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世界最強の憑魔術師に覚醒したので第二の人生を楽しみます!  作者: 雉子鳥幸太郎
一章

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49/91

再検査

 【重要】瀬名 透人様 再検査のお知らせ


 家に帰ると、覚醒管理局からメールが届いていた。

 再検査って……マジか。


 食生活には気を付けていたし、身体はトレーニングのお蔭でアスリートレベル。

 何の不調も無いんだけど……。


 だが、何かあってからでは遅い。

 費用は掛からないらしいし、調べてもらっても損はないか。

 それに、日南さんにも会えるかもしれないし……。


「行ってみるか……」

 出かける用意をして、俺は外に出た。


 すっかり北風だ。

 日差しは暖かいのに、恐ろしく風が冷たい。


 物陰で丸くなっている野良猫を見てニャトラーを思い出す。

 それにしても、あの猫執事は有能だった。


 あの二人は上手くやってるのかな?

 あれから何度か成功し、アンドロマリウスも思ったより平気だと言ってたから、もう大丈夫だとは思うが……。


 オルキデも、最後には俺を瀬名殿と呼んでいた。

 よっぽど憑魔できたのが嬉しかったのだろう。


 何はともあれ、伝承スキルは晴れて俺のものとなった。


 ―――――――――――――――――

  憑魔:アンドロマリウス

 

  ・千里眼(900MP/一体)

   対象のステータスをフルオープンにする

 

  ・スキル・ハック(500MP/1回)

   対象の持つスキルを盗用できるが、効果は半減する

 

  ・スキル・ロック(800MP/1回)

   対象のスキルを一定時間封印する

 

  ・ファナティック・十字砲火(1000MP/3分間)New!!

   狂信的な愛の使徒を召喚する

 

  ・暴かれる真実の庭園ガーデン・オブ・ディヴァージメント(総HP・MPの半分)New!!

   アンドロマリウス家の固有結界を実装、その場に居る者全ての状態変化を無効にする

 ―――――――――――――――――


 悪魔城が無くなった代わりに、新たなスキルも解放された。

 ファナティック・十字砲火……か。

 こりゃ、間違いなくアイツが来るな。


 そういえば、あのネクロマンサーの少年が召喚した屍兵とかいうオーク……あれだけの数を倒したというのに、全くレベルが上がっていなかった。屍兵とやらは、いくら倒しても倒し損ってことらしい。

 ったく、どこまでも憎たらしいお子様だ……。


 まぁ、焦っても仕方がない。

 少しずつ確実に力をつけていけばいいのだ。


 そのために、まずは再検査をしてスッキリしておこう。

 そう自分に言い聞かせながら、俺は病院へ向かった。


 *


 ポータルケアセンターの診察室。

 院長の鹿島がフレームレス眼鏡を外し、辛そうに目頭を押さえた。


「ふぅ……」

「大丈夫ですか、院長?」

 日南が心配そうに声を掛ける。


 鹿島は穏やかな笑みを向け、

「大丈夫、あ、日南くん、今日は再検査が一件入ってるからね」と、眼鏡をかけ直した。

「はい、じゃあ準備しておきます」

「ああ、よろしく」


 日南はタブレットを手に取り、スケジュールを管理しているツールを立ち上げた。

「えーっと、再検査……っと、えっ⁉」

「どうかした?」

「あ、いえ、大丈夫です、失礼します」


 そそくさと診察室を出る日南。

 廊下に出て、もう一度タブレットを確認する。


 ――――――――――

 再検査

 氏名:瀬名 透人

 ――――――――――


 *


「はい、じゃあ、上向いて……はい、下、はい、OKです」


 ペンライトを胸ポケットに仕舞う。

 瀬名透人、彼に会うのは二度目だ。


 鹿島は内心驚きに震えていた。

 それは、目の前の青年の計り知れない能力に対するものと、一生に一度出会えるかどうかのレアケースを、自らの手で診察ができるという知的興奮による震えだった。


 ポータル発生に巻き込まれた、典型的な衝動型覚醒。

 若返りを除けば、特に問題があるようには見えない。


 記憶の乱れは無し。

 身体にも特に異常は見られない。


 以前に診察した時とは、体つきがまるで別人だ。

 この短期間で、かなりトレーニングを積んだと見える。


魔素(マナ)ルームには、週にどのくらいのペースで通われていますか?」

「えっと、4日くらいですかね。でも、暇さえあれば行ってます」


「なるほど……週に4日ですね」

 相づちを打ちながら、鹿島は『鑑定』を発動させていた。


 鹿島の使命は、瀬名のステータス情報をフルオープンで監視課へ報告することである。

 鑑定は、対象が術者の能力を著しく上回る場合、フルオープンさせることが難しい。

 そのため鹿島は、古巣であるCREDIT(クレディ・) WISE(ワイズ)からスキル効果を上げるポーションを入手していた。


 ―――――――――――――――――

  年齢:18 名前:瀬名(せな) 透人(ゆきと)

