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来々軒繁盛記 ~ 寒くなったねぇ。ここで、熱いラーメンを一杯、食べていきなヨ  作者: 白河夜舟
第2章 彼女の熱意、変わっていく親父、旨くなったラーメン

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6 れんげちゃん

 ヒロイン登場。

 じゃないと、盛り上がらないでしょ?

 いつも通りに交通誘導員のバイトを終えて。

 いつも通りに来々軒の小汚い玄関をくぐった。

 だが、店の中はいつも通りではなかった。

「いらっしゃいませー!」

 元気のいい女の子の声に、俺は俯いていた顔を思わず上げてしまった。

 色白の丸顔で、瞳の線の細いチャイニーズ系の、俺と同年代位の女性が明るい笑顔を浮かべて立っている。

 ちょっと茶色に染めた髪で、両耳の上におだんごを造り、余った髪の毛を細い三つ編みにして肩口まで垂らしている。

 小柄でほっそりした体型に、白と赤のチェック柄のエプロンがなんだか初々しい。 

カウンターの奥では、親父がなんか照れくさそうにそっぽを向いた。

「…どうしたの?」

「えっ?なにがですか?」

 親父に言ったつもりが、女の子の方に反応されてしまった。

「…いや…いつもの」

 思いなおして、いつものカウンター席に座った。

 来々軒には来々軒の事情というものがあるのだろう。

 だけど、それは俺には関係ないことだし。

 だが、それでも気になるのは、仕方がない。

 来々軒は「客っ気」のないのが特徴だが。

 それ以上に「人っ気」のないのが大きな特徴である。

 そこが「人嫌い」な俺は気に入っているのだ。

 以前「通っていた」大学生も、この店にはまず来ない。

 俺の事を「知っている」人も、まず来ない。

 ここなら、自分一人の中に埋没していられるのに。

 彼女、一体何者なのだろう?

 来々軒にアルバイトを雇う余裕など、あるはずがない。

 ということは、「身内」なのか?

 なら、年齢的にいって、娘が手伝いに来た位か。

 しかし、親父に娘なんていたのか…

「あのぉ…」

 考えに耽っていた俺は、いきなり可愛い声を掛けられて思わず声を上げそうになった。

「な、なに?」

「…ゴメンナサイ、驚かしちゃいましたか?」

 キョトキョト、オドオドしている彼女の仕草が、なんともいえない。

 普通のウエイトレスなら、こういう所で謝ったりしないものだ。

「い、いや…」

「すいません、オーダーお願いします」

「…オーダー?」

 ちょっと考えて、注文の事だと思い至った。

「ああ、いつもの…味噌ラーメン」

「あっ、す、スイマセン。常連さんなんですね。ゴメンナサイ、まだ不慣れなもので…」

「い、いや…」

 はにかんだ笑顔が、またなんとも可愛らしい。

「マスター、味噌ラーメン一丁っ!」

 狭い店内一杯に響く声で、彼女は注文を叫んだ。

 店内の温度が、少し上がったように感じた。

 「人っ気」の持つ、活気のせいだろう。

 客は、俺一人しかいないのだが…

「ハィよ」

 マスターと呼ばれた親父が、ヒックリ返った裏声で応える。

 無理して声を出してるみたいに。

 イイとこ見せようとしているみたいに。


 可愛い女の子の前では、男は張り切るもんなんです。

 親父であっても、そういうもんなんです。


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