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来々軒繁盛記 ~ 寒くなったねぇ。ここで、熱いラーメンを一杯、食べていきなヨ  作者: 白河夜舟
第11章 荒ぶる親父、付き合う鳴人、彼女の理由

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63 馬鹿な事いうもんじゃないよ!

 結局、親父とれんげちゃんは、実の親娘じゃなかったんですね。

 ナベぇ、違うってよ!

 なんて、本人には言わないでおこう。言えば言ったで、アイツめんどくさそうだもん。

 

 銭湯に向かう夜道の中で、れんげちゃんは照れくさそうに、自分の母親の事を話してくれた。

 俺の思っていた通り、彼女は親父の実の娘ではなかった。

 親父から、いわば奥さんを奪い取った男との間の子供だった。

 だから、今までは親父の事を「マスター」と呼んでいたし。

 親父もその事を知っていたから、他人行儀で彼女を呼んでいたのだろう。

「お母さん、亡くなる前にわたしに“来々軒を訪ねるように”そう言い残したの」

「どうして? だって君は、親父さんの事なんか、それまでは知らなかったんだろう?」

「ええ、知らなかった。でもお母さんは“アイのあるラーメン”作りを、わたしに託していったから。だから、わたしはどうしても来々軒に行かなければならなかったのよ」

「“アイのあるラーメン”か…」

 俺にしても、その意味はよく分からない。

 ただ、たしかに来々軒のラーメンには“アイ”があると思う。

 それは、以前にれんげちゃんが作ってくれた試食用のラーメンとは違うのも判る。

 あの、食べる者をひれ伏させる、圧倒的な迫力をもつものとは、ベクトルが違うんだ。

 俺が「不味い不味い」と思いながらも通い続けた、あの親父のラーメンの中に、もしかしたらそういう要素が含まれていたという事は…考えすぎだろうけど。

「鳴人さんは、本当にスゴイです。マスター、いえ、お父さんのラーメンを見分けるなんて」

「ハハハ…」

 いや、やっぱりそんな大層な理由なんかないよ。

 俺はただ単に、親父に優越感を抱きたくてあの店に通っていたようなものだから。

「わたしは、ダメですね。まだまだ、修行が足りないです。もしかしたら、お父さんのようなラーメン、作れないかも、しれない…」

「そんな事ないよ。れんげちゃんのラーメン、美味しいよ。ほんとに美味しいよ」

 まったく、なんて事言い出すんだろうね、この娘は。

 冗談のつもりでもなさそうだし。

「ううん。お母さんも、お父さんと一緒に作ろうとしたけど、結局できなくて、だから、逃げるみたいに来々軒を、お父さんを捨てたの。

 わたしは、お母さんの娘だから、だから、お父さんを、捨てるのかもしれない」

「馬鹿な事いうもんじゃないよ!」

 俺は、夜道という事も忘れて、思わず大声で怒鳴ってしまった。

 れんげちゃん、ビックリしたように俺を見てる。

 俺も、怒鳴ったそばから、急に照れくさくなった。

「いや、だから、怒ってるんじゃなくて…

 その、つまり…」

 あんなに一生懸命な君が、来々軒を、親父さんを捨てるはずはないよ。

 捨てられるはず、ないんだ。

 君と、君のお母さんとは、違うんだ。

 同じじゃないと、そう、思うよ。

「それは、だから、つまり…」

 言葉にならないまま、俺は。

 黙ったまま、歩きだしてしまった。

 れんげちゃんも、後からついてくる。

 黙った、ままで。


                           (続く)


 親父さんを、捨てるのかもしれない。

 怖い事いうなよ、れんげちゃん。

 なんのために?

 お母さんがそうだったから?

 そんなことされたら、俺、どうしたらいいんだよ…

 だから、つまり…

 言葉に、出来ない。

 

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