37. 蛇姫の加護
「伝心、か。色々確認しておきたいな。使用可能な距離、は今は無理だから、とりあえず他の条件を検証するか」
リオンの言葉に、アルフは少し考えて、意識のみをマリウスに向けた。
[マリウス、聞こえる?]
「え?あ、うん。聞こえる」
突然のことにマリウスは驚いたが、すぐに返事をする。
どうやら話しかけたい相手を見ていなくても通じるようだ。
次に、ミルドとセセリアの二人を対象とする。
[爺様の仲間の方々ですね。孫のアルフレッドです。アルフとお呼びください]
「は~い、あたしはセセリア・ソーリアで~す」
「僕はミルド・ソーリア。リアの旦那さんだよ」
二人はアルフに応えて名乗る。他の者に聞こえている様子はない。
明確に届ける相手を意識すると、その相手以外には伝わらないようだ。
(さて、次は難しいな。誰も意識せず、周りに意思を流す。そもそも言葉なんて誰かに伝えるためのものだし、こうして考えてることも自分に対するものだし。――ああ、そうだ)
[爺様。ウィンガード殿下と、俺の友人のマリウスです]
「おう。はじめまして二人とも」
「……お噂はかねがね」
「は、はじめまして!」
違和感のない会話の流れに、上手く行った事を確信する。
誰にあてるとも意識せずにただ思考を垂れ流すだけ、というのは難しいので、アルフは別のやり方を試した。最初に範囲を指定してみたのだ。
そしてそれは、成功した。
[爺様、伝心のスキルの概要、大体把握しました]
「そうか。じゃあ次は、蛇姫の加護だな」
「内容は読めばすぐわかるけど~」
「疑問は、どうやって取得したか、だね」
セセリアとミルドの言葉に、アルフたち三人は顔を見合わせる。
蛇姫、という言葉自体に覚えはないが、思い当たることはある。
「ん?どうしたちびすけ」
三人の様子に気付いたリオンが首を傾げるのに、アルフは黙って研究資料を渡した。
リオンが読み終わるのを見計らって、アルフは言う。
[生き残った被検体が、一体だけいた]
「……何?」
アルフの言葉にリオンは辺りを見回し、不自然な布の小山を見つけた。
……アルフの取り出した布では彼女の身体を全て覆うには小さく、布の下から蛇体が覗いている。
「これは……ラミアか」
[ラミア?」
「魔物領にいる魔物よ~。男がいない種族でぇ、ヒトの男を捕まえて子供を作ったら、その男を食べちゃうんだって~」
「けど……これを見る限り、ラミアは実験の結果生まれた種、ということになるよね」
「てことは――こういう研究所は他にもあって、そこから逃げ出したりしたのが外で増えて、今のラミアになった……」
「ラミアの他にもいるかもしれませんね」
「あ~、ちょっとヒトっぽいのとか、やたらいろんな種類の生き物が混ざった感じがするのとか、怪しいわ~」
「しかしちびすけ。生き残りがいたってことは、こいつは生きてたんだな?」
[うん。けど、殺してくれって頼まれた。だからこれで]
女の胸を貫いた短剣を、リオンに見せる。
かつて自分がアルフに渡したものだから、それがどういうものかリオンにはすぐにわかった。
それが本当に、女の望みだったことも。
「そうか。じゃあ、この加護はお前への感謝の印か」
リオンの言葉に、アルフはふと思った。
この加護が彼女から自分への感謝ならば、これは自分に限ったことではないのではないか、と。
[マリウス、声に出さないで俺に話しかけてみて]
「え?えっと……」
急に言われて戸惑いながらも、マリウスは何とか言われたとおりにやってみる。
[えーと……何言えばいいんだ?あ、アルフとお祖父さんそっくりだな]
[やっぱり……]
「なんだよアルフ。どうしたんだ?」
[爺様、ガードとマリウスのこともカードで調べてください]
「ん?いいけど……」
リオンは新たに二枚のカードを取り出した。
そしてアルフがしたように、各々の血をカードに認証させる。
ウィンガード・ヴァン・カーフィ・ミレイド・エルフール・アランシア・シグサイ(11)
状態 健康
スキル
剣術 6 魔術 7 弓術 4 格闘 5
マリウス・レインフォール(9)
状態 健康
スキル
剣術 5 魔術 3 弓術 3 格闘 4
アルフと同じように、名前、状態、スキルと表示され、その下。
EX
蛇姫の加護 伝心
二人にも、蛇姫の加護と伝心があった。
やっぱり、とアルフは思った。
今までそんなこと出来なかったのだから、伝心のギフトを得たのはここでだ。
それならば、三人の取った行動に大した違いがない以上、他の二人もギフトを得ていておかしくない。
「何だ、二人にもあるのか」
[……三人で、刺したから]
「アルフレッド一人に押し付けるわけが無いだろう」
「あんなこと、一人でさせられません」
お友達ねぇ、と微笑ましいものを見るような顔のセセリアにガードは一瞬ムッとした顔をしたが、なにも言わなかった。
「蛇姫の加護は当然ラミアだとして、多分伝心の方もラミアだな」
[そうなの?]
「魔物は、言葉以外の何かで意思の疎通をしてるらしいんだよな。鳴き声なんかでもない。きっと連中は、このギフトを生まれつき持ってるんだろうな。で、お前が喋れないのを見てくれたのかもな。二人のぶんはおまけとか、サービス?」
潜入任務で重宝されるな、と笑ったあと、不意にリオンは真面目な顔をした。
「ギフトのことは、ここだけの秘密だ。特に伝心。まあ、陛下とかエトランドとかマーリアなら構わない。悪いが第一王子とかウィルとかレインフォールの家族には言わんでもらいたい」
「……わかった」
「は、はい」
利用される可能性を危惧しての言葉に、二人は頷く。
アルフも、それは仕方がないと受け入れた。
三人が理由を理解した上で頷いたのを確認して、リオンはよしと笑みを浮かべた。
「さて、それじゃ帰るとするか」
リオンの言葉にアルフたちは、どうやって?と首をかしげた。




