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勇者に倒された魔王の就活

前話からの続きです

 人間界に来た魔王は、ハローワークに向かっていた。

 ブチ切れたランに気圧されなければ、絶対に行きたくない外の世界。

 イベントやライブ以外なら絶対に訪れない外の世界。

 魔王のテンションは下降しており、出来る事なら今すぐ城に帰りたい。

 だが、ランが恐くて帰れない。

 心が左右に揺れる中、気づけば目の前にはハローワークの出入り口。

 魔王は覚悟を決め、ハローワークの中に入った。


 魔王は辺りを見渡すと、中々感じの良い優しそうな受付嬢を見つけ、そちらに歩みを進める。

 受付嬢は歩み寄って来る魔王の存在に気づくと、笑顔を浮かべてこう言う。


「お引き取り下さいませ」

「なんで!?」


 なんと、いきなり受付嬢から帰れ宣言をされ、魔王は思わず後ずさる。

 だがまあ、ハローワーク自体に来店を拒まれたのなら、帰るための口実にもなる。


 しかし、仮に帰ったとして、手ぶらは流石にマズイ。

 ランに間違いなく殺されるだろう。

 魔王は無理矢理笑顔を作り、受付嬢に話しかける。


「あの、職を探しているんですが」

「お客様にできるような仕事ですか? ………フッ」


 鼻で笑われた。

 魔王は怒りをぐっと押さえ、あくまで笑顔で言う。


「なんでもいいんですよ、働けるなら。やる気はあります」


 その言葉に受付嬢は「ハッ」と笑い、


「ヤる気があるなら、部屋に籠ってエロゲーでもしていたらよろしいのでは?」


 目は完全に魔王を見下していた。

 魔王は眉間に皺を寄せるが、怒りをぐぐっと更に押さえ、笑顔で言葉を紡ぐ。


「頼みますよ、そう言わずに。第一、ハローワークは職探しをアシストしてくれる機関でしょ?」

「表面上は」

「表面上は?!」


 受付嬢は相変わらず笑顔で魔王に応対する。


「第一、ハローワークに来さえすれば仕事が見つかると思っている奴等が、私は気に入らないんです。ここはあくまで紹介するだけですので」

「あんた紹介すらしてくれなかったよな!?」

「私共従業員とお客様との相性もありますから。……あ、でもさっきから息ピッタリですし、ひょっとして私達の相性って最高?」

「最悪だよ!!」


 魔王の顔は今や笑顔から一変して疲労に満ちている。

 笑顔を取り繕う暇もない。

 そんな魔王は息を切らしながら、受付嬢を睨む。

 受付嬢は、息を切らしている魔王にフフフ、と微笑む。


「そんな……いくら私が魅力的だからって、そんなに息を切らして発情しなくても……」

「してねーよ!!」

「でも、貴方が相手なら私……」

「……え?」


 頬を赤く染める受付嬢に、魔王は一瞬だけドキッとする。

 受付嬢は目を閉じると、顔を歪めて俯く。


「…………おえっ」

「吐くなよ! つーか吐くくらいにつらいなら最初からそんな冗談言うなよ!!」

「自分でも驚きました……。お客様、私を殺すつもりですか!?」

「あんたのただの自爆だろ!!」


 すると、受付嬢は嘆息してチッと舌打ちする。


「……早く帰んないかなぁ」

「テメェが早く仕事を紹介してくれたら、すぐさま帰るんだよ!」

「え、土に?」

「城にだよ!!」

「ご冗談をWWW」

「冗談じゃねーし、笑うな!」


 魔王は「うがあああああ!!」と頭を押さえて呻く。

 ハローワークで仕事を紹介してもらい、契約の手続きをして城に帰る……そんな簡単なミッションだったはずだ。

 それが、どうしてこんなに手間取っているのだろう。


「店長を呼べ、店長を!!」


 魔王はこの受付嬢の上司に、責任を追求する事にした。

 魔王の叫びに、受付嬢は相変わらずの笑顔を浮かべて言う。


「生憎ですがお客様、ハローワークには店長はおりません。所長ならおりますが……。お客様はバカですか? ……あ、クズですか、納得ですね(爆)WWW」

「なに一人で勝手に納得して爆笑してんだよ!!」

「お言葉ですが、爆笑ではなく、大爆笑です」

「変わんねぇよ!!」


 魔王の息切れする声が辺りに木霊する。

 受付嬢は眉間に皺を寄せる。


「……お気に召しませんでしたか?」

「召さねぇよ!」

「おかしいですね。私の見解では、お客様は日頃から笑い者にされている部類かと思いまして。笑われるのは慣れているのかと……」

「別に笑い者にされてねーよ!」

「……気づいていないなんて、可哀想ですね」

「余計なお世話だ!」


 魔王が身を乗り出して抗議すると、受付嬢は上体を反らして魔王との距離を取って人差し指と親指で鼻を押さえる。


「……………くさっ」

「歯磨きしたけど!?」

「加齢臭がきついですね、お客様」

「そんな歳じゃないのに!?」

「……定年過ぎたら働けなくなるの、ご存知ですか?」

「知っとるわ! まだピチピチの二十五だよ!!」

「あと五年で魔法使いですか。おめでとうございます」

「祝ってほしくないもの祝われた!! あと、なぜ童貞がバレた?!」

「だって………ねぇ?」


 受付嬢は魔王の顔を見ると、顔を下に向けて「プッ」と笑う。


「顔で判断された!?」


 受付嬢は再度顔を上げて魔王の顔をチラッと見ると、勢いよく顔を下げて肩を震わせて「クックックッ」と笑う。


「いつまで笑ってやがる!!」

「す、すみません……ククッ。お、お客様の……ププッ。顔が……アハハ。あまりにも……ゴホッ。牛ガエル……ゴホッゴホッ。だったもので……ゴホッ! グホッ! ガハッ!」

