8 あの真剣で不安げな顔
ちゃんと作られたラーメンは、基本的にマズくはなりません。
マズいラーメンは、ちゃんと作っていないんです。
ラーメンとは、そういうものです。
取り敢えず、スープをすすってみる。
「…あれっ?」
不味くは、ない。
決して美味いとは言えないのだが、悪くはない。
来々軒の、脂ぎった味噌汁のようなスープというベースに変わりはないのだが。
スープが「水っぽく」ない。
きちんと「さっぱり系」に収まっているのである。
元々味噌ラーメンは、誰が造っても一定の味に収まるものである。
「味噌」という素材が、それだけでかなり味が出るので、ラーメンとしての味が単一化するのが長所であり、同時に弱点でもある。
だから、できるだけ腕の「差」がでない味噌ラーメンを、来々軒では「いつもの」注文としているのだが。
だがこれは、スープのベースとなる塩ラーメンを食べてみたくなる、そんな期待感を呼び起こす味である。
黄色くちぢれた麺をすすってみる。
不味くない。
伸びきっていない。
麺本来の、シコシコ感がしっかり残っている。
小麦粉と鹹水の、麺独特の風味が口の中に広がっている。
特別な麺など使っていない、どこにでもある普通の麺なので、美味いというわけではない。
だが、これなら充分に「美味しい」麺である。
具であるネギも、前から切ってあったものではなく、出来る直前に刻んだようで、シャキシャキ感がアクセントとなって、食が進む。
メンマもナルトも、下ごしらえが施してあるようで、スープのあっさり感に濃い目の味を加えていい感じである。
チャーシューも、ダシを取った後の使い廻しではない。
下味の染みた、ジューシーな肉本来の味わいだ。
これはコストの関係で、普通のラーメン屋では中々味わえない風味である。
本来は「チャーシュー麺」として出される別メニューであり、店によっては名前だけ付けていても、ダシガラなチャーシューに下味を付けて、枚数を乗せる事で客をゴマカす所も多い。
ただの味噌ラーメンだから、一枚しか入っていないのは当然だが。
まさか来々軒で本当のチャーシューを食えるとは思っても見なかった。
夢中で食べていると、何となく視線を感じる。
食べているふりをしながら、横目で見てみる。
カウンターの裏の辺りでグラスを拭きながら、れんげちゃんが真剣な顔で俺の食べている姿を見つめている。
なんだか心配そうな、不安そうな顔である。
運転免許を取った時の試験で、教官が見守る中、試験を終えて、結果を待っている時の、あの真剣で不安げな顔である。
その横で、親父も同じような顔をして俺を見ていた。
確かに「いつもの」来々軒の味噌ラーメンではない。
味が変わった事に、俺がどう反応するのか、知りたい所ではあるのだろう。
味に敏感なのは、常連さんです。
あの味を求めて店に通っているのに、何の断りも無しに、勝手に味を変えるなんて!
そういう文句を言える人たちです。
しかも、直接には言ったりしません。
黙って、来なくなりますね。
コワイ存在ですね。




