34話 噂の足は速い
----ドラゴ視点----
「では、今日の授業はここまでにする!」
トーマの声が響き、授業に終わりを告げる。
さて、3限と4限との間は昼休みだな。
生徒たちが昼休憩へ思い思いに教室をあとにする中、俺は荷物をまとめながら軽く息を吐いた。
アリスタとの模擬戦闘、時間は短かったが思いのほか強度が高かったせいか身体に残る疲労感が強い。
「ドラゴ!」
フェンが駆け寄ってきた。尻尾が興奮気味に揺れている。
「なんだ」
「アリスタってやつの黒い魔法を切った技教えてくれよ!」
「ん?俺もとっさに使ったからもう一度やれって言われてできるかわからんぞ」
「え?」
「いや、本当」
「おま、天才かよっ」
「ドラゴ」
リオレスの声に振り返る。
メーティス寮のグループからリオレスとミレイが抜けて小走りで近づいてくる。
「昼ごはん一緒に食べないかい?食べながらさっきの模擬戦について聞きたいことがあるんだ」
リオレスの提案に横でミレイがうんうんと首を縦に振っている。
「別にいいぞ。フェン、お前はどうする?」
「いいのか?」
「ああ、紹介がてら一緒に食べようぜ。いいだろ?リオレス、ミレイ」
「問題ないよ」
「いいわよ!」
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寮の食堂は学年ごとのフロアにあり、十分広い。だが、塔の食堂は次元が違うな。
塔の中層、空間魔法で広げられた大広間。一年から七年まで全生徒が入り乱れるが、天井は高く、幾つもの円形テーブルが余裕をもって並んでいるため混みあっている印象は受けない。壁際には料理が並んだ台が延々と続いており、皿を持って好きなものを取る形式になっているようだ。ビュッフェスタイルだな。
「うおぉ、広ぉ」とフェンが呟いた。
「入学式の講堂でみたより人が多く感じる」とミレイが言う。
たしかに、整然と並んでいた入学式の映像を思い返すが、賑やかさも相まって1.5倍は人が多く感じられる。
俺たちは料理を取って、ちょうど空いていた4人掛けのテーブルに腰を下ろした。
「じゃあ、改めて自己紹介だな。フェン、こいつらは入学前からの知り合いでリオレスとミレイ。メーティス寮だ」
「どうも!俺はフェン・ダウバ・ムート、ドラゴと同じプロメーテ寮だ。よろしくな」
「僕はリオレス・アーロティガ。よろしく」
「ミレイ・カタールコートです。よろしくね、フェンさん」
「さん付けはいらないっすよ!フェンって呼んでください!」
「じゃあフェン。よろしくね」
ミレイがにこっと笑う。椅子から垂れているフェンの尻尾が強めに揺れている。単純なやつだ。
「それで」
俺の向かいに座るリオレスが口を開く。
「さっきのあれ、普通の魔法じゃなかったよね。アリスタの黒い焔も、ドラゴが斬ったやつも。あの焔、僕の感覚が狂ったわけでないなら熱を発していなかった。君たちいったい何をやっていたんだい?」
「ん~なんていえばいいか分からないし俺のは全く意図していなかったけど、概念?の魔法的なもの?かな」
「概念か……」
「アリスタの黒焔をみてなんかできそうって感じてさ」
リオレスが口を閉じた。信じていない顔ではなく、考え込んでいる顔だ。
「それにしてもドラゴってすげー強えーのな」
考え込むリオレスと俺に挟まれた席からフェンが感心したような声で言う。
「そうね、同い年でこれだけの強さを持っているなんて。アリスタもかなり凄かったけどドラゴはまたちょっと次元が違う感じよね」
「まぁ、そうかもな」
今までは強さの基準が爺ちゃんや師匠といった化け物共だった。自分の強さがいまいち分からなかったが同い年に負けるのは難しいかもな。
「正直何が起こっていたか全然わからなかったしね」
ミレイが首を傾げながら言う。
「アリスタが黒い炎でできた何かを放って、ドラゴが構えたと思ったら終わってた感じ」
「俺も!まさにそんな感じ!」