「俺の顔は牛ガエルじゃねえ! いい加減な事言うな!! あと、笑いすぎてむせてるけど大丈夫か!?」


 受付嬢は深呼吸をして、落ち着いたところで魔王を睨む。


「なんでまだいるんですか? 早く帰ってくれませんか、土に」

「お前が仕事を紹介しないからだろうが!!」

「つまり、仕事を紹介すれば、土に帰る……そういう事ですね?」

「そういう事じゃねえよ!」

「なら、紹介するわけにはいきませんね」

「だからなんで変なところで妙な意地を見せるんだよ! 職務を真っ当しろよ!!」


 受付嬢は魔王の言葉に眉をピクッと動かす。


「失礼ですね、それではまるで私が職務を放棄しているみたいじゃないですか」

「放棄してんだろうが現在進行形でよ!!」

「放棄してません」

「じゃあ仕事紹介しろよ!」

「嫌、です」

「なんでたよ!?」


 すると、受付嬢は頬を赤らめてモジモジしながら魔王を下から見つめる。


「そ、それは……お客様との時間をもっと共有したくて、もっと話していたくて……私がお客様の事を、その……………大っ嫌いだからです」

「わーい、一瞬でも大好き発言を言われると思っちまったよ!!」

「この状況でそう考えるなんて、Mなんですね」


 先程の表情から一変し、受付嬢は魔王を、まるでゴミでも見るかのように視線を向ける。

 すると、受付嬢の元に秘書のような格好の女性が駆け寄ってきた。

 秘書のような格好の女性は受付嬢に言う。


「所長、こんな所で何やってんですか?」


 秘書のような格好の女性の言葉に、魔王は顔を「……え?」と驚愕に固まり、受付嬢は笑顔を浮かべて対応する。


「ごめんねえ、所長として仕事が終わっちゃったから少し暇潰しをね」


 受付嬢の返答に、秘書のような格好の女性は呆れる。


「もう、程々にして下さいよ。他の従業員から仕事を取らないようにして下さいね?」


 そう言って、秘書のような格好の女性は、その場を後にした。


「…………」


 魔王は黙って受付嬢――もとい所長の元から離れて、他の受付嬢の元に行こうとする。


「お待ちください、お客様」


「ぐえっ?!」


 所長が魔王の襟首を掴むと、魔王はむせて涙目を浮かべる。


「何すんだよ、詐欺師!!」

「詐欺師じゃないです、所長です。人聞きの悪い事を言わないで下さい」

「事実だろ! 客騙してよ、さっきまでの時間返せ!!」

「生憎、私は一言も自分が受付嬢であるとは言ってませんが?」


 所長は悪びれる事なく、逆にふんぞり返る。


「あぁもう分かったよ! 騙された俺が悪かったよ!! だから別の受付嬢の元に行かせてくれよ!」


 魔王の右腕を掴んでいる所長の手を、魔王は必死に振り払おうとする。


「そうやって、私を捨てて他の女の所に行くのね! 私との事は遊びだったというの!?」

「彼女ぶるな! あと、主に俺の方が遊ばれてたよな、お前に!!」

「……被害者は、私だけで十分よ!!」

「被害者俺! 加害者お前!!」

「被害妄想が激しいですね!!」

「激しいのお前!!」


 魔王と所長は息を切らし、互いを睨みつける。


「いいからこの手放せ!!」

「放したら、別の受付嬢に仕事を紹介してもらうのでしょう!?」

「当たり前だ!」

「その受付嬢が可哀想です!」

「この状況、俺が一番可哀想だと思うんだが!!」


 魔王はもう涙を流す。


「もうなんでもいいから、仕事紹介してくれよ! なんでもいいんだよ、死活問題なんだよ!!」


 そんな必死に訴える魔王に、所長はただ一言こう言う。


「…………きもっ」

「鬼か、お前は! 情け無用か!!」

「鬼ではありません、森エルフです」

「あんたの種族なんてどうでもいいよ!!」

「ということで、お引き取り願えますか?」

「言われなくてももう帰るよ!!」

「土に?」

「城にだよぉぉぉぉ!!」



 魔王は所長の手を振りほどくと、大股でハローワークを後にした。


「中々面白い暇潰しだったわね」


 所長は魔王の後ろ姿に、心からの笑顔を向けて微笑んだ。

 しかし、魔王……結局仕事の契約もらえず……。





 その頃、魔界では………


「ラン殿、すこぶる苛立ってるんだけど……」

「魔王様、出発してから四時間経ったのにまだ帰って来ないもんねぇ」


 見た目ロリータな雑魚スライム兵二人は互いに嘆息して、腕を組んで眉間に皺を寄ったランを見つめる。


 ランは拳をギュッと握り締めて懐から、まりんたんフィギュアを取り出す。


「まともにお使いもできないのかしら? あのバカ魔王は」



 仕事の契約を取って来れずに帰ってきた魔王が、ランによって血の池に沈む事となるのは、言うまでもない。

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