ひかりの輪郭 〜三つに切れないケーキと、彼女が育てた庭〜
ひかりの輪郭
〜三つに切れないケーキと、彼女が育てた庭〜
丸いケーキを
三つに切れず
大きさの違う皿を前にして
彼女は何度も謝った
父は大きなひと切れを取り
母はため息を置き
彼女には
片道切符だけが残された
けれど祖母の庭では
花びらの数が違っても
曲がった枝が交じっても
誰も失敗とは呼ばなかった
同じ日にまいた種さえ
芽を出す朝は違うのだと
土のついた手が
彼女の小さな手を包んだ
文字は紙の上で揺れ
数字は指の間からこぼれた
それでも彼女は
乾いた根の声を聞き
葉に隠れた病を見つけ
明日の雨の匂いを知っていた
人々が数えなかったものを
彼女だけが数えていた
待つ時間
許された失敗
差し出された椅子
名前を呼ぶ声
誰かと分けた
一杯の温かいお茶
やがて庭には
大きさの違う花が咲いた
早く咲く花も
春を越えて眠る花も
それぞれの場所で
ひかりを受け取った
彼女はいまも
ケーキを三つに切れない
だから尋ねる
どのくらい食べたいですか
残りは明日にしませんか
一緒に分けてもらえますか
できないことを隠さず
助けを求めるその声に
かつて彼女を捨てた人々より
確かな知性が宿っていた
ひかりに
決まった形はない
数字で囲えず
文字で縛れず
誰かの物差しから
静かにはみ出していく
彼女が育てたのは
花だけではなかった
自分で選ぶ心
断るための言葉
人を信じ直す力
そして
自分を見捨てない明日だった
夕暮れの庭で
彼女は土のついた指を開く
形の違う種が
いくつも残っている
数えるのは遅くてもいい
数え直してもいい
分からないなら
誰かと一緒に考えればいい
その手のひらにあるものを
欠けていると呼ぶには
世界の物差しは
あまりにも短かった
花の向こうから
朝のひかりが差してくる
その輪郭を決めるのは
もう
誰でもない
彼女自身だった。




