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勇者に倒された魔王の家出

 二年間、更新できなくてすみませんでした。

 キャラが好き放題動いてしまったので、修正するのに思いの外、時間がかかりました。


 では、本編どうぞ。


――・魔王城・魔王の自室・――



『城での生活に疲れました。家出します、探さないで下さい

       魔王より』


 そう書かれた手紙を目にし、ランの眉間に皺が寄った。


「あの馬鹿魔王……まさかここまでめんどくさい存在だったとは……」


 手紙がくしゃりと歪む。

 ランは溜め息を漏らすと、手紙を丸めてゴミ箱に捨てた。


「夕飯の時間には帰ってくるでしょう。全く世話の焼ける魔王様です」


 そう言って、魔王の自室を去るのだった。




◇◇◇◇◇



「さて、城から脱出して現在人間界なわけだが……」


 魔王は人間界にて、右往左往していた。

 端から見れば、挙動不審な不審者にも見える。


「まあ、まず落ち着こう。クールになろう、ビー・クールだ」


 発言からして既にクールではなかった。


「家出したからには、どこかに泊めてもらなければならない。なら、俺の人間界での知り合いを思い浮かべてみよう。えぇと…まずは、詐欺師か」

「詐欺師ではありません、所長です」

「うおっ?!」


 背後から突如現れたのは、所長だった。


「なんでここに居るの?!」

「人間界ですから」

「なんで後ろから現れるの?!」

「後ろに居たからです」


 所長は「はあ…」と溜め息を吐くと、眉間に皺を寄せながら魔王に言う。


「コミケ以来ですね。まさかこんな所で会うとは思いませんでしたが」

「俺だって思ってなかったよ」


 魔王は両手で頭を掻く。

 めんどくさい女に見つかった、と。

 なんやかんやで魔王にとって一番人間界で面識があるのが所長だが、魔王にとっては天敵も同然。

 家出中の滞在先には、絶対無理だ。


「さらば」

「待って下さい」


 唐突に背を向けて去ろうとした魔王の襟首を、所長は思いっきり掴んで引っ張った。


「ぐえっ?!」


 喉仏が絞まり、魔王は咳き込んで涙目で所長を睨む。


「何しやがる!?」

「私が貴方をいじる前に帰ろうとしていたので」

「嫌がらせか!」

「それと、今回はどのような用で人間界に来たんですかクズ?」

「ああ、それがな――って、クズ?! 今さらっとクズって言ったな!?」

「あ、すみません。クズでなくてゴミでしたね。以後気をつけます」

「ゴミでもねえよ! 魔王だよ!!」

「部下に世話してもらっているヒモ魔王をゴミと言って何がいけないんですか? 社会構造の歯車になれない人種は皆等しくゴミです」

「相変わらず容赦ねえ物言いだな、おい! そしてごめんなさい!!」


 魔王は頭を下げつつ思った。

 所長にだけは、人間界に来た理由を言ってはならない、と。


 だから、


「じゃ、さよなら」

「お待ちなさい」

「ぐえっ?!」


 所長は魔王の首根っこを思いっきり引っ張った。

