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来々軒繁盛記 ~ 寒くなったねぇ。ここで、熱いラーメンを一杯、食べていきなヨ  作者: 白河夜舟
第11章 荒ぶる親父、付き合う鳴人、彼女の理由

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61 一体、なにがそんなにイケナイのかねェ

 定休日だからこそ、普段できないお掃除をしてしまいましょう。

 れんげちゃん、本当によく働くね。


 こういうことは、任せてください。

 それで、お店の改装資金は、いかがでしたか?

 

 親父と一緒に店に帰ると、すでに人の気配がしている。

 れんげちゃん、床にワックスがけをしていた。

 といっても、もう乾拭きの段階で、乾くのを待ちながら、というところらしい。

 ホント、よく働く娘だよ。

「ただいま」

「お帰りなさい、どうでした?」

「だめだったよ。この不景気のご時世だ、銀行も“貸し渋り”なんだろうね」

「…そうですか。仕方ありませんね。今、お茶を入れますから、ゆっくりおやすみになって下さいね」

 言葉に甘えて、俺と親父は小上がりに上がり込む。

「鳴人君、あっしは未だによく分からないんだが。あっしは、ただお客さんに美味いラーメンを食べてもらいたい、ただそれだけなんだヨ。

 …一体、なにがそんなにイケナイのかねェ」

「いやぁ、悪い悪くないの問題じゃないと思いますよ。ただ、銀行の立場からいえば、浮き沈みの激しいラーメン業界は、融資先としては相手にしたくないんでしょう」

「というと?」

 親父、ちょっと自信なさげな顔をしている。

 以前の、やる気の感じられなかった親父の、あの顔だ。

 はっきりいうべきかどうか、ちょっと迷った。

 だが、親父が俺を信頼して帳簿を付けさせたように。

 俺も、親父を信頼して、今の状況を告げなければならないのだろう。

「正直いって、来々軒の経理状態はあまり良くはないです。売り上げは多いんですが、利益には結びついていない。言い換えれば、店には資金があまり無いはずです。

 普段の売上金は、親父さんが夜間金庫に預けに行ってるんですよね?」

「そうだヨ。通帳には、かなりの額が入っているはずだヨ」

「ええ。帳簿を見れば、その辺は判るんですよ。つまり、材料などを月掛けで買っていますから、その支払いの為の運転資金なんです。

 それを差し引くと、いくらも残らないはずです」

「…彰油さん、そうなのかい?」

 お茶を持ってきたれんげちゃんに、親父が訪ねる。

 そうか、支払い分の資金は、れんげちゃんが管理しているのか。

 取引先は、ほとんど彼女が決めているのだから、支払方法なども引き落としや振込の関係で、口座を作る必要があったのだろう。

「はい。これ、お店の通帳です」

 そういって渡してくれた通帳の中身は、かなりの額が入っていた。

 だが、支払いの期日がくれば、順次引き落とされるはずで、その辺は帳簿で確認できる。

 電卓をだしてざっと計算してみると、やはりほとんど残らない。

「…さすがに速いね」

「なにがですか?」

 メモに金額を書いていると、親父が感心したように俺を見ている。

「いや、計算が、ね」

「そりゃ、電卓ですから」

 変なこというなあ。ああ、キーを打つのが、ということか。

「とにかく、利益が出なさすぎなんですよ。薄利多売っていうか、売り上げが利益に結びつかないっていうか。銀行の人も言ってましたが、ラーメン屋ですから、お客の回転率はそんなに上げることはできないし、一日にできる量も決まってますよね。こういう状況で、いざというときのための土地や建物なんかの資産もない。しかも浮き沈みの激しい業界の中で、ほんの数カ月間行列ができたからといって、おいそれとはカネは貸せない、ということなんですよ」

 言ってから、ああ、キツイ事言ってるよな、なんて、少し後悔した。

 思ったことをズバズバと口にするのは俺の悪いところで。

 でも、そういうことに妥協したくもない自分もいて。

「ふぅむ。ようやく判ってきたよ。さすが鳴人君、説明が上手だネ。あのイケスカナイ銀行員とはエライ違いだヨ」

 まあ、確かにあの男、イケスカナイのは同感だけど。

 親父、俺の説明に感心する前に、もっと早く状況を踏まえてくれよ。

「…で、鳴人君としては、どうすればいいと思う?」

「俺の、意見ですか…?」

 直した方がいい、ということは沢山あるけど。

 ある程度、腹を割って話さなきゃならないだろうしな。

 さて、どこまで言ってもいいものか…

「話が、長くなりそうなんですけど」

 と、まるですでに察していたかのような、れんげちゃん。

 ビールとおつまみを、持ってきたよ。

 こういう気配りというか、機転というか。

 その辺りは、もう天性のものとしか思えないね。

 それにしても、あまりにも、気の回しすぎだよ。

「お、気が利くねえ…」

 親父も、真剣な話をしてるんだから、そんなに嬉しそうな顔しなくたって…

 …ま、いいか。とりあえず話すだけ話して、後でじっくり考えて貰おう。

 お店の運営方針は、なんだかんだ言っても親父が決める事だよな。

 俺としては、その手助けが出来ればいいわけだし。

 でもなあ、親父にその辺を分かってもらうのって、結構大変だったんだよな。

 いやまあ、なんとかここまで、漕ぎつけたんだし。

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