小雪が降るある冬の日
てんてんてん。ててんがてん。
小雪が舞う初冬の逆さ虹の森のお祭りだ。
やあ。やあ! 今日は逆さ虹の森のお祭りだよ。
そうだよ。ここの虹は逆さまなんだよ。凄いだろ。
君も見に来るといいよ。楽しいよ。
冬の初め。そう。この冬に初めて降る雪だよ。
ここではこの雪を見る頃に、決まってお祭りをするんだ。
ちらちらと舞う可憐な雪たち。こんにちは。
おやおや。まだおはようじゃないかしら。
いいのいいの。てんてこてん。
まあ、まあ。もうはじまっているのね。
肩から掛けた太鼓をバチで鳴らしている麗しのリスさん。
そうだよそうだよ。遅いよ。可愛いこまどりさん。
まあるい羽毛があったかそうだ。
今日のように寒い日に、この羽毛はとってもいいね。
リスさんも、ふっわふわの柔らそうな毛があるじゃないの。
それに大きな尻尾もふっさふさで、あったかそうでいいわね。
あら。その赤くて長いお帽子。太鼓とお揃いの色なのね。
とても素敵なお帽子。可愛いお耳が、ちょこなんと覗いている。
だけど、お帽子に飾っている、その羽はどうしたの。
ちょっぴり不満げなコマドリさん。
お祭りにと森で落ちてた羽を拾い集めて付けたんだ。
これは、いたずらをして取ったものじゃあないからね。
そうなの。リスさん。いい子ね。
それじゃあ、私の尾羽を一枚、差し上げましょう。
ほら。もっと素敵なお帽子になったわよ。
そうなの。そうだね。素敵だね。
だけど、コマドリさんの大切な尾羽を貰っていいの。
いいわよ。あなたにあげる。今日はお祭りだからね。
やっほ。ほっほ。いいね。お祭りだ。
小雪がちらちらと舞っている。
てんてこてんてん、てんてん、ててんがてん。
コマドリさんに素敵な尾羽を貰って上機嫌なリスさん。
小雪の舞うリズムに合わせて、太鼓をてんてんと叩いている。
さあさあ、お祭りなんだよ。
コマドリさん、その美しい声で歌ってよ。
君の歌声で酔わせてほしい。
あらまあ。ヘビさん。相変わらずお上手だこと。
だけど何も出ないわよ。卵もね。
そんなあ。酷いな。
コマドリさんの卵なんて狙ってなんかいないよ。
ははは。食いしんぼうだからね。ヘビさんは。
ほれ。これなら満足だろう。召し上がれ。
お料理がてんこ盛りになったお皿を運ぶキツネさん。
お人好しなもんだから、祭りの雑用を一手に引き受けている。
それでも、他の者の役に立つのが嬉しいキツネさん。
その足取りは軽く、凛と背筋を伸ばした格好が素敵だ。
うんうん。お祭りはいいね。
たくさんのお料理があって嬉しいな。
とってもいい笑顔のヘビさん。
てんこ盛りのお料理のお皿を見つめている。
てんてんてん。ててんがてん。
小雪が舞う初冬の逆さ虹の森のお祭りだ。
コマドリさんの歌声に合わせて太鼓を鳴らすリスさん。
ヘビさんは、キツネさんが運んできた料理をがついでいる。
それはそれは嬉しいそうに食べている。
食いしん坊なヘビさん。ほんとに食べるのが好きなんだね。
このほっくほくのかぼちゃパイ。とっても美味しそう。
その横でアライグマさんとクマさんとが取っ組み合いをしている。
ちょい悪顔のアライグマさん。
強くなりたいんだろ。来いよ。弱虫。
掌を上に、人差し指をクイクイと曲げて挑発している。
お願いはしたけど、アライグマさんは乱暴すぎるよ。
もっとお手柔らかにお願いしたい。
できるか。これが俺の流儀だ。
やだよ。そんな。
おい。こら待て。逃げるな。
いやぁあ。やめて。
アライグマさんがクマさんを追いかけている。
あれ。これでは、おいかけっこだね?
そう。ちっちゃいのが、おっきいのを追いかけている。
うん。この図は、普通と逆さまだよ。
てんてんてん。ててんがてん。
小雪が舞う初冬の逆さ虹の森のお祭りだ。
そうそう。うきうきどっきりするのがお祭りだよ。
さあさあ、見てみて。あの木の上に見える逆さ虹。
毎年、小雪が舞この日に面白いことが起こるんだ。
あれ。そんなことはないって?
