サンド島-4
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「改めて御礼を言わせて下さい。わしは鬼族の長老『ツノカケ』と申します」ツノカケは深々と頭を下げた。
「先ほどは失礼をした。わしはタヌキの長『ダンシロウ』というものだ」ダンシロウも頭を下げた。
人間より礼儀正しい。少なくともあの馬鹿領主よりはるかに礼儀正しい。これなら領主は動物でもいいかなと思った。
「おふぉん」一つ咳払いして、ツノカケは切り出した。
「誠に勝手ながら、私たちの話を聞いてはもらえないだろうか」
僕はもとからそのつもりだったので、こころよく首を縦に振った。
話をするにあたって、ツノカケとダンシロウ、話を聞く側として、僕とタイポイの席が設けられた。
改めて互いに自己紹介したところに、鬼族の女性がお茶を持ってきてくれた。ツノがなければ人間の女性と変わらない。それに不思議な感じの美人だ。うまく説明できないが、引き込まれそうな感じというか、なんというか、僕が見とれていると、ツノカケがよろしいかと聞いてきた。
僕は慌てて頷いた。
「むかーし、むかーし、今から30年も昔のことじゃった」ツノカケは目を瞑り、記憶をたどるように話し出した。
「海の向こうから、大きな桃がどんぶらこどんぶらこと流れてきて、この島に流れ着いたのじゃ。何事かとみんなが見ていると、その桃が真ん中からぱかっと割れてな、一人の人間が出てきたのじゃ。ほら、先な足蹴にしたあの領主じゃ。名前は『ピーチ・タロウ』と、言って、手に持っていた一羽のキジで、友好の証に鍋をしようと言ってきた」
そこまで話すと「ナミさん、お茶持ってきて」と、叫んだ。
先なの美人さんはナミさんか、すごく気になってしかたない、去って行く姿まで目線が釘ずけになった。
ツノカケはお茶を一口飲んでから
「わしら鬼族は、鍋には目がなくてな。その夜は歌えや踊れやの大騒ぎじゃった。朝、目が覚めると大勢の人がわしたちを取り囲んでおった。やっと騙されたことに気がついたわしたちが、金棒を取ろうとしたが、いつの間にか無くなっていた。わしらが騒いでいる間に、猿がわしらの金棒を取っては、犬が穴を掘り埋めたらしい。わしらは金棒がないと十分に力が出せない。後の祭りじゃった。人間たちは、わしらが作る金棒を狙っていたのじゃ。わしら鬼族は、金棒を作るのは使命というか本能だからな。こうして、わしらは金を採取しては棒を作らされていたのだ」一気に話し終わると、バトンをダンシロウに渡した。
ダンシロウはツノカケを見て、軽く首を縦に振ると話し始めた。
「私たちは、アラガタの寒村に住んでいた二つ岩一家の者です。タヌキ掘りの名手として右に出るものはいないと言われた私たちが、領主に目をつけられ、力尽くで連れられて来たのです。島国ゆえ逃げることも出来ず、金を採る事だけにタヌキ掘りを致しました。そこには穴を掘るという俺たちのプライドはありませんでした。ただ、ただ、金を掘るだけの過酷な毎日。多くの者がこの異郷の地で息だえました。その無念を思うと……」ダンシロウはお茶を飲み、一息ついてから涙を拭き、また話し始めた。
「ここにいる仲間はもう数えるしかいません。私を含めみんなは、この地で骨を埋めるつもりです。故郷を思って死んだ仲間の墓を守るのが、生きている私たちの使命だと思っています」ダンシロウはお茶を飲み干すことで、話の終わりを告げた。
沈黙がこの場を支配した。
それを破ったのは僕だ。
「これからどうするんだ、奴等きっとまた来るぞ」
「……」二人とも言葉が出ない。
「はぁ、お前らなあ、逃げていては何にも解決できないぞ。守りたいものがあるんなら戦え、弱者に甘んじるな!」僕は興奮気味で、叫んでしまった。それは自分自身に向けられた言葉でもあった。
「そ、そうだな。戦わずして、負けを認めていたら、死んだ仲間に顔向け出来ないな……。アカト殿どうかわしらに手を貸してもらえないだろうか」ツノカケが深々と頭を下げた。
「私からもお願いする」と、ダンシロウも頭を下げた。
前向きな人たちを見捨てるほど僕は冷徹じゃない。快く承諾した。




