惑わしの森20
「じゃあ、行って来るからな。」
もしかしたら、これが最後の挨拶かもしれない。
ロープが切れでもしたら、それでおしまいなんだから。
そう思うと、心が震えた。
二人に支えられながら、俺の身体が少しずつ下に降ろされていく…
少しずつ、少しずつ…
こうなったら、俺には何も出来ることはない。
俺の命は、ロープと上の二人に託されている。
(なんでこんなことになっちまったんだろう?)
俺は少し前のことを回想した。
あの時…俺が大声を出してアレクシスを逃がしたりなんかしなければ、今頃、俺はエリーズと甘い生活をしてたんだ。
アレクシスを逃がしちまったばっかりに、俺は女にされ、今は目もくらむような崖っぷちに中吊りにされて…
(なんてこった……)
下を見るとぞっとするような光景…
ただ、ここの空は明るい。
それを見てるだけで気持ちが少し紛れた。
その時、俺はふと崖の表面に穴が開いてるのをみつけた。
それほど大きな穴ではないが、人が入れるくらいの穴だ。
鳥の巣穴なんだろうか? そんなことを考えていると、また別の穴をみつけた。
(これは…!)
崖にはいくつもの似たような穴があいていたんだ。
それを見て俺の頭に浮かんだもの…それは、『ありの巣』だった。
そうだ、きっとここが『ありの巣』に違いない!
こんな所にあったんじゃ、道理で気付く者もいないはずだ。
「止めてくれ!」
俺は上に向かって声をはりあげた。
慎重に身体を揺らしながら、穴のひとつに足を掛けた。
慎重に穴の中に身体を潜り込ませた。
中は狭く、少し進むとすぐに行き止まりになった。
俺は引き返し、また外に出ると、近くの違う穴に入り込んだ。
しかし、そこもさっきと同じく入ってすぐに進めなくなった。
「少し降ろしてくれ!」
俺はまた声を張り上げ、少し下の穴に入った。
諦める気はなかった。
ここが俺の読み通り、お宝のある『ありの巣』だとすると、どこかに必ず奥に進める穴があるはずだ。
そんなことをさらに何度か続けた後、俺はついに特別な穴をみつけた。
他の穴と同じように、這いつくばって進むと、突き当たることはなく、先はだんだん広くなり、立って歩ける程の高さがあった。
その道は下に向かってのびている。
もしかしたら、これは下まで繋がってるんじゃないか?
ふとそんな気がした。
「お~い!ここだ!」
俺は穴を引き返し、ロープをほどいて上に向かって声を張り上げた。
二人が俺をのぞきこみ、ロープがするすると引き上げられていく。




