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世界最強の憑魔術師に覚醒したので第二の人生を楽しみます!  作者: 雉子鳥幸太郎
一章

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二人の試練

「もしかして、憑魔って悪魔なら誰でも使えるのか?」


 ソファの上でいじけていたオルキデが、体育座りを崩して胡座を掻いた。


『そんなわけがなかろう! 悪魔の中でも、私のように選ばれたエリートでなくてはならん! それをお前のようなカスが……世も末だの』と、鼻を鳴らして頬杖を付き、白けた目を向ける。


「ちなみに、どうやって憑魔しているんだ?」

『あ゛? そんなもの(かしず)いて、主君からの……その、あ、アレを待つに決まっておろう!』


 ほんのり頬を赤らめるオルキデ。

 完全に受け身か、そこは似たようなもんだな。


「じゃあ、キスしないわけじゃ無いのか、うーん、原因がわかればと思ったんだが」

『ちょっと待てカス! 私はお嬢様とキ……、アレなどしておらんぞ?』

「え⁉ 何でだよ、じゃあ憑魔できないじゃん!」


 そう言った瞬間、オルキデがソファの上に立ち上がった。


『は? いや聞けカス。お嬢様の都合というものがあるだろう! お嬢様の心を開かせることが出来ない限り、憑魔など夢のまた夢……、それもこれも、私の愛が足りぬのだろう……。あぁっ! 麗しきアンドロマリウス様ぁ! いつになれば……うぅっ……』


 肩を震わせる姿を見ていると、段々、芝居がかって見えるようになってきたな……。


 ――ていうか、ちょっと待て。

 もしかして、アンドロマリウスが嫌がってんのか⁉


「先代とは……アレしてたんだよな?」

『もちろんだ! はぁはぁ……お嬢様も先代のように、何の躊躇いもなくアレしてくださればいいものを……!』

 そう言った後、もじもじと身をくねらせながら、両手を頬に当て、『きゃっ』だの、『お嬢様、お戯れを……』などと一人の世界に浸っている。


 しかし、アンドロマリウスは何で嫌がってんだ?

 何か理由があるのか……。いや、仮に理由があったとしても、一回だけでもアレして貰えば、オルキデを認めさせることが出来るかも知れない。


「オルキデさん、俺と取引をしよう」

『チッ、言ったであろう、交渉決裂丸だと。さっさと帰れカース』


 一瞬、イラッとしたが……、ここは我慢だ。


「あれー、いいのかなー? お嬢様と憑魔できるかも知れな――」

『何だとっ⁉』 

 豹変したオルキデがテーブルの上にダンッ! と片足を乗せた。

 ちょ、パンツとかそういうの一切気にしないのな……。


『おいカス! それが嘘ならこの場でコロスぞ!』

 俺の胸ぐらを掴み、目を品剥いて脅してくる。

「お、落ち着けって……嘘なんか吐いてどうする? ちゃんと考えがあっての話だよ」

『……』

 パッと手を離し、

『いま一度訊くが、ほ、本当にお嬢様と、ア……、アレが出来るんだろうな?』

 と、耳まで真っ赤にして念を押してくる。


「俺も男だ。もし憑魔できなければ、伝承スキルは綺麗さっぱり諦めるさ」

『ほぅ……言ったな?』

 オルキデがグイッと顔を近づけ、俺の目を覗き込む。

「ああ、言ったとも」

 俺は負けずと両目を見つめ返した。


『ふっ、よかろう』


「じゃあ、成功したらちゃんと認めてくれるんだな?」

『……お嬢様に誓って約束しよう。憑魔さえ出来れば、また狩りに行ける。そうなればもう、アンドロマリウス家は安泰だ』


「では、明日、城に来てくれ」

『なんだ、今日では無いのか?』

 少し残念そうな顔をして、テーブルから足を降ろした。


「色々と準備があるんだよ。あ、そうだ、ちゃんとイメージトレーニングをしておけよ?」

『いっイメージ⁉ ば、馬鹿者! そんな不敬なことを……いや、そうは言っても、私がしっかりせねばならんわけだし……お嬢様のアレをアレして……いや、それは流石に……お、お嬢様いきなりそれは……はぁあんあはあああ……♥』


 さて、じゃあ俺は一足先に、アンドロマリウスを問い詰めますか……。

 ソファの上で『お嬢様、そ、それは駄目です!』と言いながら悶えるオルキデを横目に、俺は屋敷を後にした。


 *


 城に戻った俺はアンドロマリウスを応接間に呼びつけた。

 大きなソファに並んで座り、事の顛末を問いただす。


「で? 自分の家が傾くのも気にせず拒否してたと……って、何を考えてるんだお前は!」

『だ、だって……ますたぁ~、オルキデってば、何かいつもハァハァしてるし……目が血走ってて怖いっていうか……それに、パパのお気に入りだった子とは、流石に抵抗があるっていうか……』


 涙目で訴えるアンドロマリウス。

 ま、まあ、確かに狂信的な一面はありそうだが。


「いや、だからと言って、いつまでもこんな状態じゃ、没落するのも時間の問題だぞ?」

『うぅ……それはそうですけどぉ……』


「とにかく、俺が伝承スキルを継承するには、オルキデを納得させないと駄目なんだよな?」

『はい……』


「愛の証とか言ってたよな?」

『はい……』


 しゅんと一回り小さくなって頷く。

 俺はアンドロマリウスの肩にそっと手を置き、優しく諭すように言った。


「いいか? これはお前のためなんだ」

『私の……?』

「そうさ、オルキデに憑魔すればお家問題も万事解決、俺も伝承スキルをゲット! 皆がハッピーになれる!」


『でも……』

「あのなぁ、オルキデはお前のことが好きで好きで、好きすぎて、ああなってるだけなんだ。当主たるもの、臣下の気持ちに応えてやらないでどうする?」


『そ、そうですよね……』


 アンドロマリウスが少し前向きな表情になった。

 もう一押し! とどめだ!


「これは、俺の試練じゃなかったよ……」

『え?』

 きょとんとするアンドロマリウスの手を握って言った。


「――二人の試練だ」

『マ、マスター……は、はい! わたし! 乗り越えて見せますっ!』


 目を潤ませながら俺を見つめるアンドロマリウス。

 やれやれ、こんな恥ずかしい台詞が平気で言えるのも、憑魔で気が大きくなってるからかな。

 普段もこれくらい出来れば良いんだが……。

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― 新着の感想 ―
[良い点] こんな落とし方どこで覚えたんですかね
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