フェンが身を乗り出す。
「技の応酬が速すぎて、でもなんかすごいことが起きてたのは分かった!」
まあ、妥当な感想だな。
「リオレス、アリスタはどうか知らんが、俺はかなり特殊な育ち方をしたからな。実戦経験もそれなりにあるし。まあ、ここで学ぶならいやでも伸びると思うぞ」
「特殊な育ち方、ですか?」
「まあ、おいおい話してやるよ」
「俺にも教えてくれよな」
ミレイには爺ちゃんのことは詳しく教えられそうもないけどな。
「それで」と自分の考えに没頭していたリオレスが口を開く。
「アリスタの挑戦はどうするの。断らなかったよね」
「いや、あれは断るタイミングなんかなかっただろ」
「まぁ、それもそうだね」
リオレスが少し笑う。
「寮対抗戦ね。寮対抗戦ってどういう仕組みなんだ。全然知らないけど」
「3つのジャンルに分かれて1年をかけて行うものだね」とリオレスが言う。「源ノ月の個人戦、牙ノ月の団体戦、根ノ月の選抜戦。ドラゴやアリスタが対戦できるとしたら個人戦だね」
「へ~、個人戦ね。団体戦と選抜戦で当たらないのはなんで?」
「個人戦は各寮の各学年から3名ずつ選出されて学年別でトーナメント戦をするんだよ」
なるほどわかりやすいな。
「団体戦は?」
「団体戦は各学年から1名ずつ選出した合計7名のチームで寮対抗総当たり戦をするの」
今度はミレイが答える。
「選抜戦ってのは?」
「選抜戦は寮から学年関係なしに3名選出だよ。先鋒、副将、大将の対戦で2本取った寮が勝ちだぜ。各競技の順位でポイントが加算され合計点が高い寮が総合優勝さ」
最後にフェンが詳しい説明をしてくれた。君たち入学したばかりでなんでそんなに詳しいのかね?
「選抜戦では上級生が選ばれるのが通例らしいから、アリスタと対戦するなら多分個人戦だね。1人1つの競技にしか出られないし」
個人的には選抜戦のほうに興味があるが、上級生が出るというなら仕方がないな。
「各競技の参加者はどうやって決めるんだ?立候補?」
「希望者を募る場合もあるが基本的には寮監が決めるって聞いているけど」
「プロメーテはノイアー先生が決めるってことさ」とフェンが言った。「希望者を募るってのは、少なくとも俺は聞いてない」
「アーレウスはシャーリーさんが出るって息巻いているみたいですよ」とミレイが続ける。
シャーリーか、想像に難くないな。
「ドラゴは選ばれるでしょ」とリオレスが言った。「寮監はノイアーさんだし、今日のアリスタの宣戦布告もあっという間に広まったしね」
「は?」
「アリスタはメーティスの新入生でも話題の人物だからね。実力もだし、ビジュアルも。加えてそれを圧倒したドラゴ、どうやったって噂話のタネになるさ」
俺は食堂を見回した。
確かに、何度かこちらへ向く視線がある。
「……嫌な感じだな」
「まあそういうもんだよ」
リオレスはあっさり言い、食事に手を付け始める。
「応援してるわ」とミレイが言った。
「別の寮の応援なんていいのか?」
「関係ないでしょ、寮が決まる前からの友人だもの」
「というかリオレスは出場だろ?」
「可能性は高いかもね」
高いなんてもんじゃないだろう。個人戦選出はまず間違いないはずだ。
「フェンは?」
「いや俺は無理だろうなぁ。ツクヨとアーマテスだろドラゴの他は」
「団体戦に選ばれる可能性はあるだろ?」
「団体戦かぁ。一応準備はしておこうかな」
正直、フェンはそこそこやりそうな気がすんだよな。普段がおちゃらけてるが基本スペックは高そうだ。
ぐ~
フェンの腹の音が鳴り、尻尾が垂れ下がる。
おっと、話に夢中になって昼飯がまだだった。
「まあ、とりあえず食べようぜ」
「そうだね」
既に食事を始めていたリオレスに続いて俺とミレイも食べ始める。フェンは恥ずかしさを隠すために勢いよく食べ物を口へ運び始めた。
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