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世界最強の憑魔術師に覚醒したので第二の人生を楽しみます!  作者: 雉子鳥幸太郎
一章

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頼れる男……?

 ――CREDIT(クレディ・) WISE(ワイズ)日本支部。


 部屋の壁には古びた書物や、様々な実験器具が並べられ、離れた机の上には何かの液体が入ったフラスコや、珍しい植物が置かれていた。

 中央に置かれた大きなアンティークの椅子に座る鵜九森と、その向かい側に、朧気な間接照明の灯りの下で心配そうな顔をした小鳥遊が立っている。


「それは結構……、ええ、では」

「ど、どうでしたか⁉ 瀬名さんは⁉」

「参加するそうですな……」

「本当ですか! 良かった……これでまた会えます」


 小鳥遊の顔が、期待に満ちた表情に変わった。


「そんなに彼のことが気に入ったので?」

 鵜九森が、やれやれとため息交じりに言うと、小鳥遊が目を輝かせて答えた。

「はい! あの黒蟹との戦いは未だ頭から離れません! 僕にはとても出来ない戦い方ですし……、あぁ~憧れます!」

「……そうですか」

 鵜九森は静かに頷き、目を閉じた。


 CREDIT WISEの調査班が、偶然に発見したレベルSポータルの兆候。

 剣ヶ峯の地中深くにある為、まだ魔素が流出していないのが功を奏した。


 初めは小鳥遊の成長のために、CREDIT WISE単独での討伐を考えてもみたが……如何せん火力が足りない。

 レベルAならともかく、さすがにレベルSとなると、鵜九森でも不安があった。


「それにしても……、金曜会は良く乗ってきましたね?」

「レベルSを限られた人員で攻略できる機会など、これが最初で最後……乗らない手はないかと」


「管理局の方は、本当に大丈夫なんですか?」

「そのために金曜会(彼等)に声を掛けたのです。この国の中枢は、あのクランが握っておりますから……」

「確か……ウチとも付き合いが長いんですよね? ふーん、ちなみに……スイス本国とどちらが上ですか?」

 無邪気に訊ねる小鳥遊に、鵜九森は目線を上げ、まだ幼さの残る瞳を見つめた。


十和(とうわ)様、我らに上などありません」

「そうですよね、もし、そんなことがあれば……大事(おおごと)になりますし」

「――⁉」

 一瞬見せた若き後継者のただならぬ殺気に、鵜九森は安堵した。

 何も案ずることなど無かった……。

 自分がこの世を去ったとしても、CREDIT WISEはその歴史を重ねていくのだと、そう確信した。


「では、そろそろ僕は休ませてもらいます」

「はい、後はお任せを」

 胸に手を当て鵜九森が頭を下げる。

 それに小さく微笑みかけ、小鳥遊は部屋を後にした。


 *


 部屋で一人テレビを眺める。

 画面の中では、お笑い芸人達が楽しそうに騒いでいた。


「はあ……」


 力が足りない。

 レベルSダンジョンに挑むにしても、どれくらいの強さがあれば良いのかもハッキリしない。


 藍莉に聞いた話では、兄貴はS級だと言っていた。

 金曜会という巨大クランで力を持つ男、しかも、自身がS級覚醒者か……。


 同じS級でも、向こうには金曜会という組織の力がある。

 それに俺には圧倒的に情報が足りない。


 基本的な情報でさえ怪しいS級なんて……クソッ!

 俺もクランに入るしかないのか……。

 いや、誰か信頼のおける情報通な人がいれば……。


「あ!」


 そうだ、石丸さんはどうだろう?

 あの人なら、大手クランのいざこざも無さそうだし、ちょっと連絡してみるか。


 *


「そりゃー、レベル上げするっきゃないわな」


 石丸さんは、網の上の特上ハラミを裏返しながら言う。


「は、はい……でも、魔素(マナ)ルームではそろそろ限界みたいで」

「わはは、瀬名くんレベルいくつよ?」

「この前の討伐で36になりました」

「俺、いくつだと思う?」

「確か……39でしたよね?」

「ひょぇー、良く覚えてるなぁー。あ、知ってた? 年を取っても脳細胞って増えるんだってよ」

 そう言って、グビグビと生中を飲み干し、

「かぁ~! 最高だな、おぃ」と、膝を叩いた。

「あ、あの、レベルの話なんですけど……」

「おぉ、まんすまんす、まんすいませんす、わははは!」

 人選を失敗したか……。


「あるぜ」

「え?」


「レベル上げだろ? 絶対誰にも言わないって約束するなら、教えてもいいよ。瀬名くんには、がっつり稼がせてもらったからな」

 ハラミを頬張りながら、石丸さんがニマッと笑う。 

「も、もちろん、誰にも言いません!」


「瀬名くんは憑……憑依術? なんだっけ、まぁいいか、そういうのがあるからいいけどさ、俺達召喚師ってのは、本当に肩身が狭い思いをしてるわけよ。特に新人の頃なんて低レベルだし、殆ど非覚醒者だもん」

「そうですよね……」


 石丸さんは、俺に顔を近づけて小声で言った。

「実は、俺達召喚師しか知らない『定期出現型』のポータルがあるんだ」

「え……?」

 キョロキョロと周りを確認する。

「そこに生息する魔獣がちょっと訳ありでな、短期間でレベルを上げることができる。どうだ、行ってみるか?」

「は、はい! ぜひお願いします!」


「わかった、オーナーに話を通してみる」

「オーナー? ポータルですよね?」


 石丸さんが声を殺して、口に手を当てる。

「いいか、絶対に秘密だぞ? そのポータルを所有してんのは、引退した召喚師なんだ。資産家でな、俺達召喚師の間では、神様みたいな人さ」


「それって……、大丈夫なんですか? 魔素が溢れたら危険なんじゃ?」

「平気平気、核シェルターの中だし、ちょっと特別なダンジョン、特ダンなわけ」

 石丸さんは特上ハラミを追加して、

「大丈夫、俺に任せとけって」と笑った。

「は、はあ……」

 全く不安を拭いきれぬまま、俺は焼けすぎた牛タンを口に入れた。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 蛇の道は蛇。 虐げられる召喚畑にもそれこそ本当の意味でクランのような繋がりがあるというのは面白いですね。 縦に横に人との繋がりができればそれこそ自らの自由の為のクランを立ち上げるときも来ま…
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