68.あいどるぷろでゅーさー
「すまない、タロウ殿。簡単に説明するでござる。拙者は女神様にアイドルをプロデュースしながら人助けもできそうだけど、転生してみる? って言われてこの世界に来たでござる。そしたら思ったより大変でござったが。それにしてもあの女神様、拙者の推しにそっくりでござったな……」
女神もなかなか雑な誘い方をしたものだが、タモツ相手にはこの方が有効かと思ったのかもしれない。
「何言ってるのよ、タモツ。女神様は舞台の男形をやるような女優さんみたいだったじゃない。あなたの推しとは全然違うわよ」
「いや、あの女神は転生者の望んだ姿に見える魔法みたいなのを使っているんだよ。って、そんな話はどうでもいいからクーデターの話を教えてくれよ」
俺とキョウヤ、それと今回の二人の話を聞いみて分かった。やはり女神は相手によって見える姿が変わるのは間違いなさそうだが、その目的が分からない。
「すまなかったでござる。拙者がこの地に来た時点でヨーンはミネス様を唆して新しい芸術を生み出して大きなイベントをやってそこで何かを起こす計画を企てていることまでは分かったでござるが、初めは何がなんだかさっぱり分からなかったでござるよ。そこで転生者だと名乗り出てアイドルの企画を提案したでござる。お披露目までのレッスンや舞台の準備で時間を稼いでそのうちに陰謀を暴く予定でござったが、なかなか上手くいかなかったでござる……」
転生先の課題がこれだと流石にハードモードな気がしてタモツが少し気の毒に思う。
「ちょうどタモツが転生した頃、私が自分でガルメロで怪しい動きをしている奴がいるって情報を掴んだのよ。そこでガルメロでアイドルオーディションの開催の情報まで流れてきてね。これは怪しいと思ってオーディションに参加したのよ。そしたらタモツがいてびっくりしたわよ。まさか握手会に来ていたオタクがプロデュースしているなんて思わないじゃない」
「拙者もびっくりしたでござる。それにしても認知されていたなんて嬉しいでござるなぁ」
タモツは最推しのグループこそ俺と同じだが、年間300日アイドルの現場に行くことで有名なオタクだった。SNSでも情報発信を続けていてちょっとしたインフルエンサーでもあったのだ。
「タモツはいい意味で界隈の有名オタクだったからね。まぁ、タモツが悪事の黒幕ってことは無さそうだから素直に私の正体を明かして協力してるの。私は女王様の密偵みたいなものだから転生者ってことを隠して行動してるから、なかなか大っぴらに動けないからこうやって打ち合わせってことで情報交換してるのよ。だからタロウも私が転生者ってことは秘密にしてよね」
「シノブ殿が来てくれて百人力でござった。アイドルグループも無事に結成してレッスンも上手くいったでござるよ。拙者は表に出てくる演出とかは見様見真似でできてもレッスンとか内部的なものは分からなかったでござるからな」
「私の経験を影で伝えてタモツが引っ張ってるように見せるの苦労したんだからね。それよりも順調に行き過ぎて肝心なことが分からないのよ」
「肝心なこと?」
「そう、ヨーンの狙いよ。何を計画しているのか分からないのよ。用心深いのかガルメロの中には協力者は作っていないみたいでね。外部とのやり取りは手紙でしているみたいだけど暗号化されていて覗き見したくらいでは理解できないのよ。この世界で作ったアイドルも順調に仕上がって舞台の準備もできた。もう時間稼ぎする余裕がないの」
「ミネス様に素直に伝えてみては?」
「肝心な証拠がないのよ。それと、あの子は王女というより自分が歌えていれば幸せって感じのタイプだからヨーンのこと全然疑ってないばかりか信頼してるのよね。証拠もないのにヨーンのことを疑ったらタモツが逆にガルメロから追放しかねないわ」
「追放されたらタロウ殿の地に行くでござるので安心なされ」
タモツがキッタカールに来てくれるのは新しい風が吹きそうだし歓迎なのだが、まずは今ガルメロで起こっていることを止めなければならない。
「騎士団の隊長のナズマに具体的には伝えなくてもそれとなく伝えておくよ。王都からガルメロに来る馬車の中で話したんだけど、彼もヨーンのこと怪しいと疑ってるみたいだったから」
「そうなの。それならよろしく」
「ただ、ヨーンと同時にタモツのことも怪しんでたから上手く伝えないといけないかもね」
「拙者は止めようと動いたけど上手く伝えられてないでござるからな。ナズマ殿、よそよそしいと思っていたが拙者も疑われていたでござるな」
「それでそのイベントはいつか決まってるの?」
「明後日よ」
シノブの言葉に俺はまた驚いてしまった。ガルメロに来てから驚いてばかりだ。
「だから時間がないのよ。もうこれは変えられない。ガルメロの外に一万人収容できる特設会場を作ってそこでお披露目イベントをするのよ。もちろんそれだけじゃなくて街全体でお祭りにするから今はどこもいつも以上に賑やかなのよ」
ガルメロに来た時に感じた賑わいは普段からというよりもお祭りに浮かれた感じがそうさせていたのか。
「元の世界でも一万人規模のイベントっていったら相当のものだけど、そんなに集まるものなの?」
「そうね。この世界じゃ娯楽も少ないから王女肝入りのイベントって宣伝すれば集まると思うわ。実際にチケットも飛ぶように売れてるし。ガルメロの三分の一に相当する人数が集まるんだからそれは街中大騒ぎよね?」
シノブの言葉に本筋とは違うことだが気になることがあって突っ込んでしまった。
「それってガルメロは三万人くらいの人口なの?」
「そうよ。王女が治める地は北以外はどこもこれくらいよ。王都で二十万人くらいね。それ以外で千人以上がまとまって暮らしている町はほとんどないわよ。あればそこそこ発展してるっことね」
今でこそキッタカールは少し発展して人口も増えたがまだ千人にも満たない。転生した頃に人間、オーク、ゴブリンを合わせて四百人くらいと聞いていたから王女が治める地としては全然小さいどころか百番の一くらいの規模だったようだ。
「まぁ、そういうことだから一万人の人出を捌くための動線作りやスタッフの育成も苦労したのよ。イベントとしては失敗はしないでしょうけど、ヨーンの狙いが分からないのが不気味なのよね。タロウも明後日、会場に来て警戒しなさいよ」
「分かったよ」
俺は口ではそう言ったものの、何が起こるか分からない中で当日を迎えるのは不安でしかない。
プロントやキッタカールに襲来した魔獣の方が攻略が単純で分かりやすかった。




