35. マッピング
転移の終了と共にミルドが結界を張り、リオンがさっと周囲に視線を走らせる。
「異常なし。結界解いていいぞ」
「了解。――ん、下層に魔力を弾く何かがあるね」
「そうか……この部屋に出口はないな。てことは下か」
「あ、ねえ。この魔力残滓、シーヴのお孫さん?でしょ?よく似てるわ~」
すぐに動ける姿勢から背筋を伸ばし、辺りを確認する。
危険がないのを確認して、リオンはミルドに結界を解かせた。
そこで、辺りの魔力を探っていたセセリアが声をあげた。
指先でちょいちょいと漂っている魔力を弄びながら、楽しそうに笑う。
「おー、そうだな。うん、ちゃんと結界張ったみたいだな」
「シーヴのお孫さんって、まだ十歳よねぇ。急に跳ばされてとっさに結界張るなんて、流石~」
「当然だろう。俺の孫なんだからな」
堂々と胸を張って孫自慢をするリオンに、ミルドは苦笑する。
「はいはい、それはいいから、さっさと下に行こう。いくらシーヴのお孫さんが優秀でも、やっぱりまだ十歳なんだから」
「おーう。んじゃ行くか」
軽く言って、リオンは短槍を取り出した。
通路に出て軽く振り回し、問題がないことを確認してよしと頷く。
「ミルド、指示を。最短で下まで降りる」
「りょーかい。――よし、準備完了。じゃ、行こうか」
ミルドの合図と共に、三人は駆け出した。
先頭はリオン。次がセセリア、しんがりはミルドの順番だ。
リオンが先頭なのは当たり前だ。その後ろは、ミルドがセセリアをしんがりに付けることはないのでこの面子だとこれも当たり前だ。
一般的にも特に変なところはない。
しかしどうしても、異常な点があった。
そのスピードである。
駆ける三人の速さが、尋常ではない。
常人の目には映らないだろう速さ。
そんな速さで駆けながら、出てくる敵は一瞬でリオンが屠り、セセリアが浄化する。そしてミルドが、道を指示する。
その間、彼らは止まらない。
一時たりともその足を止めることなく、走りながら全てを行うのだ。
リオンたちはあっという間に下層へ続く階段にたどり着き、何の躊躇もなく飛び込んだ。
初めて来た場所でなぜ道がわかるかというと、ミルドの術による。
ミルドは己の魔力を使い、周囲の地形を把握することができる。
使おうとすれば誰にでも使える術ではあるが、使いこなすのは難しい。
まず、把握することの出来る範囲は魔力量に比例する。広範囲を知ろうとすれば、それ相応の魔力量が必要になる。
この国の平均的な魔力量だと、一般家庭の家の中で精一杯だ。
そして、情報の精度、密度にも違いが出てくる。
ミルドだと小さな石ころでも把握することが出来るが、一般的には大きな塊を認識する程度だ。
今回ミルドは無詠唱で使ったが、詠唱が嫌になるほど長い。
便利ではあるが使い勝手が悪い術だと、冒険者の間では有名で、マッピングをこの術で行うものはほとんどいない。大抵は紙とペンを使う。
しかしそれができても、まだ使えているというレベル。
使いこなすというのなら、生物と有機物、無機物の区別を付けられるようにならなければならない。
魔力が通った時点の情報を術者に伝える術なので、生物も有機物も無機物も静止している。
それに区別を付けようとすると、単純な方法としては断続的に魔力を走らせる必要があるが、それだと消費する魔力がバカにならない。いくら魔力があっても足りはしない。
そこでミルドは、伝わる情報に違いを見つけることにした。
魔力が通ったときの反応で、いくつかの違いが有ることを見つけたのだ。
どう違うか、リオンも訊いたことがあるのだが、さっぱり理解できなかった。
最早これはミルドの天性のものだろうとリオンは思った。
そんな難易度の高い術を使いながら、足を止めることもなく、事前に道を示す。
ミルドの指示に従いながら敵を屠りつつ、リオンはコイツの頭の中って相変わらずどうなってんだかわかんねえなと考えていた。
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「ここか」
ミルドが、止まれ、と指示した場所で、リオンが止まった。
その視線の先の階段には、結界が張られている。
それがアルフによるものだと確認して、リオンは静かに結界を解除した。
当然アルフは気付いただろうと、リオンの口もとに笑みが浮かぶ。
リオンからしてみれば簡単に解除できるまだまだ未熟な結界だが、アルフはまだ十歳なのだ。
これからいくらでも伸びる。
だって自分の孫なのだから。
楽しそうに笑うリオンを見て、コイツの孫は大変だ、とミルドはセセリアと視線を交わして苦笑した。
無造作に階段を降りて、開口一番。
「おう、ちびすけ。迎えに来たぞ!」
[爺様!?]
「…………ん?」
突然頭に響いた声に、首を傾げた。
はて、この声は一体なんだ?
爺様。
爺様と言ったか。
そんな風に呼ぶ者は、この場どころかこの世に一人もいない。
一人目は声が出ず、二人目はまだ喋れないからだ。
それなのに、何故。
辺りに視線をさまよわせ、目を丸くして自分を見ているアルフと視線があった。




