49. 校外実習 ~ 採取の時間 ~
「さーて、何をとって来いっていうのかな……」
メモをもらって帰ってきたマリウスが、言いながら四つに折られた紙を開く。
教師はメモ、と言ったが、それにしては少し大きいのではないかと思う。
ノール以外の三人で、メモを持つマリウスに寄って手元を覗き込む。少し遅れて、ノールも紙を覗く。しかしマリウスの向かい側から覗き込んだため、逆さまの文字に眉をしかめた。
諦めて離れていこうとするノールを、ティルが自分の隣にひっぱった。
「えーっと、傷癒草三株、魔草五株、痺れ草三株、マダラキノコの胞子、ムラサキキノコの胞子、コウシキノコの胞子、各小瓶一つ分――――」
読み上げるマリウスの声に合わせて、その物を脳裏に思い浮かべる。
傷癒草は傷薬の原料だ。すりおろしたり煎じたり煮出したりと、治癒成分をいろいろな方法で抽出し、薬にする。そのまま摂取しても多少の効果はあるが、効き目は弱く苦みも酷いので大抵は薬に加工する。
魔草は魔力の回復薬の原料。傷癒草と同じく、薬にする。ちなみにこちらは、そのまま摂取すると非常に辛い。
痺れ草は麻痺毒の解毒剤の原料。各種キノコの胞子は、特定の割合で調合すると腐食毒の治療薬になる。
「この辺りは、昨日見かけたな。採取もしていたし。まあ、今日の分は今日の分で、採取するべきだろうがな」
ガードが言う。もちろん、採取していたのはティルだ。
あれは完全に私物として採取していたし、課題として出されたのだから改めて採取するべきだろう。
それからいくつか、どこにでも生えている薬の原料となる植物の名前が続き、指示されている数もそんなに多くないこともあって、これなら簡単にそろうだろうとアルフたちは思った。
しかし、そんなに簡単に終わらせてくれるはずがなかった。
「…………ん?気のせいかな?――――マートルの花、とか見えるんだけど」
「……気のせいじゃないな。俺にも見える」
「というか、そこから下、全ておかしいだろう」
首をかしげるマリウスに、ティルが同意し、ガードがさらに下を指す。
マートルの花は、一年に一晩だけしか花を咲かせない植物の花だ。しかも、特定の場所にしか生えていない上に、それは滅多に人が踏み入らないような深い森の中で、ここのように人の手が入り管理されているような森に発見例はない。
少なくとも、マリウスたちは知らない。
そしてその下。
凍土に生えているとされている花だとか、砂漠の中で見つかる特殊な鉱石だとか、火山の火口でとれる石だとか。
あげくの果てには翼竜種の爪ときた。
そんなものここにはいないし、仮にいたとしてもとれるわけがない。
内臓系ではなく爪なので必ずしも倒す必要はないが、無理なものは無理だ。
明らかにここにあるはずのないものに、あったとしても手に入れられないものだ。
それをとってこいとはどういうことだ。
マリウスたちと一緒に首をかしげていたアルフは、ふとあることを思い付いた。
しかし、いや、まさかなと思い直す。
けれどその一瞬の表情にガードが目をとめた。
「どうした、アルフレッド。何か気付いたのか?」
(う~ん、まさかとは思うんだけど、他にないよなぁ?)
何か気付いたのなら言え、と視線で促され、迷った末に思い付いたことを伝えてみることにした。
『多分だけど、先生たちとか、雇われた冒険者の人とかが、持ってるんじゃないかと』
「え、何で?」
『先生は収集しろと言った。採取しろとは言ってなかった』
「……そういえば、そうだった気も……」
「じゃあ、どうする?」
「……ひとまず、自分達で手に入れられるものは手に入れてしまおう。リストの全てを揃えろとは言われていないからな」
「それじゃ、朝ごはん食べたら森に入るか」
ティルの言葉で、五人はひとまず朝食をとることにした。
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アルフが、採取した木の芽を小袋に入れて、木の上から身軽に飛び降りる。
「ルドの木の芽、採取完了、と」
袋の中身を確認して、マリウスがリストの項目を消す。
採取したものを入れる袋や瓶は、学院側が貸し出しているものを借りた。
もちろんアルフの亜空間倉庫にも入っているのだが、ここは大人しく学院から借りようということになった。
借りに行ったとき、教師がからかうように採取の道具は持ってこなかったのかと言ったのだが、アルフは、持っているがこの実習のために用意したものではないからと答えた。鍋のことはすっかり記憶の外だ。
ようやく学院のサポートを受ける気になったかと笑いながらも、教師は内心、次回からは亜空間倉庫に何らかの制限を掛けなければならないなと考えていた。
ちなみにティルは、鍋を火にかけているためにテントで留守番だ。どうしても、もう少し煮込みたいらしい。
「………何か、昼前に集められる分は集めちゃったんだけど」
「アルフレッドがやけに目敏いのがいけない」
「!?」
たくさん見つけたのに、それが悪いと言われてアルフは軽くショックを受けた。
あくまで軽く、だが。
「何て言うか、アルフ一人で学院側の計画いくつ潰したのかな」
「…………クラッシャー」
「!!」
ポツリと呟かれたノールの言葉に、アルフは先程よりも大きなショックを受けた。
「まあ、とにかくもうすぐ昼だし、食事に戻ろう。ティルも待ってるし」
一晩じっくり煮込んだ鍋は、非常に美味であった。




