9.キッタカール村、到着
キッタカール村へ到着した。
森で合流した時間を考えると夜営したとは言え丸一日移動している。馬車でこの時間を移動したことを考えると結構な距離があったはずだ。
あらかじめ聞いていた話の通り、村は閑散としていた。
家屋はどれも簡易的なもので所々傷んでいる。農作物も見えるが痩せ細っていて食べる量を確保するのも苦労しそうだ。
北側のキッタカール山は鉱山として開拓を進めているらしい。人間やオークが作業のために出入りしているのが見えた。
王族の屋敷は村の西側にあった。
村の寂れ具合を考えるとこの村には相応しくない立派な屋敷だ。何も知らずにこの村を見たら領主が村人に重税をかけて自分たちだけ贅沢をしていると思われかねない。
だが、実際は先代の王女が来る時にさすがに国が不憫に思って建てたくれたものだとクリスから聞いた。
どうやら先先代まではエルフの森の南側にある街までしか来ずに、冷遇の地域なりにそこを発展させてきた。
何故、先代からさらに北に来るようになったかというと珍しい鉱物を発見する魔法だったとのことだ。ただ、発見するだけで採掘ができるわけではなく、またこの山は高さがどこまでも見えないほど高く神聖なものとして崇められ今まで調査も行われてこなかったから手探りで採掘を始めた。しかし、特殊な鉱物を掘るには技能も道具も無く人手も足りず遅々として開発は遅々として進んでいない。元々、この付近にいた人やオークやゴブリンに任せきりで王都から開発に関して助けは来ない。それでも定期的に鉱物の回収は来る。王都も鉱物は欲しいがどうしていいか分からないのが現状のようだ。
その話を聞いた時に女王は直感的に巨人の手なら鉱山開発を進めることができると考えてノエルを派遣したのではないかとも思った。
真相は分からないが、あり得ない話ではなそうだ。
ただ、それなら使命を伝えても良さそうなのだが、そこら辺の具合が分からないのがもどかしい。
屋敷に到着するとジョルジュ夫妻が出迎えてくれた。
60歳くらいの優しそうな夫婦だった。
ジョルジュは元騎士団の北の隊隊長でクリスの師匠とのことだ。いわゆる副隊長級だから魔力も授かっているはずだ。元騎士だけあって背筋も伸びて細身だが鍛えられているのが伝わる。優しそうな目をしているがその奥の眼光は鋭く感じる。
そしてこの地にいるということは政争で何か巻き込まれたということは想像できるようになった。
「お待ちしておりました、ノエル様。クリスもここまでの護衛ご苦労だった」
「お初にお目にかかります。ゴルド王国第八王女ノエルです。これからこの地を共に豊かにしていくために参りました。まだ分からないことも多くありますが、以後よろしくお願いいたします」
ノエルの挨拶は15歳には思えないくらいしっかりしていた。ジョルジュも感心しているようだ。
クリスの指示で荷物が下ろされていく。御者の男は荷物を下ろして早々と立ち去っていった。今のうちに出発して夜通し走って南の街まで帰りたいらしく空が明るいうちから火を貰って走って行った。こんな場所からは一刻も早く立ち去りたいような印象を受けた。
ブライとサラ、それにジョルジュ夫人が荷解きをしているうちに、俺とクリスとノエルとジョルジュで今後の話し合いを行うことになった。
「ノエル様のお付きはクリスの他は二人と聞いていたが、この方はどなたですかな?」
ジョルジュが早速切り込んでくる。それはそうだ。予定になかった同行者がいたら気になるだろう。
「この方はタロウ様です。旅の途中で魔獣に襲われていたところを助けていただきました」
「タロウと申します。魔法剣士です」
俺は職業の証のアクセサリーも胸から取り出してジョルジュに見せる。
「失礼」
ジョルジュはそう言うとアクセサリーを受け取り確認する。俺には見分け方は分からないが、何かあるのだろうか。
一通り裏表確認して返してくれる。
「失礼、これは本物ですね。万が一、危険があってはいけないので確認させていただきました」
「それにタロウ様は転生者ですの」
ノエルが言う。
「そうでしたか。転生者は魔障気が強いところに現れ世界を救うと言われていますが、この地に転生するのは不思議なものですね。それに魔獣に襲われたのも不可解です。私がこの地に赴任して30年近く、魔人も魔獣も現れたことはありませんでしたから」
クリスも似たような話をしていたな。魔障気が発生するようになったから俺が転生したのか、俺が転生したから魔障気が発生するようになったのか……後者だと申し訳ない気持ちもあるが女神様も何か考えがあったと信じたい。
「ジョルジュ様にご相談があります。タロウ殿をノエル様の補佐する役目として任用していただけないでしょうか。タロウ殿はノエル様の魔法を視認することができます。昨夜も手の使い方に助言をしてくれました。いかがでしょうか」
「私からもお願いいたします」
クリスの言葉にノエルも続いた。
「ノエル様にまでそう頼まれたら断るわけにはいきませんな。役職としては私の補佐ということで執政官補佐ということにしましょう。ブライとサラに教えていくつもりだったが若過ぎて不安だったのだ。ちょうど中間に入ってくれる者ができて安心した。それに魔法も使えるなら心強い。少し未来が明るくなったようだ」
こうして俺は執行官補佐となった。それにしても転生してからも中間管理職のようなポジションに就くとは思わなかった。
「それにしてもタロウ殿の布の服は執政官補佐としては少し見栄えがよくないの。着れそうな服も無いですし、どうしたものか。転生者は鎧とか着てくるものかと思っていたのだが」
確かにジョルジュの言う通りだ。刀や短剣まで持たせてくれたのに服は貧相だ。女神のバランス感覚は少しおかしいようだ。
「それには昨夜襲撃された魔獣の皮を使って服と鎧を作ってもらうようにゴブリンにお願いしてきました」
クリスが先ほど依頼していたのは俺のためだったのか。そこまで考えてくれていたのには感心した。
「ゴブリンたちは物作りは好きだが、見栄えはあまりよくないのが難点だが、魔獣の皮ならそれなりの品が仕上がるだろう」
ジョルジュの言葉は気になるがこの布の服より良くなるなら素直に受け取ろうと思った。