 魔王は咳き込みながら、所長を睨む。


「なにしやがる?!」

「いえ、もう少し話をしようかと」

「嫌だよ!」

「まあまあそう言わずに。私だって色々と職場でストレス抱えているんです」

「俺で発散するなよ! 俺はお前のオモチャじゃねえんだよ!!」

「っ?!」

「驚くな!!」


 袖にしがみついている所長を引き剥がそうとするが、中々離れない。

 結局、そのまま小一時間ほど所長の愚痴に付き合う魔王なのだった。




「では、ゴミクズ。私は忙しいので、これで失礼しますね」

「あぁ、そうかい。つーか、ゴミクズって……。とうとうゴミとクズが合体しちまってるじゃねえかよ」


 清々しい笑顔で立ち去る所長に、魔王はげんなりした表情で見送る。

 所長の姿が見えなくなったところで、もう一度思案してみる。

 人間界の住人で、尚且つ、魔王の知り合いで、魔王を泊めてくれそうな人物を。


「あとは……てんちょーか? いや、あの人はランの姉だから、泊まったらマッハの勢いでランに通報される……」


 ということで、てんちょーは没。

 さらに人物を絞り込む。


「うーん……あとは、えーと、なんか誰か気がするんだが、思い出せないな。えー、あー……」


 悩むこと一時間。

 その後も考えてはみたが、誰も思い浮かばなかった。

 結論としては、所長かてんちょーか。究極の二択である。

 ただ、てんちょーの家に泊まると、自動的にランに通報されるので、実質魔王に選択しなどなかった。

 所長一択だ。


「いやいやいやいやいや、なんでそんなハードな場所に泊まらなきゃならんの。それだったら、城に戻った方が良いよ、家出した意味ないじゃん」


 魔王は慌てて持ち物を確認する。

 なにか無いだろうか。宿屋の割引き券など。

 まあそもそも、人間界の宿屋の割引き券以前に、財布を城の自室に置いてきてしまったので、そもそも泊まれないのだが。

 鞄の中にあるのは、携帯ゲーム機とその充電器、あとはゲームソフトが数個に、コミケでふざけて買った犬耳。


「……なんで犬耳持って来ちゃったのかなぁ、俺」


 ブツブツ言いながらも、一応着けてみる。

 うむ、ちょうど良いフィット感。

 少し気に入った魔王は周りを見渡す。端から見たら、不審者以外の何者でもないが。

 暫く見渡していると、ダンボールを発見。とりあえず拾う。

 続いて紙とペンを発見して拾った。

 最後に、(のり)を拾った。なんでこれらの物が落ちているのかは、スルーしよう。


 さて、ダンボール、紙、ペン、(のり)

 魔王はそれらを見つめながら、まずはダンボールを箱状に変形させる。

 そしてペンを使って紙に文字を書く。

 その紙を(のり)を用いてダンボールに貼る。

 すると、なんと!


『誰か迷える負け犬拾って下さい』


 そう書かれた紙が貼ってあるダンボール箱の完成、である。

 これを見て、魔王は腕を組んで考える。


 Q.プライドで飯が食えますか?


 考える、ひたすら考える。そして、魔王の中で出た結論は、


 A.食えません!!