  レベル:32

  異能区分/E 召喚師/憑魔術師

  HP:94

  MP:776

  筋力:8

  体力:8

  知能:32

  抵抗:6

  反射:5

  精神:146

 ―――――――――――――――――

  〈パッシブスキル〉

  ・■■■■■■ LV.5

   LVが上がる程、■■■■■■■

 ―――――――――――――――――

  〈スキル〉

  ・ステータス可視化 LV.3(Max)

  自身のステータスをフルオープンにできる

  ・ソロモンズ・ポータル LV.3

  自身で創り出したポータルから悪魔召喚が可能

  ■■■■■■■■■■■

  ・召喚 LV.3

  自身のLVに応じて魔獣を召喚できる

 ―――――――――――――――――


 鹿島はステータスを見て、心の中でため息を吐く。

 フルオープンには出来なかったか……。


 が、しかし、異能区分を見て鹿島は衝撃を受けた。

 憑魔……術師?


 思わず、ボールペンを床に落とした。


「ああ、すみません、いや、年を取ると物を落としやすくていけませんね……」

「そんな、先生はお若く見えますよ」


「ははは、いえいえ、ありがとうございます」


 何だこのクラスは……。

 憑魔術師なんてクラスあったか?


 ん? ポイントを全て精神に振っているようだな……。


 それに、この短期間でかなりスキルレベルも上がっている。

 討伐に参加したのは例のポータルだけのはず。

 監視課から送られたあの映像を考えると……このパッシブスキルが怪しいな。

 少し探ってみるか……。


「ソロモンズ・ポータルというスキルですが、実際に悪魔は召喚されたのですか?」

「あー、はい」


「その、悪魔というのは、具体的に……どのようなものでしょう?」

 平静を装う、心拍数が上がる。


「ちょっと言いにくいんですが……、その……人間で言うと女性……のような見た目です」

「ほぅ、女性ですか。なるほど、それは興味深いですね、どうやって召喚するのですか?」


「ソロモンズポータルを使うと、黒い穴が開くんです。それで、呼び出したい悪魔を思い浮かべて、名前を呼ぶと出てきます」

「黒い穴……それこそポータルのような?」

「んー、ポータルとはちょっと雰囲気が違う気がしますね。それに小さいです、人が通れるくらいの大きさですね」

 そう言うと、瀬名はジェスチャーで大きさを示した。


 *


 ――覚醒管理局監視課、課長室。


「決まりだな……。どうしますか? これ、もう接触した方が良いと思いますが」

 モニターに映る鹿島と瀬名の様子を見ていた乾が、隣の斑鳩に言った。


「……」

「斑鳩課長?」

 もう一度、乾が呼びかけると斑鳩が口を開いた。


「全員を集めておけ」


「了解です」

「え? え?」

 一人状況を飲み込めていない近藤が二人を交互に見た。


「いいから行くぞ」

「ちょ……何がどうなって……」


 乾は近藤を連れて課長室を出ると、監視課のフロアにいる全員に向かって言った。


「全員、手を止めろ。課長から緊急周知がある、以上――」

 そう言うと、全員が慌ただしく作業を中断し、大きなモニターが設置された会議用のスペースに集まった。


「ちょっと乾さん、何があるんですか?」

「すぐにわかる」


 課長室の扉が開く。

 斑鳩が早足で皆の横を通り抜け、モニターの下に立った。


(かね)てより監視中であった覚醒者、瀬名透人――」

 モニターに瀬名の顔が映し出された。


「本日、対象の再検査を行っており、現在も進行中だ。私と乾係長、近藤の両名により、リアルタイムで確認を行っていたところ、瀬名透人を国内9人目の『S級覚醒者』と確定するに至った」


 職員達がざわめく。

「ま、マジっすか……あの子がS級?」

「お前、あのスキルの説明と、記録屋の映像を見ただろ……」

 乾が呆れたように言う。

「だ、だって、S級なんて見た事もないですし、僕の権限じゃデータすら見られないじゃないっすか!」

 近藤はやや逆ギレ気味に言い返す。


「そこ! まだ終わってないぞ、静かにしろ!」

「は、はいっ! すみません!」


「対象のスキルは『ソロモンズ・ポータル』、任意の場所でポータルに似た空間を創り出し、そのポータルから悪魔を召喚するというものだ。悪魔については現在調査中、非公式ではあるが、記録屋から入手した資料から推測すると、現時点で、最低でもB~A級の戦闘力を有すると思われる」


 またも職員達がざわめく。


「よって、我々管理局は対象との協力関係を結ぶため、乾と近藤の両名で接触を図る。他の者は関係各所に連携と通達、なお、情報開示の指示があるまで、この件は機密とする、以上――解散!」


「「了解しました!」」


 全員が慌ただしく各々の仕事に向かった。


「乾、決して不信感を抱かせるな。丁重に扱え、頼んだぞ。近藤もな」


「わかりました。おい、行くぞ」

「え? は、はいっ!」


 近藤は慌てて上着を取ると、斑鳩に「行ってきます」と頭を下げ、乾の後を追いかけた。


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― 新着の感想 ―
[良い点] 国から丁重に扱われてしまう。 しかし、国すら強力なギルドとは競争関係のようにも。 大変な世界になってますね
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