53.水の王女、森の王女
「モニカ、ちゃんと私たちのことも紹介しなさいよ」
馬車から降りてきた少女がモニカに言う。モニカを呼び捨てで呼ぶのはきっと王女なのだろう。
青髪で長い髪を後ろに一つでまとめている。この世界にポニーテールって呼び方があるか分からないがそんな感じだ。馬も存在するのでポニーテールもあるかもしれない。
身長はどの子も大差がないがモニカが少し小さいくらいか。
「私は南領第三王女であり水の王女のピラクよ。今回は用事のついでにキッタカールに視察に来てあげたわ」
キッタカールの住人に宣言をするが、強気な姿勢にみんな困惑している。
それとモニカもそうなのだけど他の領に王女が訪問する場合は歓迎会を開くから事前に連絡をして準備をするという決まりじゃなかったのだろうか?
ノエルはそういう決まりを守りそうだが他の王女は自由過ぎないか。
「リエスは南東領第四王女です……木の魔法が使えます……あの、その、今回は南東領の領主として、その、謝罪に参りました」
こちらは肩くらいまである緑色の肩までたるふわふわした髪型だった。元の世界で少し前に流行した森ガールってまさにこんな感じでリエスは王女というより森から出てきた妖精のようだった。
「ピラクはもっと他の領土にも敬意を持つのじゃ、それじゃみんな困ってしまうのじゃ。それとリエスおどおどし過ぎなのじゃ、それじゃ王女としての威厳が全く感じられないのじゃ。二人とも極端なのじゃ」
モニカの言う通りだった。案外、モニカはしっかりしているのかもしれない。それにピラクはともかく、リエスは自分の領で上手くやれているのかこうやって見ただけだと心配になってしまう。
「はいはい、分かったわよ。モニカちゃんはしっかりしていて偉いわねぇ、よしよし」
これはモニカを馬鹿にしているな。
「こら、馬鹿にするでないのじゃ。普段、ちゃん付けで呼ばないではないか!」
モニカはピラクに馬鹿にされていた。
「モニカちゃん、ごめんねぇ……知らない土地だと緊張しちゃって。ノエルちゃんもごめんねぇ」
リエスは普段から他の王女をちゃん付けで呼んでそうだ。
「いいのよ、気にしないで。リエスはピラクに乗せられて無理矢理連れて来られただけなのだから。あなたは謝らなくていいのよ」
ノエルがフォローしている。
王女たちはもっと女王争いのせいで険悪な関係かと思ったがこの子達を見ていると口調はともかく仲は良さそうに見える。
「別に口車に乗せたわけじゃないわよ。キッタカールがモニカの頑張りによって短期間で発展したなら私たち王女は女王になるために視察しておくべきなのよ」
が言うとモニカが突っ込む。
「本当は?」
「本当は女王争いなんて興味ないわよ。私だけ用事を押し付けられてキッタカールに行くなんて悔しいじゃないのよ。女王争いに躍起になっている東と西の二人は逆に来るわけないから、他の五人を道連れにするつもりだったのよ」
「うちは道連れでなく自分の意思で付いてきたから問題ないのじゃ」
モニカはキッタカールに王女達で視察に行くと言えば付いてくるのは容易に想像できる。
「北東のパルは『アタシは興味ないかなぁ。それにお隣だし会いたくなったらすぐに会えるから』って風の魔法を使ってすぐに帰っちゃうし」
ピラクが文句を言ってると、
「南西のミネスは『私、今"あいどる"の"ぷろでゅーす"してるから忙しいんだよねぇ。今回は遠慮しとく、ごめんね!』ってなんだか聞いたことない言葉を言っていて訳が分からなかったのじゃ。歌の新しい魔法かのぉ」
モニカがもう一人の不在の王女の事情を付け加えてくれた。
アイドルをプロデュース、それは明らかに南西領に転生者がいるでしょ。南西はこの国でも南と並ぶ平和で平穏な場所で文化・芸術の都らしい。そこの王女は歌の魔法が使えるようだが、モニカの口から出てきた単語を聞く限り転生者が裏で糸を引いてそうなので後で女王に通信石で報告しておこう。
それはそうと元の世界でアイドルオタクだった俺はこの世界でどんなアイドルが誕生するかは興味津々だ。できれば南西領に遊びに行ってみたい。視察ということで何とかならないものか。
東西の王女以外の情報が一気に揃ったのには驚きだった。王女の魔法は特に秘匿にされているものではないだろうが、こんなに話しても大丈夫なのものだろうか。
クリスが何か言いたそうな顔で待機しているので、あまり大丈夫ではないのかもしれない。
「ねぇ、ピラク。いい加減、私も紹介しなさいよ」
もう一人の青髪の少女が言った。ピラクと同じような色をしているが、こちらの少女は髪を長めのツインテールにしている。髪色だけ見るとピラクと姉妹に見えなくもない。
確かにもう一人馬車から降りてきていた。モニカとピラクが騒がしいのでもう一人いることを忘れていた。
ピラクを呼び捨てで呼ぶということは王女か?
だが、先ほどの王女達の会話だと東西の二人には元々声をかけず、声をかけた北東と南西の王女は誘いを断り帰ったということだった。
だから今ここにいる王女は四人。来ない王女も四人。
彼女も王女なら数が合わない。
王女は八人で他に姉妹はいないはずなので、この子は本当に誰なのだろう。
「あー、そうね。あんたがいるから私はここまで来ないといけなくなったんだわね。忘れてたわ」
「王女で話が盛り上がっていたら、普通は突っ込める人はいないのよ。みんな困っていたの、分からないの」
この子は正論を言った。ノエルとモニカとリエスは申し訳なさそうに顔を下げた。王女といえど楽しくなれば話は盛り上がるし、注意されたら反省する。こういう所はまだまだ子供だが、俺は堅苦しくなくてそれでいいと思う。
「あんた、今は正論言ってるけど、普段のあんたのわがままがこういう事態を引き起こしてるんだから反省しなさいよ」
ピラクはそう言って彼女を紹介した。
「このプロシパって子は騎士団南隊隊長の娘よ。訳あって北の騎士団に今日から編入するの。よろしくね」
ブライとサラの表情を見ると顔見知りのようだった。騎士団の同じ世代だ。当然だろう。
南の騎士団隊長の娘がわざわざ北の騎士団へ編入するのだ。今までの北の騎士団は左遷先で訳ありで送られてきて辞めていくものがほとんどだと聞いているのだから、訳ありに決まっている。南の騎士団隊長は騎士団は危険が伴うから娘をここに送って辞めさせたいのだろうか。
それならそんなことをせずとも安全な南で手元に置いておいてもそんなに変わらないと思うのだが、親心は分からない。




