70.声を奪う
「ヨーン、どういうことなの?」
ミネスが状況を把握しようと何とか口を開いた。
「やっぱり魔力を持つ人間には効かないようですね。するとミネス様と騎士団のナズマ、それに転生者の二人の声は奪えなかったですかね」
ヨーンがそう言う。シノブの正体はやはり知らないようだ。シノブもヨーンの話に合わせて声が出せないふりをすることにしたようだ。
「こんなことして何が目的なの?」
「儂はこの地で芸術の発展を願って私財の投資し続けてきました。歌や音楽だけでなく、総合芸術都市にするために。でも、先代の王女もあなたも歌ばかりで他のことに興味があっても王族の上っ面が上品なものにしか目がいかない。儂はもっと様々な視点を持って独特な才能を持った人間が世に出るべきだと思っているのです。そのために多少の狂気を持って犠牲を払ってでも才能を発掘するべきなのです」
「そんなの狂ってる」
「狂ってないと本当に良い作品は生み出せないのですよ。私の要求を今から伝えます。まずは王女と騎士団、その関係者のガルメロからの撤退。今、この場にいるものは人質として残ってもらいますが、才能ある者にはこの国の各地にいる狂った才能を求めている金持ち連中の元でさらにその才能を伸ばしてもらいます。ただ、そんな連中なのでどんなことをするのかされるのか保証はできませんが」
「そんなことしてもすぐに騎士団本隊が来るわよ」
「そのための人質なのです。この魔道具を壊せば一生彼らの声は返りません。無理な攻撃もできないでしょう。それに自警団は傭兵部隊を雇って既に少し離れたところに待機させてあります。ガルメロには私を理解できそうな人はいなかったので時間はかかりましたが外に協力者を作っていたのですよ」
ヨーンは予想以上に用意周到だった。
「最後にゴルドからの独立も宣言します。多少の犠牲はでますが、王族ではできない完璧な芸術国家としてガルメロを成長させていくのでご安心ください」
「いきなり独立して国として成り立つわけないじゃない!」
「それはそうかもしれませんね。まずは大手三国に属しない独立した自治領ってとこでしょう。ゴルドと取引できなくてもブリダやフィルニアに協力してくれそうな街はあるので、それらの街と交易をしていくことから始めますよ」
「そんなこと……」
「分かったならあなたは騎士団共々出て行ってください。支度する時間くらいはあげますから。それに王女という身分が無くなった方があなたの好きな歌に使える時間が増えますよ。なんなら儂の国に迎えてあげてもいい」
「そんなの絶対に嫌よ」
「それなら命までは取らないので出て行ってください。傭兵部隊には王女御一行様は通すようにいってありますから。そもそもガルメロの騎士団では勝てないような凄腕が来てますので反撃などは無駄かと思いますが」
ミネスは悔しくて目に涙を浮かべている。だが、民衆の前で泣くわけにいかないと堪えているように見えた。
するとシノブがヨーンに近付いていく。
「何かな?」
迂闊に近付いて大丈夫なのだろうか?
シノブの行動にヨーンも不審がっているようだが。
シノブはヨーンの前で跪いた。声が出ないから忠誠の意思を態度で示しているらしい。
「お前はジーアールの一員のシノブでしたかな? 早速、私につくとは頭がいいですね。可愛がってあげましょう」
ヨーンの言葉にシノブは立ち上がり笑顔を見せてヨーンに抱きついた。
ヨーンの警戒心もスケベ心には勝てなかったのか。シノブが転生者と知らなかったから警戒心が薄くなっていたのか。計画通り声を奪えたから油断したのか。
恐らくその全てだったと思う。
ヨーンはシノブのハグを受け入れてしまった。
シノブは抱きついたように見せかけてヨーンを縛り上げてしまった。シノブの手にはヨーンの持っていた魔道具が握られている。
「お前は何者だ? 何のつもりだ! それを壊したら取り返しが付かないことになるぞ」
ヨーンが叫んでいるがもう遅い。
「魔力が無い人間が使う魔道具なんて簡単に解除できるのよ」
シノブはそう言って魔道具を操る。すると魔道具は光を放ち砕け散った。
会場の人々が少しずつ声が出始めたようで、音が戻ってきた。
「分かってるのか? こんなことしても待機している傭兵団に皆殺しにされるだけだぞ。お前はここにいる一万人いる人々が殺されるきっかけを作ったのだ」
「傭兵団を返り討ちにするから問題ないのよ」
シノブはそう言ってミネスに向かって振り返る。
「詳しい説明は後です。ヨーンの狙いもはっきりしました。傭兵団を撃退しましょう。作戦はあります。まずはミネス様から会場の人達へ避難を促してください」
ミネスが観客に焦らずガルメロの内部へ避難するように指示をした。
会場に残ったのは俺とタモツ、シノブ、ミネス、ナズマを含む騎士団だった。捉えたヨーンも舞台上で逃げられるように縛りつけれたままだ。
シノブが作戦を提示する。




