6 れんげちゃん
ヒロイン登場。
じゃないと、盛り上がらないでしょ?
いつも通りに交通誘導員のバイトを終えて。
いつも通りに来々軒の小汚い玄関をくぐった。
だが、店の中はいつも通りではなかった。
「いらっしゃいませー!」
元気のいい女の子の声に、俺は俯いていた顔を思わず上げてしまった。
色白の丸顔で、瞳の線の細いチャイニーズ系の、俺と同年代位の女性が明るい笑顔を浮かべて立っている。
ちょっと茶色に染めた髪で、両耳の上におだんごを造り、余った髪の毛を細い三つ編みにして肩口まで垂らしている。
小柄でほっそりした体型に、白と赤のチェック柄のエプロンがなんだか初々しい。
カウンターの奥では、親父がなんか照れくさそうにそっぽを向いた。
「…どうしたの?」
「えっ?なにがですか?」
親父に言ったつもりが、女の子の方に反応されてしまった。
「…いや…いつもの」
思いなおして、いつものカウンター席に座った。
来々軒には来々軒の事情というものがあるのだろう。
だけど、それは俺には関係ないことだし。
だが、それでも気になるのは、仕方がない。
来々軒は「客っ気」のないのが特徴だが。
それ以上に「人っ気」のないのが大きな特徴である。
そこが「人嫌い」な俺は気に入っているのだ。
以前「通っていた」大学生も、この店にはまず来ない。
俺の事を「知っている」人も、まず来ない。
ここなら、自分一人の中に埋没していられるのに。
彼女、一体何者なのだろう?
来々軒にアルバイトを雇う余裕など、あるはずがない。
ということは、「身内」なのか?
なら、年齢的にいって、娘が手伝いに来た位か。
しかし、親父に娘なんていたのか…
「あのぉ…」
考えに耽っていた俺は、いきなり可愛い声を掛けられて思わず声を上げそうになった。
「な、なに?」
「…ゴメンナサイ、驚かしちゃいましたか?」
キョトキョト、オドオドしている彼女の仕草が、なんともいえない。
普通のウエイトレスなら、こういう所で謝ったりしないものだ。
「い、いや…」
「すいません、オーダーお願いします」
「…オーダー?」
ちょっと考えて、注文の事だと思い至った。
「ああ、いつもの…味噌ラーメン」
「あっ、す、スイマセン。常連さんなんですね。ゴメンナサイ、まだ不慣れなもので…」
「い、いや…」
はにかんだ笑顔が、またなんとも可愛らしい。
「マスター、味噌ラーメン一丁っ!」
狭い店内一杯に響く声で、彼女は注文を叫んだ。
店内の温度が、少し上がったように感じた。
「人っ気」の持つ、活気のせいだろう。
客は、俺一人しかいないのだが…
「ハィよ」
マスターと呼ばれた親父が、ヒックリ返った裏声で応える。
無理して声を出してるみたいに。
イイとこ見せようとしているみたいに。
可愛い女の子の前では、男は張り切るもんなんです。
親父であっても、そういうもんなんです。




