐は成功したんでしょ?」


「うん、一応は成功かな、ボスも倒せたし、報酬も良かったよ」

「へぇー、久我山の討伐だよね?」

「そうそう、ちょっと変なのに絡まれちゃったけどね……あはは」

「え? 大丈夫なの?」

 リディアが心配そうな顔を向ける。


「あ、うん、無事解決したから大丈夫」

「そ、そう……なら良いんだけど……」


 久しぶりに見たリディアは、一段と綺麗になった気がした。

 外見というより、内から溢れ出る魅力というか、エネルギーのようなものを感じる。

 やっぱり、あの仕事も関係しているのかな……。


「あ、ほら、電話で言ってた、例の仕事はどうなったのかな……?」

 俺は少し緊張しながら訊ねた。


「ふふ、正式に契約が決まったわ! もぉ~~~~最高っ! だってだって、あのD.Joan(ダン・ジョーン)よ? きゃぁ~~~今でも信じられない! あ、やば……、ごめんなさい」

 周りを気にしたリディアが、顔を真っ赤にして声のトーンを落とした。


 本当に嬉しいんだな……。

 こんなに喜んでいるリディアを見るのは初めてだ。


「……おめでとう、ちゃんとお祝いしないとね」

「ホントかな~? ふふ、聞いちゃったよ~?」

 悪戯っぽく笑うリディアに、思わず見とれそうになる。


 だが同時に胸の奥で、(やま)しさと不安をぐちゃぐちゃに混ぜたような、言いようのない感情を覚えた。

 もし、金曜会の思惑で決まった仕事だと知ったら……リディアはどんな顔をするんだろう。

 無理だ……とてもじゃないけど言えない。言えるわけない。


「ねぇ、ユキト……あのね、言わなきゃって思ってたんだけど……、こういうのって言うタイミングも難しくて」

 突然、リディアが改まった様子で姿勢を正した。

「え、うん」


「私ね、芸能の仕事は本気で続けるつもりなの。小さい頃からの夢だったし、今もその気持ちは変わってないから……」

「……良いと思うよ? 俺も色んなリディアが見られて嬉しいかな」

「ホントに⁉ ありがとう!」

 リディアはニコッと微笑んだ後、続けた。

「D.Joanの話が来た時ね、嬉しいって思った後……ユキトの顔が浮かんだの。これが決まると、たぶん、中々会えなくなっちゃうなって……」


「……」

「ま、まあ、だからどうしたって話なんだけど……」


 モジモジしながら言うリディアを見て、俺は胸がキュっとなった。

 やっぱり、俺はリディアを悲しませたくない……。

 桐谷なんかに邪魔させない為に、もっと強く、強くならないと――。


「じゃあ、俺からも」

「え、あ、う、うん」


「俺は毎日でもリディアに逢いたいし、もっと仲良くなりたいって思ってる。でも、それ以上にリディアを応援したいって思ってる。だから思い切り頑張って欲しいっ! だから――え?」


 リディアが訝しげに、じと~っと目を細めている。


「ねぇ、ユキト? もしかして……私以外に誰か気になってる人とかいる?」


 心臓が跳ね上がって破裂しそうになった。

 はうッ⁉ な、な、なんでそうなるの⁉


「え、ど、どうして? な、なななんで?」

「う~ん……何となく?」

 探偵のように顎に指を当て、斜め上を見上げる。


「ちょ、ひ、酷いなぁ~! いるわけないしー! やだなぁ~!」

「そっか、なら良いんだけど……」

「もう、何かと思ったよ、ははは……」


 俺は誤魔化し笑いをしながら、内心冷や汗をかいていた。

 焦った、日南さんのことを言われてるのかと……。


 と、その時、スマホにメッセージが届く。

 見ると石丸さんからだった。


 リディアがどうぞと手を向ける。

「あ、ごめんね、すぐ済むから……」

 そう言って、俺はスマホを確認した。


『神様がOKだってよ! 明後日行ける?』


 やった! これでレベルが上げられる!

 俺は直ぐに返事を返す。


『大丈夫です! お願いします!』

『じゃあ明後日、また連絡するよ』


「どうしたの、何かあった?」

「あ、ああ、ごめん。また、レベル上げしようと思ってさ、この前の討伐で知り合った人と、次の約束をしてたんだ」


「ふーん……」

 リディアは明らかに納得していない様子だ。


「あ! も、もちろん男の人だよ?」

「何か最近頑張ってるよね? 前はあんまり乗り気じゃなさそうだったけど……」

 と、また細い目になりそうになる。


 俺は一段声のトーンを上げて、

「さ、さぁ、そろそろ行く? お腹空いたよねー?」と、席を立った。

「あ、そうだった! もぅペコペコで……」

 リディアも席を立ち、二人で店を出た。


「ねぇ、何食べよっか?」

 自然と腕を組んでくるリディア。

 すれ違う男は、皆リディアに釘付けになっている。


 二人でお店を探しながら、街を歩く。

 たったそれだけのことなのに、楽しくて、つい時間が経つのも忘れそうになる。

 何気ない仕草や、他愛の無い会話に心が弾んだ。


 しかし――、ふいに浮かぶ桐谷の顔に心が波立つ。

 何も知らずに隣ではしゃぐリディアを見ていると、胸がどうしようも無く痛んだ。


「あ~! パスタ食べたい、あそこ入ろうよ?」

「うん、いいね、行こっか」


 ――やるしかない。

 絶対に手出し出来ないくらいに、あいつに力を見せつけてやる!

 リディアに手を引かれながら、俺はそう決意した。

これにて一章完結です。


応援してくださった方、本当に励みになりました!

ありがとうございます!

いやぁ……15万字まであっという間でした。


目標の一万ポイントには、僅かに届きませんでしたが、

筆力不足を自覚し、さらに楽しんでもらえるように精進したいと思います!



二章は、現在鋭意構想中です!


良ければ下の★から……


★☆☆☆☆ つまらんかった


★★☆☆☆ まあまあ


★★★☆☆ 普通


★★★★☆ 面白かったよ、おつかれさん!


★★★★★ 面白い、早く続き書け!


みたいな感じで、お気軽にポチっていただけると嬉しいです。

(星の数は後からでも変更ができます)


既に星をいただいている方には、心から感謝を申し上げます!

引き続き、面白い作品を発表できるように励みたいと思います!


どうぞよろしくお願いします!

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― 新着の感想 ―
[一言] 壇ジョーンヤバそうな組織と繋がってたんか…!
[良い点] 2章待ちます。 ハードな世界も面白いです
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