51.牧場
十月に入りこの世界では冬が始まった。まだ冬といってもそんなに寒さは感じない。
十月に入ってすぐのことだった。
公衆浴場で仕事をしていると入浴に来た一人の老人に声をかけられた。エミル奪還の時にドワーフと一緒にこの村へ移住してきて現在は馬を面倒をみてくれている老人だ。
「ちょっと相談したいことがあるのじゃが、ノエル様に取り次いでくれないか」
老人はゲオルグという名前だった。あの時、名前を聞かずに特に困ることがなかっまので知らなかったのだ。
「取り次ぐのはいいけど、先に内容だけでも教えてもらってもいいかい?」
「この前、わしの息子が商売で偶然この村に来て再会したのじゃ。わしがここの引越してきていることは知らなくてのぉ、びっくりしておったわ。その時に話をしてくれたのだが、息子家族はお主たちと出会った炭鉱よりさらに東に住んでいるのじゃが東領と近いので治安が悪くてこの村に移住したいそうなのだ」
「それはノエルも歓迎するんじゃないかな。今日は遅いから明日の朝に早速屋敷へ行こう」
「それがのぉ、牧場をやっていて家族だけでなく雇ってる者や動物も連れてきたいらしいのじゃが、大丈夫かのぉ」
「土地はまだまだあるし今の牧場を広げる形で大丈夫じゃやいかな」
ゲオルグは安心したようで家へ帰っていった。
翌朝、ゲオルグと一緒に屋敷へ行ってノエルに相談すると、
「いいと思います。早速、迎えに行きましょう」
ノエルは大賛成だった。ゲオルグが言うには、牛、山羊、羊、鶏が数頭に鶏もいるらしい。牛や山羊のミルクに鶏の卵、羊はウールが取れるとなると村の環境も一気によくなりそうだ。
だが、それだけ増えるとなるとしっかり動物たちを管理できる環境を整えないといけない。
まずはハーピーに伝来に飛んでもらう。同時に村の馬車を三台全部出しオークにゲオルグの息子の牧場へ向かう。オーク達の馬車には帰りに家具だけでなく、牧場の家屋や畜舎、柵などを解体してその資材で村に可能な限り再建するために運ぶことになった。子供などは先に馬車に乗ってきてもらうが、鶏以外の動物は馬車には乗せられないので歩いて村まで来ることになる。動物たちの村への移動には護衛としてブライとサラが任務として向かった。
「ありがとうございます」
ゲオルグは家族が安全に暮らせることが分かりノエルに感謝を伝えた。
それから十日と少し過ぎた頃、ゲオルグの息子家族や従業員、それと動物達が大量にやってきた。この大移動はなかなか迫力がある。それと何より無事に全員到着してくれて安心した。
動物の受け入れのための土地は今までの馬の飼育場を拡大して準備していたが、運んできた資材を組み直すまでは少し時間がかかるので家族達にはズザの運営する宿で過ごしてもらう。
「タロウさん、あの家族の子ども、なんか凄かったっすよ」
ブライが話しかけてきた。
「凄いって?」
「なんか動物を操ってるような、この村までの行軍から外れそうになると声をかけるだけでその動物が列に戻ってきたりして、動物に言うことを聞かせているように見えたんすよ」
「でも、牧場で動物の面倒を見ていたらそれくらいできるのでは?」
「そんなものっすかねぇ」
すると宿で支度の準備を手伝っていたエミルがその子供を連れてきた。ゲオルグからすると孫にあたるバウワーだ。ノエルよりもまだ幼そうだ。それにしてもエミルは王族なのにどこでもよく働くな。知らない人が見たら王族に見えないだろう。
「あらっ、ブライ。この子、魔力あるわよ」
「えっ、本当っすか?」
「なんだ、おばちゃん。魔力が見えるのか?」
「うん、おねぇさんも魔法が使えるから魔力が見えるのよ」
定番の返しをエミルがするが相手は王族なので世界や時代が違えばこの子は死罪になっていたかもしれない。ただ、宿屋で働いている姿を見たら王族にはやっぱり見えないよな。
「ふーん。オレの家族は誰も魔法が使えないから動物に言うことを聞かせることができると言っても信じてもらえなかったんだ。牧場で動物の世話をしてるから動物がお前の言うことを分かって動いてるだけだ、って言って。あんな牧場じゃ魔法使える人なんて来ないし、ずっとそんなもんかと思っていたけど、おばちゃんがちゃんと見てくれてオレ嬉しいよ」
「これから村で暮らしていくから困ったらおねぇさんに何でも聞いてね」
「うん、分かったよ、おばちゃん」
そう言ってバウワーは家族の元へ走っていった。
「エミル様、魔法のこと本当ですか?」
「あら、本当よ。動物を操れるみたいね。まだ牧場で仕事をしやすいくらいにしか使えないみたいだけど、あの子は育てたら色々できるようになるかもしれないわね」
エルミは俺の問いに答えた。案外凄い魔法使いがまた村へやってきた。
ノエルに報告すると同時にゲオルグとバウワーの家族にも報告した。
少し前に村に来たティキットもそうだが魔法使いの家系に魔力を持った子供が突然変異のように生まれることがあるようだ。ただ、そういう人間がいても周りにそれを見出す人間がいないことがほとんどで才能を発揮しないまま人生を終えることが多いらしい。
バウワーはたまたま持っている魔法の才能と家業が合っていたので能力が自然と育ったようだ。
当然、この報告をした時に家族は初めて息子が魔法使いということを知って言うまでもなくとても驚いていた。
この村ならノエルもエミルもいて魔法を伸ばす環境を伸ばせるだろう。
ただ、俺はティキットとバウワーがこの村に来たのは偶然のようには思えなかった。エミルの本当の魔法は必要なものを呼び寄せる能力かそれに近いものではないかと思っている。エミルがいるから人が集まるのではないか?
ただ、それだと先の二十五年と辻褄が合わない。
エミルが成長したからなのか、何か条件が揃ったのからなのか、それとも他の理由があるのか。
今はその理由は俺には分からなかった。




