生産者と決戦前夜
ハイペースで書いていくで~。
町は祭りの雰囲気から一転、町の大通りに軍隊が駐屯する臨戦態勢に突入していた。その理由は明白で町はすでに包囲されており、他の町に援軍を打診しているからである。つまり、動けないのだ。
「たった一人の能力者に追い詰められるとはな」
首都包囲の防衛を急遽任せられたレオン教官はため息をついた。シヅキからの報告を聞き、すぐに防衛態勢を整えたが初動が遅れてしまったのだ。その結果、町の外につながる橋を奪取され、周りを水堀に囲まれるリースは包囲されてしまった。
「断続的に攻勢も始まっており、敵が弱兵なので今は耐えていますが……、このままいけば物量で押し切られます」
ミホシはかなり深刻そうな顔をしていた。
このまま人海戦術で攻められればこちらの限られた戦力が蒸発するのは目に見えている。
「やはり、敵の親玉を電撃的に倒すほかないな」
レオンはそう判断を下した。しかし、それが自分たち正規軍ではできないことは明白であることは百も承知である。
「ミホシ、シヅキ等を呼んでくれ」
「分かりました」
シヅキ達はただならぬ雰囲気の作戦会議室に呼び出された。
呼ばれたのはシヅキのほかにエステル、ロベルト、リリアであった。いつもの四人である。
「レオン教官、どうなされたんですか?」
「うむ、君たちには無理を承知でお願いしたいことがある」
「ハイドラ討伐だな?」
「流石はロベルト、呑み込みが早くて助かる」
二人は知り合いなのか、やけに親しげに話しを進めた。
「……従業員を危険には去らせないが、そうも言ってられないんだろ? うちの外から取り寄せている商品が届いていない」
「ああ、町は包囲状態、孤立している」
それを聞いて四人は喉を鳴らした。民間人には知らされていない事実。シヅキ達も当然知らなかった。
「正規軍は町を放棄するわけにはいかない。そこで少数の精鋭でもって親玉の身を倒す。ほかの町からの援軍は絶望的であることからこれ以外にどうにもしようがない」
「わかった。実はな、こっちでもこの話を提案しようと考えていた。と、いうのもな……」
ロベルトはシヅキに視線を送った。シヅキは鞄からアオイにもらった真実の槌を取り出した。
「昨日、帰宅した際にこれが、稼働状態になっていたんです。もらったときは壊れていて、直せないので放置していたんですけど」
「それは、どのようなものなのだ?」
「魔力を物質の肩代わりとして使用できる神器で、これがあれば魔力が尽きるまで物を生産できます」
「それは……!」
レオンは身を乗り出した。
「俺達もこれもあって話し合っていたんです。ハイドラを倒すために必要な神器が使えるので、なんとかできるんじゃないかなって」
「無論、これだけで勝てるとは思っていない。リースの財宝庫にある戦闘用神器を貸してほしい」
ロベルトがそう言うとレオンは少し考える素振りを見せたが、すぐに返答を返した。
「承認しよう。今は町の危機だ。存分に使ってくれ」
シヅキ達は安堵した。これで戦えるだけの戦力が整った。
「我々は明日に反攻を行う予定だ。その時に乗じて、敵の本山に向かってほしい。護衛もつけよう」
「分かりました。では明日はよろしくお願いします」
シヅキはレオンに頭を下げた。その姿をレオンは不思議そうに眺めた。
「怖くはないのか? 敵は国家レベルの難敵だぞ」
「……そうですね。怖くはあるかもしれません。でも、それ以上に思うところもあります」
「そうか、いい結果になることを祈る」
「シヅ」
作戦会議室から出るとエステルがシヅキに声を掛けた。
「どうした?」
「ハイドラはどうして、こんな事をしてるの?」
「よくは分からないが、あいつはきっと絶望してる。そして人間が信じられないんだ」
「……私にはわからない」
「ああ、お前はいい子だからな」
シヅキはエステルとハイドラが対局の存在で、自分とハイドラがどこかで似ているのではないかと感じていた。性格も違う。生きてきた時代も生き方そのものすらも違うだろう。
だが、何かが似ているのだ。そして決定的な何かが全く違うのだ。
ハイドラは人生のどこかで道を踏み外してしまったのだろう。きっと彼は間違っていないのだろう。しかし、彼には理解者がいなかった。そんな気がするのだ。
「俺は、この命を賭けてでもこの町を守りたい。そして、それと同時にあの神ならざる人のことも理解したい。あいつがどんな意図をもって神器を作ったのか……。そこに俺の求めるものの答えがあると思う」
シヅキの心は決まっていた。命など元々惜しくない。異世界に来る前にすでにこの命は輝きを失っているのだから。
「シヅ、私はあなたを守る。大切な人だから」
「ああ、頼んだ」
エステルはいつになく素直であった。
「人間様の命、私も私の求める理想を守るために守ると誓おう。だから死ぬな。私の夢を果たしてもらうために。それと、人間様のことをもっと知りたい」
「そうだな。俺も今回は全力を出す。だからお前は役目を果たして、絶対に生還しろ」
「みんな……」
シヅキはとてもいい仲間を持ったと思った。もうこの命は一人のものではない。
「さあ、明日は決戦の大一番、だから帰って寝よう!」
シヅキ達は自分たちの居場所へと帰って行った。
空を見上げても、泣くこともできない。
祈る神もなく、ただ荒廃した荒野を見つめて不死の人間は何を思ったのか……。
人間が愚かなのか、それとも自分こそが傲慢であったのか……。
問いただしても誰も答えないし、誰も聞いていない。
荒野をさまよう生きた人間など自分一人で、後は死んだ人間が体が朽ちるまで徘徊しているのみ。
だかここはこの世の地獄ではない。ここは彼の目指した楽園、彼の見た夢のたどり着いた到達点なのだ。
空は灰色の光を放ちながら男のことを嘲笑う。
涙の一滴も流すことなく、大地は干からびた。
死の匂いが充満するこの楽園で、ハイドラは一人歪んだ理想に取り付かれた。
ブックマーク感謝です!
私の自己満足作品に評価していただき感謝しています。
この調子で書いていくので楽しんでいただけたら私も嬉しいです。




