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第163話 異世界の命運③

 空の色も変えるほどの光が収まる。

 その中心にいた少女は、身体を取り戻していた。


「……ぁれ?」


「ミラ、イ……!?」


 抱きかかえていたウォルターは、顔中の緊張が解けたのか涙をいっぱいに流しながらミライを抱擁した。


「ぁあ、奇跡だ……神様ぁ……!」


「……神様、私たちの、敵でしょ」


「ぁ、ぁあ、そうであったな」


 恥ずかしげに顔を赤く染め、手を離して澄ましげな様子を見せる。

 辿々しくもクスリと笑みを浮かべたミライ。


「歯ァ喰いしばれ」


「ッ」


 彼女に飛んできたのは、左頬への鉄拳だった。

 筋骨隆々なキョウヤの一撃をモロに喰らったミライは地面を転がり、力なく起き上がる。


「おい、生き返ったばかりの者になんて事を!」


「二度とこんな真似させんな。わかったか」


「……ありがと」


「これで借りはチャラだからな」


 少女の小さな頷きを受け、キョウヤは踵を返して水晶神殿の方へ向く。

 そんな彼を引き止めるように、ウォルターとエリーゼが立ち上がり。


「貴様がプロキアにしでかした所業は決して許せぬ。だが……我個人から言わせてくれ」


「……アタシも、同じ。お爺ちゃんの仇、だけど」


「……」


「ありがとう」


「……るせ」


「きょーやをほめろー、たたえろぉぷぅ!?」


「るせェっての」


 首を垂れて心からの謝意を述べる二人と、調子に乗るゴスロリを嗜めるキョウヤ。

 そんな様子を見ていたミライは。


「……ウォルター。さっきから、何て言ってるの?」


「っ、まさか」


「生まれ直して転生者じゃなくなったから……翻訳の能力、消えちゃったの!?」


 ただの人間となってしまい、コミュニケーションが満足に取れなくなってしまっていた。


「どうしよう。みんなの気持ちも、なにも、わからない。ずっと、能力に、頼って」


「大丈夫だ」


 その声は、彼の人生で一番優しい色をしていた。

 そして未だ狂乱が覚めない異世界人たちのほうへ向くと、色は気高さと雄々しさを増し。


「鎮まれ、そして聞けぇいッ!!」


 雷鳴のような号令を響かせると、一帯が水面のように静まり返った。


「我が世界に伝わりし古の英雄ハルマ・キサラギは。いま、ここに討ち倒された!」


 その演説に、誰もが集中していた。


「いちど世界を救い、そして長い年月を経て狂い果てた獣だ。我がそれを討ち倒した!」


 言語はわからずとも、誰もが耳を傾けていた。


「我は此処に宣言する。転生者であろうとも、モンスターであろうとも。そして、異なる世界の者であろうとも。命の価値は、等しく平等であると!」


 生まれつき肥えた身体ゆえ、差別を受けてきた者の言葉を。


「我が世界の勇者ヒロ・ナカジマが創造神フォタァザを倒し、世界を元の姿に戻すまで。我が、争い合うことを禁じる!」


 必ずヒロが世界を救うと信じている者の言葉を。


「もし、それでも世界が元に戻らぬのであれば」


 世界を我欲のため使ってきた悪魔を倒した英雄の言葉を。


「我は生涯をかけて、皆の人生を幸福へと変えるべく、心血を注ごう!!」


 あらゆる観衆は心で理解し。

 それぞれの文化で育まれた賞賛のジェスチャーを贈っていた。


「だから、争いを、そして我の親友を」


「もう、大丈夫……みんな、伝わったっぽい。翻訳、無くても、ウォルターの想い」


「そうか……そうか」


 いま、涙を浮かべたミライの瞳には、ウォルターが世界一カッコよく見えていた。

 ふくよかな胸に飛び込み抱きついた彼女の頭を撫でながら、親友を救った貴族が告げる。


「どのようなことになろうとも、我が共にある。一から、共に歩んでいこうではないか」


「……うん。うんっ!」


 無邪気で、そして満面の笑みを浮かべた顔を、貴族の腹に埋めていた。

 白い魔王も微笑みを浮かべていた。そして改めて、神殿のほうへと向くキョウヤへと問うた。


「行くの?」


「テメェは殆ど魔力使い果たしてんだろ」


「……うん」


 マオも限界寸前だった。ハルマや他の転生者の力は、想像以上に強大だったのだ。

 いまヒロの下へ駆けつけても足手纏いになるだけだ。

 だからこそ、因縁の宿敵に頭を下げた。


「尋くんを、お願い」


「しゃーねェな。その代わり約束しろ」


「なに」


「全部終わったらオレと戦え。前世で出来なかったこと、やらせてもらうからな」


「……わかった」


 きっと彼は、ヒロにも同じことを言うだろう。

 限界寸前の身体に命じて飛び立った漢の背を、マオは静かに見送った。

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