勇者に倒された魔王の日常
魔王城の日常は、大体こんな感じ
前話から一週間後の今日。
今日も魔王城の日常は騒がしかった。
「魔王様」
魔王の自室にて、ランの淡々とした声に魔王はテレビのディスプレイから顔を移す。
「なんだ?」
「ハローワークのお時間ですよ」
その言葉を聞いた瞬間、魔王はあからさまに顔をしかめ、ディスプレイに視線を戻してこう呟く。
「ダルい」
「ていっ」
ランはあくまで自然な動作で棚の上に置かれた美少女フィギュアを掴み、魔王の後頭部に突き刺した。
「ぐあぅ!?」
魔王は後頭部を押さえ、床で悶絶する。
しばらくして、魔王はランを睨む。
「だからなんでお前はフィギュアを凶器にするんだ!? しかも今度はアイミたんフィギュアを!!」
「愚問ですね」
ランは一拍置いて、宣言するかのように言う。
「私の手の届く範囲に、フィギュアがあるからです!」
「お前もう俺の部屋に出入りするの禁止! 出てけ!!」
「承知致しました」
ランは頭を深々と下げ、棚の上に置いてある大量のフィギュアをスカートのポケットの中に詰め始める。
「フィギュア持っていくな! 置いてけ!!」
「注文の多い魔王様ですね……。ですが、私にも、引くことのできないプライドがあるんです」
「引けよ、そこは! あと、そんなプライド捨ててフィギュア返せ!!」
「安心して下さい、魔王様。今回は、まりんたんではなくアイミたんを重点的に使用する予定なので、ほら、まりんたんはこの通りきちんと残してあります」
「あ、ホントだ。わーい、これは安心――なわけねぇだろ!! 第一、まりんたんボロボロで、ほとんどが原型留めてねぇぞ!!」
「………昨夜はお楽しみだったようで」
「お前が凶器として使ったせいだよ! なに『ホホホ』って笑ってやがる!!」
「魔王様のご冗談は面白いですね、ではごきげんよう」
「だからフィギュア持っていくなよ!」
「注文の多い魔王様ですね。……ですが――」
「何これ無限ループ?!」
ランはドアノブに手をかける。
「魔王様、このやりとりもそろそろ飽きてきたので、自分の部屋に戻ってもよろしいでしょうか?」
「フィギュア置いていけば、全て丸く収まる話なんだけど!?」
「ではごきげんよう」
ランは魔王の「返せよ!!」の声を振り切り、魔王の自室を後にした。
ランが去った後で、魔王は無惨な状態で返ってきたまりんたんフィギュアを涙目で見つめる。
以前は美しいロングの金髪をツインテールに結んで棚引かせ、エメラルドグリーンの瞳が煌めく笑顔を浮かべていた、まりんたんフィギュア達。
それが今や、髪の色は金色から茶色に変色し、すべすべの白桃の如く木目の細かかった肌には亀裂が走り、瞳に関しては右目が欠け、左目がどんよりと濁っていた。
輝かしかった笑顔は、歪になってしまった。
改めて見ると、心が痛くなる。
ネットで必死にお金を稼いで貯め、待ち時間十時間を超える長蛇の列に並び、やっとの思いで揃えたまりんたんフィギュアが、一人のメイドの手によって凶器にされ、このような結果となった。
「まりん……たん」
魔王は、まりんたんフィギュアに涙を流し、「ごめんよ、ごめんよ」と懺悔の言葉を紡ぐ。
――コンコンッ
するとドアがノックされ、開かれる。
ランだった。
魔王はランに対して、親の仇でも見るような視線を向け、尋ねる。
「なんの用だ?」
「色々と考察した結果、やっぱり今回もまりんたんフィギュアを使用する事に決めたので回収しに来ました」
「鬼かお前は!!」
魔王はまりんたんフィギュアをこれ以上無惨な状態になるのを防ぐため、両腕を広げて全力で死守しようとする。
「全く……」
ランは懐からアイミたんフィギュアを取り出し、両手に構える。
「ただの魔王ごときが、一介のメイドに歯向かうとは、笑止ですよ」
「お前のセリフ色々おかしい! 少し落ち着け!!」
ランは魔王の言葉を無視し、体勢を低くして足の爪先に力を入れて一気に加速する。
「え、ちょ、待っ――」
迫り来るアイミたんフィギュアの顔は、それはそれは輝かしい笑顔だった。
「ぐあぁぁぁぁ!!」
「おい、今なにか聞こえなかった?」
「どうせ魔王様とラン殿の痴話喧嘩でしょう、気にするだけムダムダ」
「それもそっか」
静まり返っていた魔王城に魔王の断末魔が響き渡ったが、見た目ロリータな雑魚スライム兵達は特に気にしなかった。




