勇者に倒された魔王の発端
前話より四日前の話。
ごめんなさい、ややこしくて。
「はろーわーくぅ?」
「はい、ハローワークです」
ランの言葉に、魔王は首を傾げてランの方を向く。
魔王の自室にて、ギャルゲーに勤しんでいる魔王に、ランは言う。
「魔王様は働くべきです」
魔王は嘆息し、ギャルゲーに意識を戻す。
「さて、ここは『抱きしめる』だな」
テレビのディスプレイに映し出された選択肢を選び、魔王はランの言葉を無視する。
「ていっ」
「ぎゃふっ?!」
ランは表情を一切変えず、魔王の脳天に美少女フィギュアをブッ刺した。
「何すんだよ!!」
「話を真面目に聞かないからです」
「なんで働かなきゃならねぇんだよ!」
「部屋に引きこもらず、魔王様はもっと外の世界に目を向けるべきだと思ったからです」
すると、魔王は床にぐでーんと横になりながら、不満を口にする。
「え〜、別にいいし。ネット繋げば外の世界の人とチャットでふれ合えるしぃ」
「では言い方を変えます。部屋から……いえ、城から出てください」
「あー無理無理。俺ホントそーゆーの無理」
魔王の言葉にランは溜め息を溢し、少し挑発染みた口調で魔王に言う。
「前回の勇者との戦い。あれは魔王様の、こーんな堕落生活による体力低下が敗因です」
しかし、魔王は横になった状態でコントローラーを握り、ランの言葉をスルーしてギャルゲーを再開する。
「そだねー。まあ、お前が倒してくれたから結果オーライじゃね?」
「……魔王が倒せなかった勇者一行を、ただの一介のメイドが全滅させた。今や魔界では、魔王様は史上最弱の魔王と、笑い者にされているのですよ。悔しくはないのですか?」
「うん全然。事実だし」
「…………」
ランの顔が少し険しくなる。
そんなランの変化に全く気づかない魔王は、笑いながら楽観的な声を出す。
「そもそも俺が魔王になったのだって、血の気の多い兄さん達が王位継承権を巡って互いに殺し合ったから、俺に白羽の矢が立ったのが理由だし。別に魔王としてのプライドなんてないしさ」
魔王のハハハ、という笑い声に、ランは肩を震わす。
「魔王様」
ランの低い声に、魔王は笑うのをやめて恐る恐るランに視線を向ける。
ランの笑顔は、とても輝いていた。
………薄く開いた両目は、完全に据わっていたが。
魔王は頭から汗を流し、ランに声をかける。
「あの……ランさん?」
ランは棚の上に置かれている美少女フィギュアを掴むと、その頭を思いっきり壁に突き刺す。
――ビクッ
場の空気を察し、魔王は怒声を発せず、正座する。
そんな魔王をランは冷めた目で見つめ、声をさらに低くして言う。
「こうなりたくなければ、さっさとハローワークに行って仕事を見つけて来てください」
ランは、頭が壁に埋もれて首から下がぷらーんとぶら下がっている美少女フィギュアを指差した。
魔王は頭を床に付け、何度も頷く。
「ちゃんと、口に出して言いなさい」
「ハローワークに行かせていただきます、ラン様!!」
「よろしい。なら、早く行動で示しなさい」
ランのその言葉を受け、魔王は直ちに身仕度を整え、泣きながら部屋を飛び出した。
魔王の後ろ姿を見送ったランは、ただただ嘆息する。
「メイドごときに圧倒されるとは……情けない」
ランは壁に突き刺さった美少女フィギュアを荒々しく引っこ抜くと、再び棚の上に置いて、魔王の自室を去った。
因みに、引っこ抜いた美少女フィギュアには頭部が無くなっており、壁の穴からぽろりと頭が落っこちた。
心なしか、涙を浮かべているようにも見える。
「ねえ、今の怒声って……」
「あのバカ魔王様、どうやらラン殿を怒らせた模様。さっき泣きながら走ってるの見たよ」
「どうしよ、私達にも火の粉が降りかかってきたら……」
「今日が私達の命日か……ハハ」
「そんなの嫌ぁぁぁぁ!!」
見た目ロリータな雑魚スライム兵達は、互いに肩を寄せて号泣していた。




