第164話 異世界の命運④
「サリエラッ!!」
水晶の祭壇に辿り着いた俺を待っていたのは、銀の髪を有する少女を乗っ取った創造神だった。
実際に目にして理解した。彼女の魂は、喰われているのだと。
「ようやく来たか。ヒロ・ナカジマ」
「水晶……なにかの儀式?」
神の間に並べられているのは、十色の結晶。
その中に眠る人物には見覚えがあった。神々の聖地が連なる旧世界を変えた者たち。
「世界を根幹から覆す禁術を行ない、神となった罪人たちだよ」
「……エリサとニグアスの身体もある」
「十の魂を一に集約し、願いを叶える。それでワタシを滅ぼそうとしたようだが、そもそも最も信仰されていた神は、元より旧世界を創造したワタシだったからな」
「畏敬の念を捨てられず、滅ぼしきれなかった……というのか」
「そもそもの話だよ」
玉座に座する神が、嘲るように告げる。
「ワタシは世界を創り、そして支えし大黒柱なのだ。コレを抜けば、世界はどうなる? 君が『アルテンス教皇国』と呼ぶ上界、そしてアルテンシアにミズガルディアといった下界はどうなると思う?」
「っ、まさか……滅びる、っていうのか?」
「呑み込みのいい子供は嫌いじゃない」
聞き慣れたはずのサリエラの声が、いまは吐き気を催すほど耳障りだ。
「二つに一つだ。我と世界を滅ぼすか、我が世界を滅ぼすか。前者を取ったのならば……まあ、ジアースという異世界には帰れるかもな?」
「……っ、じゃあ、エリーゼは。サリエラは、ウォルターは」
「当然、滅びる」
信じられなかった。アルテンシアを助ける方法は無い。
俺が世界の存続を願ったところで、そもそもの土台が無ければ、いつ崩壊するかわからない。
いや迷うな。眼前の邪悪は世界を存続させる気はない。交渉の余地はない。
奴を倒した後で、奇跡を起こせばいい。いや、起きるのか? いいや、起こすんだ。起こさなければいけない。
だが、その後は。アルテンシアに居られなくなったら、俺は……
「……えり、たくない」
「んん?」
ダメだ。口にするな。でも。
「帰りたく、ない……もとの弱い俺に、戻りたく、ない……」
「ほう?」
「せっかく強くなったんだ。勇者になれたんだ、真央に想いを伝えられたんだ! 友達だって、たくさん出来た! なのに」
また戻るのか? 異世界に?
せっかく俺が俺で居られる世界に転生したのに?
強くあれる世界に、生まれ直したのに?
「俺が俺でなくなるなら……弱い、真央を守れない俺になるくらい、なら」
「アハハハハッ! やはり弱き者は面白い。最初から強く在ったハルマ・キサラギ達には絶対に無い感情を、惰弱で我欲に溢れた醜い様を見せてくれる!」
脳が、心臓が、両脚が強く鼓動を打っている。
異世界の命運を握るなんて、無理だったんだ。
いや、やらなきゃいけないんだ。立て。立ち上がれ。
「まるで旧世界の愛しき信徒どもだ。我欲のために加護を求め、窮地にのみ縋り、祭事では願望のみを告げる。それでこそ、醜く歪だからこそ愛で甲斐があるというものよ」
世界の敵は歩み寄ってきているだろ。刺せる。何のための装備だ。
けど……いまのメンタルでは、最強装備は最弱の装備だ。
それ以外では敵わない。絆ノ装備か叛逆装備さえ出せれば。でも。
「助けてやろう、貴様だけは。そして無となった世界にて一から文明を築き、強さを示してみるがいい!」
「やめろ……頼む、真央は……真央だけは!」
頭を掴まれ、持ち上げられる。
情けない。俺には、こんなことしか言えない。
こいつを倒したら、倒してしまったら、アルテンシアは……
「テメェそれでも男かァ!!」
「っ!?」
「なにっ!?」
俺ごとフォタァザを殴り飛ばす拳が飛んでくる。
神とは違い転がる俺が見たのは、白い息を蒸気機関車のように深く吐くシノハラだった。
「城山を守るんだろ。それくらい強くなりてェんだろ! なら場所なんて関係ねェだろ、強くなきゃ守れねェだろうが!」
「……っ!」
俺を支配していたモヤが弾け飛んだ。
震えが止まる。内面の奥の奥の奥底まで見える。
「そうだ。なにを馬鹿なこと考えていたんだ」
俺は真央を守るため、勇者になりたかった。
そして、なった。真央を救えた。人間に戻せた。
ならば、何処に行ったとしても。彼女を守れるくらいのエゴを見せればいい。
「全部、無茶でも叶えればいい。そのための力がある。叶わなくても、アルテンシアに居られなくなっても」
立ち上がる。そして、剣を抜く。
「師匠が……能力に頼らない強さを授けてくれた。だから、乗り越えられる。そう、信じる!」
他にも多くの人たちに託されてきたのだ。
それだけの強さを手に入れたのだ。
これが俺の、最強の装備。たとえ地球に戻っても廃れない、絆の経験値。
「やっとオレの認めたテメェの顔に戻ったな」
「ああ。篠原のおかげだ」
「やっぱ来た世界が同じなせいか、そっちのがしっくり来るわ」
「ははっ、同感!」
共に最強の装備を顕現させる。
対するは、忌々しげに俺たちを睨みつける邪神。
「人が独りで立つなど認めない。ワタシが神だ、世界の秩序だ!」
「だってよ。神殺し、しようじゃんか」
心にゆとりが出来たからだろうか。
篠原が軽口を返さないことに違和感を抱いてしまった。
そして振り返ると。血染めの鎧兜に身を包んだ彼が、仁王立ちのまま発した言葉が。
『俺の全ての力を、中嶋尋に託せ』
「――ッ!」
金の紙で折られたメダル状の核を護っていたマナと共に、俺の鼓膜を、そして身体を包み込んだ。
「そうか……お前……!」
しばらく身体を共にしていたから理解できる。
アイツは既に限界だった。そして全ての役目を果たした。
何を言わんとしているかも理解できる。だからこそ。また一つ背負った命を糧に、心の炎を強くする。
「叛逆、装備ッ!!」
ここで顕現すべきは、アイツの装備だ。
滅びの運命に叛逆する。世界を全て、救うために!!




