全人願望
「何を驚く、新規参入者、代償魔術、願いを叶える代わりに何かを差し出す非常に古典的な魔術だ」
「さぁ、全人願望の前に平伏せよ、『魔女喰らい』、所詮、他人の願望器を自身に当てはめたところでそれはあくまで似たものでしか無い、もはや真実を手にすることはもはやあたわず。それが貴様の絶望だ」
散文的な術式に答えて、大口と呼ばれた紫の斑模様の蛙が、彼女の云う絶望を力に変えて放出し、それに男が呑まれ、そして、壁にその形を人型の染みとして焼き付けた。
しかし、じゃらじゃらとじゃらじゃらと鎖を鳴らす女は、再び、自身を切り取り自身の魔女に放り投げ、
「そういえば、あなた方の教義は絶望だったわね」呆れたようにもはや半面を失くした女が、残りの革に包まれていない半面を器用に動かし言う。
「そう、始まりは絶望」荘厳に壁に染みついた人型が言い。その言葉は重厚にに響いていく。
「行く手にあらゆる絶望が転がっているのは想定済み」十字路から現れた髪を振り乱し、素足をざらざらの路面で削り続ける女が言い。
「だが、あれほどの絶望は無い、あれほどの絶望に未だ出会った事は無い」両の瞳から血の涙を流す少女を抱えた少年が昏い声で唱和する。
「「「だから、その程度では止まらない、それは止められる程の絶望ではない」」」一人の言葉に一人の言葉が重なるように次々と次々と顕れる人とともに言葉の呪詛が続く
「だから、お前こそ、立ち止まれ『魔女狂い』、この絶望に呑まれろ”全人願望”」再び自身を形作った男が、深淵を覗かせる昏い瞳で告げ、その声に答えて、顕れたヒト型どもの髪が、伸び結合し結合し、一つの檻を形作る。
「囚われろ、アラクネの織」言う言葉を無視するかのように、女が無造作にその澱の中を歩く
その糸の一つを裁ち切る度に、自身の身を何かに置き換えながら女が歩く。
「もはや、立ち止まることなど、できるものかよ、それが”全人願望だ”そう、それは、恐怖に追い立てられた願望故に、立ち止まることは死と同じだ。立ち止まったら全ては終いだ。死とは停止だ。そこで止まってしまうと言うことだ。だから、立ち止まらる事などできるものかよ、それが”全人願望”だ」
「「しかし、この絶望と欲望が交わる先は、すでに交わることのない終末、既に記述されてしまった結末、だから!!」」
そうして、そいつらが、一斉にこちらを見る。二対の瞳が、四対の瞳が、見えざる眼差しが一筋の光明のようにぺぇじを飛び越し、お前を見る。
「「未だ、目覚めぬ物語よ、未だ記述されない物語よ、未知なる者よ、新たなる結末よ」」
「「「「さぁ、魔女を探せ、魔女を捜せ、魔女を探し出せ、おまえだけの魔女を捜し出せ、繰り替えされる運命の輪を止めて、斬って、ごちゃ混ぜにするのは、いつも、いつも新たなる登場人物だ」」」」




