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勇者に倒された魔王の敗因

今回、いよいよメイドさんのアレな武器が登場します!!

 結果だけ言おう。

 完敗を通り越して惨敗だった。

 敗因は当然の如く、引きこもり生活をしていた魔王の体力低下と、連戦続きだった勇者パーティーのレベルマックスというインフレーションが発生したからだった。

 メイド服の少女の予想は、ズバリ的中した。

 メイド服の少女は魔王の自室の前に立ち、扉をノックする。


――コンコンッ


「……………」


 しかし返事は返ってこない。

 気にせず開けると、意気消沈し、PCのディスプレイを虚ろな目で見つめている廃人の姿が、そこにあった。


「魔王様」


 メイド服の少女は廃人――魔王に声をかけるが、やはり返事が返ってくる事はなく、魔王の自室を去る。


 メイド服の少女が去った後で、魔王は静かに呟く。


「二次元は良いよなぁ。俺の痛みを理解してくれる……」


 魔王は思い出す。

 レベルマックスのチート勇者パーティーと対峙した時の事を。


「恐かったよぅ、あいつら最初から容赦なく最終奥義使ってくるんだもん……」


 死ななかっただけ、まだマシである。

 さて、何故惨敗した魔王が生きているかというと、少しだけ数時間前にさかのぼる。




 数時間前、魔王城の大広間の事である。

 玉座に座った魔王と、各々の武器を構える勇者一行が対峙していた。


「よく来たな、勇者一行」


 魔王はRPGで覚えた魔王の前口上を述べようとすると―――


「ここまで少数精鋭で来たお前達に敬意を払っ――」


―――魔王の顔のすぐ横を、魔力で形成されたエネルギー弾が通りすぎ、背後の壁に穴が空いた。

 エネルギー弾を放ったのは、どうやら勇者のようだ。

 魔王は顔を青くし、口を魚のようにパクパク動かす。

 そんな魔王に、勇者は鋭い眼光で睨む。


「俺達はお前と世間話をしに来たんじゃない。お前を、亡き者にするために来たんだ!!」


(なんかむっちゃ殺気出してんですけど!!)


 魔王は足を震わし、涙を目から溢す。


(これヤバイって、シャレになんないって。これ死ぬんじゃね? 俺死ぬんじゃね?!)


 あまりの出来事に、魔王は身体を動かす事が出来ず、固まる。

 足はもう生まれたてのバンビのようだ。

 しかし、そんな魔王と異なり勇者一行は………


(こいつ……出来る)


 何故か魔王を強敵認定していた。


 勇者は武器である聖剣を握り締める。


(今の一撃、大概の敵はすぐに慌てふためくのに。その気配も無い……全く動じないとはな)