 魔王はプライドを捨てて、ダンボール箱にへとダイブした。


「くーん、くーん」



「ママ、あれ……」

「しっ! 見ちゃいけません!!」



「くーん、くーん」



「なんだコイツ、きっしょ!」

「石投げてやろーぜ!」



「くーん、くーん」



「負け犬、か。そうだな、俺も今日から負け犬さ。帰ったら妻に何て言おうかな、ハハハ」


「くーん、くーん(犬耳どうぞ)」




「「くーん、くーん」」



「ママー、増えたよー」

「……見ちゃいけません」




 ダンボール箱に、犬耳を着けた魔王とオッサンが並んで入って鳴いていた。

 呆れを通り越して、最早惨め極まりない。

 このまま続けていれば、いずれ警察に補導されるだろう。

 だがしかし、神は決して二人を見捨てなかった。


「あらぁ」


 二人の前に、綺麗な女性が一人立ち止まった。

 女性の年齢は、大体三十代だろうか? それでも上品さがあり、二人はその眩しさに思わず目を瞑る。

 買い物袋を持っているが、その量からして、恐らく主婦だろう。

 女性は二人に近づく。


「あらあら、おっきなワンちゃんねぇ」


 おまけに天然だ。

 女性は買い物袋を手から肘の位置に移動させ、二人の前にそれぞれ手を出す。


「お〜手」


「「……」」


 ニッコリ微笑みながら手を差し出す女性。

 二人は恐る恐る自身の手を置く。

 すると、女性はパッと花が咲くように笑った。二人はその笑顔に見惚れる。


「まあまあ、とても賢いワンちゃんなのね。さあ、いらっしゃい」


 促されるままに立ち上がる二人。

 女性は二人の手をしっかり握り締め、自宅に向かった。

 後に二人はこう語る。


「聖母は本当にいたんだ」と。




◆◆◆◆




「ただいま〜、勇ちゃん!」

「おかえり母さん……って」


 勇者は帰宅した自身の母親を出迎える。

 だが、瞬時に顔が固まる。なぜか母親が、犬耳を着けた魔王と見知らぬオッサンと手を繋いでたからだ。

 魔王はニヤニヤしながら勇者に言う。


「ただいま、勇ちゃん(笑)」

「お前が勇ちゃん言うな! ていうか、一体何なんだこの状況は!?」


 魔王はささっと勇者の母親の陰に隠れる。


「勇者ママ、勇ちゃんが苛めるワン」

「こら、勇ちゃん。ワンちゃんを苛めちゃ駄目でしょ、めっ!」

「いや、おかしいだろ母さん! 普通の犬は喋りません!!」

「それだけ賢いってことでしょ。ね〜?」

「く〜ん♪」


 勇者は魔王の胸ぐらを掴む。


「こらてめえ魔王。一体なんのつもりだ? あぁ? これも侵略作戦の一環か?」

「いや、ちょっと泊めてもらおうかと」

「冗談じゃない! うちに泊まって何が目的だ?! 人の良い母さんの善意に付け入りやがって!!」

「誤解だって……城の生活に飽きたから、ちょっと人間界でホームステイしに来ただけだって」

「……本当だろうな?」

「本当だって。一種の異文化交流だとでも思ってくれよ」

「……」


 勇者は沈黙の後、胸ぐらを放す。


「とりあえず、この場はそういうことにしといてやる。だが、分かってるんだろうな?」


 そして、聖剣を異空間から取り出して魔王の首筋に剣を当てる。


「もし、何か怪しい動きを少しでもしたら、その時はその首たたっ斬ってやるからな」

「しょ、承知いたしやした……」


 魔王は敬礼の構えを取り、引き吊った笑みを浮かべる。

 勇者は魔王の返答を聞くと、聖剣を異空間に戻し、魔王と一緒にやってきた見知らぬオッサンの方を向く。


「ところで、あのオッサンは誰だ? ……って」


 見知らぬオッサンの方を向くと、そこにはある意味で不思議な光景が広がっていた。


「えぐっ…うぐっ……俺だって、俺だって会社のために頑張ってたんだぁぁぁぁ!!」

「あらあらまあまあ、大変だったのね。よしよし」


 泣きじゃくるオッサンと、そのオッサンの頭を撫でる勇者ママ。


「でも、俺にはもう何もないんだ!」

「そんな悲しいこと言わないで。必ず、貴方を必要にしてる人がいるよ。ほら、ここに一人、私がいるでしょ?」

「う、うぅぅぅ!!」


 オッサンはひたすら泣いて勇者ママに泣きついていた。なんとなく、宗教くさくも感じる。

 泣き終わったオッサンは清々しい表情を浮かべ、犬耳を取り、玄関を開ける。

 そして、勇者と勇者ママに会釈する。


「すみません、皆さん。お騒がせしました。俺は、これから新しく、また明日を生きていきます!! そう、俺を必要としてくれてる人のために!!」

「ところで、あんたは一体誰なんだ?」


 勇者の問いに、オッサンはキランと輝いて答える。


「吉田辰三、46歳! アディオース!!」


 そう言って、颯爽と立ち去ったのだった。



「いや、誰だよ???!!!!」


 勇者渾身のツッコミは虚しく家に響き渡る。


「うーん」


 そんな中、勇者ママが小さく呟く。


「犬って、人間になるのねー」

「いや、元から犬じゃないから!!」

「マーちゃんも、人間になるのかしらぁ」

「コイツは犬でもなければ人間でもないから!!」



「……」


 勇者親子のやりとりを見ながら、魔王は思案し、手をポンと叩く。


「あ、マーちゃんって俺のことか」


 かくして、魔王の勇者宅でのホームステイが決定したのだった。

 次回から数話は、魔王の行動拠点が勇者宅となります。

 因みに勇者ママは、この作品の中で1番性格が清らかです。

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