魔女、再び8
「失礼します。」
入った途端に、今まで嗅いだことのないような変わったにおいが鼻をついた。
サンドラ婆さんの家もそうだった。
この婆さんも、薬の調合でもしてるんだろうか?
薄暗い部屋の中には、大きな棚があり、薬瓶のようなものやなんだかよくわからないものが細々と並べられていた。
「今夜は酒盛りだ!酒はみんなで飲んだ方がうまいからな。」
魔女はとても機嫌が良い。
どうやら根っからの明るいのんべぇのようだ。
「私は酒はいらない。」
グラスを出そうとした魔女にユリウスが不機嫌な声を返した。
アレクシスが逃げたと聞いたからか、ユリウスはすこぶる機嫌が悪い。
「なんだと、酒がいらんだと?」
ユリウスのせいで、魔女の顔から笑みが消えた。
「す、すみません。
この二人は酒が飲めないんです。」
「男のくせに酒を飲まんとは…」
「本当に情けないですよね。
でも、私は、酒が大好きです。
ぜひ飲ませて下さい。」
せっかく家に入れてもらえたのに、このまま追い出されるのは馬鹿馬鹿しい。
それにアレクシスのことも話を聞いておきたいから、俺は魔女を怒らせないように調子を合わせた。
なんで俺がこんなに気を使わなきゃならないんだ。畜生…!
「そうか…では、今夜は女同士で仲良く飲むとしよう。
……おまえさん達は、酒を飲まんのならとっとと寝たらどうだ?
そこの部屋を使え。」
婆さんはなんとか機嫌を直してくれた。
俺はほっと胸をなでおろす。
ユリウスとアランは、そそくさと隣の部屋へ入って行った。
「それじゃあ、かんぱーい!」
「かんぱーい!」
俺と婆さんはグラスを合わせた。
「あぁ、うまい!
さすがに人間の酒はうまいもんだ。」
婆さんは、子供のような笑みを浮かべた。
「そうなんですか?
私は魔女の酒を飲んだことはありませんが…」
「悔しいことに、魔女の酒はどうもいまひとつうまくないんだ。
余計なものが入りすぎてるのかもしれんな。
それとも、イザベラの作る酒がまずいだけなのか…
とにかく、酒は人間が作ったものに限る。
とはいえ、人間の町に行くのもなんだか行きづらいものでな。
飲みたくてどうしようもない時だけ買いに行くんだ。
だから、今夜は本当に嬉しいんだ。
ありがとうよ。」
「いえ…実は、もう一本あるんですよ。
今夜は二人で飲みましょう!」
俺が袋の中からもう一本の酒瓶を取り出すと、魔女は手を叩いて喜んだ。
これは実は俺が個人的に飲もうと思って買っておいたものだが、二人で飲むには一本では足りないと思ったので、それも提供することにした。
けっこう強い酒だったせいか、数杯飲んだだけで婆さんの顔色はほんのりと赤らみ、だんだん陽気になっていった。