根っこ広場にかけていうよ。
ほんとに、うきうきどっきりする面白いのがあるんだよ。
根っこ広場に行ってもぜったいに絡まらない自信があるからね。
ほらほら。もうすぐ。もう少しだよ。
てんてんてん。ててんがてん。
小雪が舞う初冬の逆さ虹の森のお祭りだ。
アライグマさんとクマさん。
もう追いかけっこはやめたみたい。
さっきのことは、お互い気にしていないで、仲良く一緒にいる。
クマさんよ。
怖がらなくてもいいんだよ。
それに毎年のことじゃないか。
そうだね。だけどやっぱり怖いよ。何なのあれ。
ああ。もう始まっているな。
そうだ。あのおんぼろ橋を揺らしてみようか。
もっと変わったことが起こるかも。
歌を歌うのをやめるコマドリさん。
そしてアライグマさんに注意をする。
アライグマさん。乱暴はおよしなさい。
コマドリさんに注意をされて、しゅんとするアライグマさん。
アライグマさん。反省したの。いい子ね。
だけど今日はお祭りなの。
みんなと一緒に楽しみましょう。
てんてんてん。ててんがてん。
小雪が舞う初冬の逆さ虹の森のお祭りだ。
小雪の舞うリズムに合わせてバチを振るい太鼓を鳴らすリスさん。
その小さな身体は躍動感に溢れ、とっても楽しそう。
ああ。もう誰の目にもわかる。
ほらほら。下の方を見てごらん。
ごごごと大きな音がする。
初めは小さな変化だ。川の水が少し波立くらい。
だけど、それがだんだんと濁流へと変化した。
この川の流れが源流のどんぐり池があるほうへと進む。
そう。川の水が下から上へと遡る。
あの池にどんぐりを放り投げると願いが叶うという。
今年はいくつ願いが叶ったかな。
川の水が遡る。その壮大な風景が、今。目の前にある。
それと共に川の魚が飛び跳ねた。
それもたくさん。ほんとにたくさんの魚。
その魚たちは、逆さ虹に向かって、飛び跳ねる。
いや。飛んでいく。
おんぼろ橋を境にして、川の水までもが宙を舞う。
小雪が宙を舞う。川の水も宙を舞う。魚も宙を舞う。
てんてんてん。ててんがてん。
小雪が舞う初冬の逆さ虹の森のお祭りだ。
そうそう。うきうきどっきりするのがお祭りだよ。
そして、魚たちは、水しぶきを上げて逆さ虹へと飛んでいく。
もみの木の深い緑に、ちらちらと舞う小雪。
雪雲の合間に顔を覗かせる冬の優しいお天道様。
川の水と共に空を舞う魚。
背黒の魚体。銀色の腹の鱗がきらきらと光る。
その魚たちが、逆さ虹へと飛んでいく。
あの木の梢の先端に見える逆さ虹。
上がくぼんだ逆さ虹。
逆さ虹のくぼみにぴたりとはまるお天道様。
そこへ魚たちがきらきらと鱗を輝かして飛んでいく。
てんてんてん。ててんがてん。
小雪が舞う初冬の逆さ虹の森のお祭りだ。
そうそう。うきうきどっきりするのがお祭りだよ。
どう? ほんとでしょ。
リスさんも太鼓を叩いて楽しそうに舞う。
赤い長いお帽子に、コマドリさんにいただいた尾羽。
ぴょんぴょんと跳ねるのと同時に、ふわふわと揺れる。
てんてんてん。ててんがてん。
小雪が舞う初冬の逆さ虹の森のお祭りだ。
そうそう。うきうきどっきりするのがお祭りだよ。
逆さ虹へと飛んでいった魚たち。
背黒で銀色のお腹をしていた魚たち。
それが、虹色の美しい色になって帰って来た。
わー。わー。
おんぼろ橋の袂で皆が歓喜の声を上げる。
ぴちぴちと跳ねる魚。
そう。これが、このお祭りの頂点。
とても美味しい逆さ虹の虹鱒がやって来た。
これはすごい御馳走だよ。
ヘビさんだけではなく、皆がいい笑顔になっている。
てんてんてん。ててんがてん。
小雪が舞う初冬の逆さ虹の森のお祭りだ。
そうそう。うきうきどっきりするのがお祭りだよ。
大きな網で丸ごと焼いて食べるんだ。
キツネさんが網を準備して、せっせと魚を焼いている。
これを皆で豪快に食べる。
うーん。美味しい。逆さ虹の虹鱒って、格別な味なんだよ。
逆さ虹さん。今年もありがとう。
来年もよろしくお願いします。
一番短い冬のお天道様の下で皆が楽しんでいる。
そう。これから春が来るようにお願いするお祭りでもあるんだよ。
君も来てよ。逆さ虹の森に。楽しいよ。
あの木の上にある、逆さ虹が目印なんだ。
変わっているから、すぐにわかるでしょう?
来てくれるよね? 待っているよ。
てんてんてん。ててんがてん。
小雪が舞う初冬の逆さ虹の森のお祭りだ。
絵本を想像して短編の童話を書いてみました。
いかがでしょうか。
感覚として詩なのかもと思い、詩ジャンルに変更してみました。