52.冬支度
十月も終わりに近付くとだいぶ寒さを身に感じるようになってきた。いよいよ冬がやってきそうだ。
騎士団の連絡所やゲオルグの家族の牧場などの移設もほとんど完了した。
ドワーフ達と相談して村として購入した鉄鉱石をどう使うか考えていたが、鉱山を開拓する道具の補修に使うことが決まった。村の門を鉄製にする案を出したが量が少ないのでまずは一番のこの村の目的の鉱山開拓に役立てることになった。
それとジョルジュが懸念していた労働力も少しずつ改善してきている。
元々はキッタカールは北の果てにある寂れた貧しい村として知られていて他の街や村との交流が無かったのだが発展していくことにより商人や観光客が来るようになっていた。なかなか良い場所だ、という形で噂が広まり仕事を求めてやってくる者が出てきたのだ。
ドワーフ達で出会った鉱山で王都の管轄になって仕事のやり方に合わなくなった者や南のシャルワからも少しだが移住者が出てきた。
しかし、それに伴って新たな問題が出てきた。
一時的に移住者を村の唯一の宿屋に泊めておくことはできても住居を用意しないといけない。
夏ならまだしも冬、特に一年の最後の十二月はキッタカールは雪も降り厳しい寒さになるようだ。外で寝泊まりさせるわけにもいかないので鉱山労働者のための集合住宅を急遽建築することになった。個室とかではなく一時的に暮らす避難所のようなものだ。状況が整ったら個別の家に移ってもらう。
去年までは元からいる住人の家も寒さ対策が万全ではなく、対策できていない家は他の住人の家に避難させてもらったり、病人は屋敷で看病したりしていたそうだ。今年は資材が増えた時から少しずつ補強をしてきたので人間、オーク、ゴブリンの以前からある家は去年よりは寒さには耐えられるようになっているはずだ。
そういう事情もあって今年の冬は俺の火の魔法やリリの薬は期待されているようだった。
もちろんできることはなんでも協力するつもりだ。村人全員で冬を乗り越えたい。
そしてノエルは王都へ向かっていた。
ジョルジュに教えてもらったのだが、十一月は各領から王女と騎士団が集まり二泊三日での報告会が行われるとのことだった。その後は貴族などの国の有力者を集めて懇親会も開かれる。十一月に行われるのは十二月の北側の雪を考慮してとのことらしい。移動に支障が出る前に終わらせる目的のようだ。
今回はハーピーでの移動ができるので馬車での移動よりも負担は減りそうでよかった。
ノエルにとってはこれが初めての集まりだった。何事もなく帰ってきて欲しいが、これもフラグになりそうで複雑な気持ちだ。
こうして村全体で冬支度をしていると王都へノエルを送ったハーピー達が帰ってきた。
しかし、ノエルがいない。
また事件か?
「いえ、タロウ様。そうではありません。ノエル様は馬車で村へ戻られることになり、私たちは先に帰って参りました」
ハーピー達が事情を詳しく知らないのは気になるが、それならひとまず安心した。
それから数日後、クリスが操縦する馬車に乗ってノエルが帰ってきた。クリスが付いていたなら危険な目に遭うことはなかっただろう。
「ただいま戻りました」
ノエルは元気に帰ってきた。村のみんなも嬉しそうに出迎える。
「うちも帰ってきたのじゃ」
これは予想していた。モニカも付いてきた。帰る場所が間違っているのだけどプロントでは騒ぎになっていないのだろうか。
王都で意気投合してキッタカールに遊びに行きたいとラフィッカにごねてきたのが容易に想像が付く。
そしてもう一人、馬車から降りてきた。
元騎士団副団長であり南東の元隊長のローシャだ。
「お久しぶりです。タロウさん。今後はこちらでお世話になります」
ローシャも元気そうだった。むしろ王都にいて食事が安定したからか顔つきがよくなっている。
「女王様から『クリスのところで再任用してくれ、魔力は取り上げてあるが剣の腕は確かだ。役に立つだろう。細かい事情は時期をみてタロウにでも聞いてくれ。この者の娘のだということで目を瞑ってくれ』と言われた。あの時のことは見ているのでローシャも変なことはしないだろうが、タロウ殿も油断するでないぞ」
女王からは通信石で連絡が来ていた。
魔力を取り上げたこと。北の騎士団へ再入隊扱いにしたこと。それといざという時は魔法を発動できる魔道具の腕輪をローシャに渡したこと。
その時に王都へ来なかったことに小言を言われたが王族でも騎士団でも無い俺が行くのは不自然だと思うので、そのことを伝えたら騎士団へ入ればいいと言われたが無視しておいた。
「お父さん!」
リリと一緒にノエルの出迎えに来ていたティキットがローシャに寄っていった。感動の再会だ。リリは多少は複雑な気持ちがあるかもしれないが三人で暮らしてもらうことになっている。
ティキットとローシャの感動の再会を見ていると更に馬車から三人の少女が降りてきた。全員服装が立派なので王女なのかもしれない。厄介なことが起きなければいいが。




