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ジェットキのコップを持つ手が止まった。
失礼と言って席を立ち外へ出た。
誰も近くにいないことを確認して、かくるジャンプする。
空中でドラゴンに変身すると、何者かの気配のした方向へ飛んだ。
アカトは何者かの気配にすぐに感じて、2人に注意を促した。
2人はすぐに身構え、万が一に備える。
アカトは気配の主がわかると2人に告げた。
ジェットキがアカトたちの2mくらい前で止まり、こちらを伺った。
最初に言葉を発したのはジェットキの方だった。
「何でこんなところにいるんだい?」
「言ったろう、旧友にねって」
ジェットキがこちらを探るような目つきになり「ヤーマン台国に友人でも?」
「いや、そのはるか下で友人が待っている」また、感情が高ぶりそうになってきたのを必死にこらえて言った。
「そうか……」ジェットキは一言いってから「ここでは何だ、後でゆっくり話そう」そう言って、去って行った。
ジェットキはあの時の犯人でなかったことにガッカリしながらも、胸のネックレスに手をやり、新たに復讐を誓った。
ジェットキが店内に入り視線を巡らすと、ピーチ・タロウはすでにいなくなっていた。
席に着くとタイポイが酔っ払い特有の大声で「おせえな、ウンコか、ウンコか」と、2度聞いてきた。ウザいので無視しよう。
隣にいる娘からおしぼりをいただき、顔を拭いてから、作ってもらったウイスキーを一気に飲み干した。
♢♢♢
川に流され自由にならない身体に恐怖し、必死に叫んだ「ぴー、ぴー、ぴー……」
ザブンと音をたて突然人間の女の子が川に飛び込んできて、俺を抱きかかえた。
新たな恐怖に怯えた俺は更に必死に叫んだ「ぴー、ぴー、ぴー……」
そんな俺を彼女は優しく抱いて住処に連れ帰った。
一年後
「ジェットキちゃーん」彼女の呼ぶ声に、俺は地上へ降り立つと、彼女の叱責が待っていた。
「あれほど言ったでしょ、人前で飛んではいけませんと。みんな怖がっているではないですか」彼女はそれほど怒っているというほどでもなかったが、けじめはつけたほうが良いと思いたしなめた。
「だって、空飛ぶの楽しいんだもの……」
すでに彼女よりはデカくなったジェットキだが、彼女の前ではいつも小さく見えた。
周りの人たちに笑いが伝染する。
和やかなひと時、それが一変した。
突然大地が揺れ、ヤーマン台国全土が大地に沈んでいった。地上が数百メートル先に見えるところで沈下が止まり、ゴーゴーと音を立て水が落下してきた。
人々の阿鼻叫喚の声も、落下する水の轟音にかき消され聞こえない。
水は既にヒーミンコの足元にまで届いてきた。
ヒーミンコは俺の方を向き、笑顔で
「行きなさい。ジェットキには関係のないことです」既にこうなることがわかりきったような口ぶりだった。
「いやだ」俺は泣きながら彼女に口答えした。
彼女は近づき、すでに彼女より高くなった身長越しに、手を伸ばして頭を撫でた。それから自分の首から勾玉のネックレスを取り俺の首につけながら「自由に生きなさい。ここはあなたの居場所じゃないよ」と、優しく諭した。
水は既に彼女の半分に達していた。
俺は泣きながら、地上へと飛んだ。
眼下に彼女が微笑みながら手を振っている姿が見えた。
ここ周辺の上空だけが黒一色に染まり、何者かの仕業であることが見てとれた。
1時間もたたずに巨大な湖ができ、ヤーマン台国は湖底に沈んだ。
俺は力つきるまで何度も何度も上空を周り、浮き上がってくる人々を待っていたが徒労に終わった。
俺は本能のままに泣きながら飛び去った。
目覚めると、ゴーゴーというあの時の幻聴が聞こえたと思っていたら、タイポイの鼾だった。
俺は軽くタイポイの頭を叩き、過去の埃をかぶった記憶を洗い流そうとバスルームへと向かった。




