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生産者の反省会

バイトきついよおおおおお!

でもオーナーとかめっちゃいい人だった。

エステルは宿で布団をかぶっていた。

鼻をすする音が聞こえる。

「エステル、泣いてるのか?」

シヅキは膨らんでいる布団の隣に腰を落とした。

返事はないがもぞもぞと動いている。

しかし、動きはあるのだが返事がない。別に返事を求めているわけではないのだが少しだけ寂しい。

「腕痛いだろ? 薬塗ってやるから、出てきな」

声を掛けるともぞもぞと動く。

しかし返事もないし出てこない。

だが拒絶はされていない。

「出てきたくなったら出てきな。それまで待っててやるからな」

シヅキは異世界に来る前のことを思い出した。

妹や弟たちが父に雷を落とされてぐずっているのを慰めるのはいつもシヅキの役目だった。

兄ちゃん兄ちゃんと人懐っこいあの子たちは今何をしているだろうか。

寂しい思いをしているのだろうか。

シヅキはそのことを思うと胸が痛んだ。

彼はここに来て多くのことを学び、自分の夢をかなえることのできる可能性を見た。

しかし、ここに来たことへの後悔もある。

それが弟妹達の事だった。

しかしこればっかりは後悔しても仕方がない。もう帰ることはできないのだから。


しばらく座りながらぼんやりとしていたが、膝をポンポンと触られた。

布団から腕だけ突き出ていた。

その右腕は赤くなっていた。

シヅキは何も言わずに特製の薬を塗ってやる。

そして、塗り終わると腕は引っ込んでいった。

(やっぱり痛かったのか)

エステルは腕をひっこめると体をゆすり始める。

何かを迷っているのか考えているのか、なんにせよそろそろ出てきそうだとシヅキは経験を思い返した。

やがて、再び腕が出てきたかと思ったら足首を掴まれた。

「……私、負けちゃった」

「ああ、でもあいつ強いし仕方がないんじゃないか?」

「違う。私ね。なめてた。弱々しい見た目してたし、余裕で勝てるって。絶対負けるわけないって」

エステルは負けたことというよりも、油断して挑んで惨敗したことがショックだったのだろう。

「酔ってた。今までお父さんとかには負けても、同年代とかには負けなかったし、みんな私のこと強いって、言ってて、私も自分が強いって、無敵だって、そう思っちゃって」

ぽつぽつとした喋りは嗚咽交じりになってくる。

「あいつに私、失礼なことしちゃって、えぐっ……、騎士、騎士がね、ほかの人を馬鹿にしてね、ううっ、馬鹿にして戦っちゃいけないのに、私、バカだから、やっちゃって」

騎士というのがどのような職業なのかシヅキは実のところ良くは知らない。

しかし、きっととても誇り高いものなのだろうと思った。

誰でも人を蔑んだり油断したりすることはあるが、それをきちんと悔めるのだ。

今エステルは自分の不誠実を嘆いている。

普段はぶっきらぼうですぐに不機嫌になって嫉妬深い人間スペックが高いわりに友達のいない彼女ではあるが、根はしっかりまじめで誠実で、こんなにも可愛らしい女の子なのだ。

「私、やな奴。シヅのそばにいる資格なんてない」

シヅキはやれやれと首を振って布団を無理やり引っぺがした。

そして無理やり胸に抱きかかえた。

エステルはびっくりして固まっている。

いつもみたいに抵抗が一切なかった。


「俺な、昔泥棒したことがあるんだ」

「え!?」


明るさまに驚愕するエステルに苦笑いを浮かべた。

自分の黒歴史を他人に話すのはなかなか心臓に悪いが、今自信を失っているこの子にはいい体験だと思ってシヅキは語り始めた。

「俺は昔クッソ貧乏でな、ほしいものなんて買ってもらえるわけもなくて、それでな、つい友達の持っていた本をこっそり家に持って帰ってしまったんだ」

「……で、どうなったの?」

「クッソ怒られた。親父にはぶん殴られたし母さんには泣かれたよ。うちが貧乏でごめんねってな」

「シヅキも悪いことしたことあるんだね」

「そうさ。お前なんて可愛いもんよ。一番ひどいのはバットでガキ大将をぶん殴った奴だな。あの時も親父にぶん殴られたな」

シヅキは無性に恥ずかしい気分になったが、我慢。

「で、本を返しに行ったんだがこれまた凄くてな」

「怒られた?」

「おう、本の持ち主は俺のこと知ってたから許してくれたんだがそいつの親がな、貧乏で頭がおかしくなった恥ずかしい子だって俺を罵ってな。死んでしまえとまで言われたよ」

「それって言い過ぎじゃ」

「そうかもな。でも何も言えなかった。言い返す権利も資格もないと思ってた。自分は存在しちゃいけないやつだとも思った」

だけど、とシヅキは続けた。

「そしたら親父と弟妹どもが押しかけてきてさ、うちのバカ息子に何言ってくれとんのじゃあ! って、喧嘩してくれた。流石に弟妹共は見てるだけだったけどな」

「すごく、豪快なお父さんだね」

「ああ、そうだ。その後馬鹿にされたら言い返さんかいって拳骨ぶたれたし」

シヅキはその時のことを思うといつも笑いそうになる。

父が来るまでは鼻を高そうに威張り倒して罵倒の言葉を口走ってた相手の両親が、急に態度を変えて最終的に土下座までしたのだ。

しかもその後、父が今度は本の持ち主に土下座して謝って、その後目の前で派手にぶん殴られた。

これは父のやり方で目の前で鉄拳制裁をする場面を目撃すると大抵の人はそれを止めに入ってこっちの謝罪を受け入れるのだ。

土下座の体制で相手の両親は終始その様子を馬鹿みたいに口を開けてみていたのだが、うちの妹がその時に金魚さんみたい! と言ったのでみんな爆笑したのだった。まあ、この話は関係ないのだが。

「要するにだ。お前はこの話を聞いて、俺はお前と一緒にいる資格がないと思ったか?」

「思わないよ。だって誰にでも悪いところはあるし、ちゃんと悪かったことをごめんねって反省してるんだもん」

「ああ、俺もそう思う。だから、お前も気にすんな」

数多い自分の黒歴史で少しでも心が軽くなるのなら、昔自分のやった馬鹿なことにもきっと意味がある。シヅキはそう思うことにして恥ずかしい気持ちをグッとこらえる。

シヅキが絶えている甲斐あってか、エステルはシヅキの腕を胸に抱くと安心したように体を預けてきた。

(懐かしい感覚だな。弟妹共は俺なしでもうまくやってるだろうか?)

膝に座る小さな女の子に弟妹達を重ねた。

久しぶりに生産者であるムツキシヅキから、兄である六月紫月に戻れた気がした。

(ありがとう。元気もらったよ)

昔は家族に励まされて生きてきた。

そして今は、この子も含めた多くの仲間たちに支えられている。


『優勝が決定! 勝者リリア!』


そんなほんわりとした空気の中に、怒涛の如く勝者の名前が叫ばれた。

シヅキ達はみんなと合流するために宿を出た。


前回あれだけ魔法的力で解決とか言ってたのに普通に解決してしまいました。

ま、こんなものですよね!

作者はこのようなほんわかとした雰囲気が好きなのです。

また、それと同時に残虐な戦争なんかも大好きです。

裏表激しい人ですが許してね。


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