 全く動じていないのではなく、ビビって動けないだけだ。

 なんという勘違いだ。

 魔王は震える手で玉座を掴み、立ち上がる。

 そのまま回れ右をして、細々とした声を出す。


「……今日は、このくらいで勘弁してやろう」


 そう言うと、


「さらばだ!!」


 走り去ってしまった。


『あ、逃げた!』


 勇者一行は魔王を追いかける。


「魔王、待てぇ!!」

「待ったら殺すんだろ!?」

「当たり前だ!!」

「じゃあ嫌だ!!」

「我が儘言うな! 大人しくこの剣の錆びとなれ!!」

「まだ死にたくないよぉぉぉぉ!!」


 魔王は更にスピードアップして追いかけてくる勇者一行の足元にビームを放つ。


「究極最終奥義! ロウコーティング!!」


 勇者一行の足元に蝋がコーティングされ、勇者一行は盛大に滑った。


『ぐはっ?!』


 尾てい骨に直撃をくらい、勇者一行は全員悶絶の声をあげる。


『……魔王、ぜってーブッ殺す』


 勇者一行は立ち上がり、背後にどす黒いオーラを放つ。


「中華戦士!!」

「おうよ!」

「魔法使い!!」

「任せて!!」


 勇者の言葉に、チャイナ服の少女――中華戦士とローブを纏った少女――魔法使いは頷き、各々の武器であるトンファーと杖を構える。


「絶対障壁! マージナルマグナ!!」


 呪文を唱えた魔法使いは、杖の先を魔王に向ける。

 杖から光が放たれ、魔王の行く手を阻む巨大な魔力の壁となる。

 元々この呪文は敵の攻撃を全て防ぐための障壁なのだが、魔法使いはそれを魔王の行く手を阻むために用いた。


「こ、これは……!」


 魔王は突如出現した障壁に目を見開き、足を止めて振り返る。


「たあぁぁぁぁ!! 秘伝・ドラゴンカーニバル!!」


 中華戦士は魔力をトンファーに籠め、中空へ飛び上がる。

 その結果、トンファーは赤く染まり、余剰の魔力が赤きドラゴンとなる。

 中華戦士はそのドラゴンと一つになり、魔王に突っ込む。


「ヤバイヤバイヤバイって!!!」


 魔王は蝋でコーティングされた地面にスライディングして、中華戦士のドラゴンカーニバルを間一髪で避けた。


「ちょこまかと……女王様!!」

「フフフッ……動きを止めるわ!」


 女王タイツを身に纏う魅惑的な女性――女王様は、手持ちの鞭を唸らせて魔王にめがけて飛ばす。

 しなった鞭は魔王に巻き付き、魔王から自由を奪う。


「これはあかーん!!」


 まさに万事休す。

 魔王は死を予感した。


「ボクサー、一気に決めるぞ!!」

「あぁ、お前のタイミングに合わせる!」


 勇者と、グローブを両拳に着けた青年――ボクサーは、各々の武器の聖剣とナックルに魔力を注ぎ込む。


「行くぞ!」

「っしゃあ!!」


 勇者とボクサーは同時に飛び上がり、魔王に攻撃を放つ。


『スパイラル・フルバースト!!』


 聖剣とナックルから放たれるエネルギー波が魔王に迫る。


「ぎゃあぁぁぁぁぁ!!」


 エネルギー波に呑まれ、魔王の断末魔が城内に響いた。



「………げふっ」


 魔王は見事にこんがりと黒く焦げ、口から煙を吐いた。


「痛いよ…火傷痛いよ…身体痛いよ……死ぬほど痛いよ…もぅやだ……生きるの辛いよぅ……へやに帰りたいよぉぉぉ……」


 瀕死の重症である事には変わりないが、何故か軽傷に見えてしまう不思議。

 勇者一行にもそう見えるようで、


「くっ、やはり魔王…一筋縄では逝かないか……ならば!!」


魔王にトドメの一撃を刺そうとしている。


「最終奥義……」


 勇者は聖剣に祈りを籠める。


「……グランファイゼン」


 どこからともなく、歌が流れる。

 これは、女神の歌だ。

 今の勇者は、この世界の勝利の女神“セリーブ”に選ばれたという。

 この歌は、勇者を勝利に導くセリーブの調しらべなのかもしれない。


 聖剣の刀身は青く光り輝いて何倍にも巨大化し、魔王城の天井を貫く。


――私は信じる

――貴方の勝利を、貴方の奇跡を

――さあ、今こそ解放の時

――貴方の未来に


――不滅の勇気と希望を《グランファイゼン》



「死ぬがいい、魔王!!」

「あ、これ死んだわ」


 魔王は振り下ろされるグランファイゼンを、あくまで冷静に眺める。


(あぁ……あのゲーム、コンプしたかったなぁ)


 そんな事を思いながら、魔王は目を閉じた。




「全く。天井に穴を開けるなんて、後で誰が修理すると思っているんですか?」


 淡々とした声が響いた。


「っ?!」


 目を見開く勇者と、息を飲むパーティーメンバー。

 魔王も何事かと疑問に思い、目を開けると……固まった。



 グランファイゼンが、まりんたんフィギュアの首を切り落とし、効力が無くなり消滅した。

 切り落とされたまりんたんフィギュアは、地面に落ち、ガラクタのように転がる。



「まりんたぁぁぁぁん|(期間限定ナースバージョン)!!」


 魔王は号泣し、その場に泣き崩れてしまった。

 勇者は、まりんたんフィギュアに戸惑いを隠せない。


「お、思わず条件反射でつまらないものを切ってしまったが、一体誰がこれを……」

「つまらないもの言うな!」


 魔王は勇者の物言いに激怒して吠えるが、勇者はそれをスルーして辺りを見回す。

 一体、誰が勇者と魔王との間合いの間にまりんたんフィギュアを投げ入れたのか。


 すると、


「身代わりとしての価値はありましたね、フィギュア」


 ぱちぱちと手を叩き、城の柱の影からメイド服の少女が現れた。


「お前が犯人かぁぁぁ!! この人殺し!!」


 魔王はメイド服の少女を睨む。


「ひどい言われようですね、命を危機を救っただけですのに」


 メイド服の少女の中に罪悪感などは欠片もなく、むしろ己の行動が正しいと信じて疑わない。


「くっ……お前は魔王の手下か!!」


 突如現れたメイド服の少女に対して、勇者は聖剣の矛先を変える。

 それと同時に、他のパーティーメンバーも各々の武器を構える。

 どうやら、誰もフィギュアに関してはツッコム気は無いらしい。


 メイド服の少女は、勇者を含めた勇者パーティーの武器とその間合いを確認する。

 トンファー、鞭、杖、ナックル。

 そして、勇者の持つ聖剣。

 メイド服の少女は息を吐くと、勇者パーティーに向かって言う。


「いかにも。私は魔王様の手下……“ラン”と申します」


 メイド服の少女――ランは自身の武器を懐から取り出す。


 ランの手には、まりんたんフィギュアが握られていた。


「まりんたぁぁぁぁぁん|(応募者全員サービス・白スク水仕様)!!」


 魔王の叫びに、ランは特に気にする事なく戦闘態勢に入る。


「さあ、どこからでもかかって来なさい」

「まりんたんを返せぇぇぇ!!」


 味方であるはずの魔王が突っ込んできた。


「ていっ」

「ぐおっ?!」


 ランは何の迷いもなく、魔王の目にまりんたんフィギュアを突き刺した。


「あうっ! あうぅぅぅ!!」


 魔王は目を押さえながら、地面にのたうち回る。


「魔王様はそこで寝ていて下さい。邪魔です」

「わざわざまりんたんを武器にする必要はないだろ!?」


 魔王は未だに目を押さえながら、ランを涙目で睨む。


「寝てなさい」

「ぎゃん!!」


 ランは魔王のもう片方の目を潰した……まりんたんフィギュアで。

 色々な意味で消沈した魔王を見届け、ランは勇者パーティーに向き直る。


「無能な魔王様の代わりに、私がお相手します」


 両手にまりんたんフィギュアを持ち、ランは空を飛んだ。


「城に穴を開けた事、後悔して下さい」



 この時の戦いを生き残った勇者パーティーの面々は、後にこう語っている。



――『フィギュアが……フィギュアが…………うあぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!』――と。


 彼らは今、精神病院に通院しているらしい。

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