成就
翌日、アンドロマリウスの部屋でオルキデを待つ。
残り時間は、あと16時間弱……。
そわそわしながら、部屋の中を行ったり来たりしていると扉をノックする音が聞こえた。
『アンドロマリウス様、オルキデ様がおいでになりました』
ニャトラーが扉を開け、小さな頭を下げた。
その扉の向こうから、正装したオルキデが入って来た。
昨日とは打って変わり、金色のボタンが輝く純白の軍服ワンピースを纏っていた。
右は赤、左は黒のタイツを履いていて、オルキデの気合いの入りっぷりが窺える。
『れ、失礼いたたします……』
ガッチガチに緊張しているのか、ありえないほど噛み倒す。
だが、顔を上げてアンドロマリウスを見るや否や、途端に暴走を始めた。
『はうっ! お、お嬢様っ! 何という美しさ……ハァハァ、こ、この度は、このオルキデめに……ハァハァ、ひょ、憑魔をさせていただけるなどと、このカス、いや、御仁から……』
「ちょ、ちょっと待て!」
俺は慌てて話を遮り、オルキデを部屋の隅に連れて行った。
「おい! 犬じゃねぇんだからハァハァすんな! いいか、憑魔したけりゃクールになれ! いいな?」
『……努力する』
「よし、俺が話を進めるから、相づちだけ打ってろ」
『わ、わかった』
「いやー、悪い悪い、じゃあ、早速始めようか?」
『だ、大丈夫でしょうか……?』
不安そうなアンドロマリウスに、
「え、何が? ん? 何かあったっけ?」と俺は笑顔で返す。
「ささ、二人ともそんな緊張しないで、ほら、リラックスリラックス」
そう言って、二人の手を取って引き合わせた。
「こういうのは勢いだからさ。3、2、1で行こうか」
『え⁉』
『ンフッ! ンフッ! ンフッ!』
オルキデは、発情した馬のように鼻息を荒くする。
ゆっくりと顔を近づけるオルキデ。
ぷるぷると震えながら、唇を尖らせる。
アンドロマリウスも必死で堪えようとしているのがわかった。
興奮の絶頂にある美少女に、ひたすら怯える美少女。
こうして見ると凄い絵だな……。
「いくぞ? はい、さーん、にぃー、いち、はいっ!」
『はわーっ! だ、だめですぅーっ! や、やっぱりできません……うぅ』
アンドロマリウスが顔を背けた。
あー、もう少しだったのに……。
『おい、カス……貴様わかっているんだろうな……』
オルキデから恐ろしいまでの圧を感じる。
「ちょちょちょ、落ち着いて! ここからだから! ここから!」
『……次は無いぞ』
アブねぇ……、どうにかしないと。
オルキデが、もうちょっとスマートに行ければなぁ……。
「そうだ、この際……目隠ししよう。うん、それがいい」
『え、え? マスター?』
アンドロマリウスは、突然の提案に戸惑いを隠せないようだった。
「大丈夫、大丈夫、はい、じっとしてて」
目隠しになるような布は……と。
すると、控えていたニャトラーがさりげなく黒い布を差し出した。
『こちらでよろしければ……』
「おぉ~! ありがとう!」
なんて気が利く猫なんだ。
多分、ニャトラーもお家が大事なんだろうな。
さて、ニャトラーの為にも頑張らねば。
オロオロするアンドロマリウスの後ろに立ち、俺はそっと目隠しをした。
「どう? 見える?」
『み、見えません……』
アンドロマリウスは、恥じらいながら答えた。
見る見るうちに紅潮していく白い肌に、黒いシルクの目隠しが際立つ。
何だかとてもいけない感じが……。
『ふごっ⁉』
見ると、オルキデが鼻血を出し、ニャトラーがハンカチを差し出していた。
ったく、興奮しすぎだろ……。
俺はアンドロマリウスの耳に息を吹きかけた。
『ひゃぁ⁉ は、はわ~⁉ ま、マスターですか⁉』
「そうだよ」
そう答えて、わざとガシッと肩を掴んだ。
『はぅんっ⁉♥』
よしよし、良い感じだぞ……。
俺はオルキデを手招きする。
「じゃあ、アンドロマリウス、ゆ~っくり顔を上げて、動かないで……」
『は、はい……』
耳を赤くしてこくりと頷く。
俺はオルキデに目で合図した。
目を血走らせたオルキデが亜光速で何度も頷く。
お、そうだ!
俺は二人羽織のようにして、オルキデの後ろからアンドロマリウスの肩を掴んだ。
これなら、俺だと思うだろう。
『マ、マスター、お願いします……』
アンドロマリウスが顎を上げる。
震えるオルキデの唇が、アンドロマリウスの唇に触れた――。
『――⁉』
アンドロマリウスが気付く。
だが、既に淫獣と化したオルキデの舌が、アンドロマリウスの唇をこじ開ける。
『あ……んふっ♥』
瞬間、俺の憑魔が解ける――。
そして、オルキデの身体が輝きを放った!
『うぉお、お、うお嬢様ぁああああああーーーーーーーーっ!!!』
「や、やった!」
『なんと⁉』
ニャトラーも目を丸くする。
そこには、憑魔したオルキデの姿があった。
深紅に輝く瞳、真っ白な首筋には、あの紋様が浮かび上がっている。
あの小柄だった身体は、軍服の胸元が張り裂けそうな程、妖艶かつ蠱惑的な色気を持つ身体へと変貌を遂げていた。
『はは、ふはははは!! 感じる! 感じるぞ……! やっと……やっと私は、お嬢様とひとつに!』
両手を見つめた後、自分を抱きしめながらオルキデは天を見上げる。
そして振り返り、俺に抱きつくと声を上げて号泣した。
『残り15時間21分……、お見事でございました』
ニャトラーが静かに言った。




