5 マズい。とことんマズい。よくこれで客が来るもんだ
なんだよ、全くもう。
今日は散々な日だったなぁ。
痛む鼻をチリカミで抑えながら、部屋に帰る。
30分位して、来々軒のシャッターが閉まる音が聞こえた。
俺は、冷えた体とすきっ腹を抱えながら、着替える気にもなれずに部屋で横になっていた。
コンコン…
玄関の戸が、叩かれた音がした。
出たくも無かったが、いそいそと起き出した。
開けてみると、誰もいない。
出るのが遅くて、帰ったのか?
閉めようと思ってふと下を見ると、ラーメンのドンブリが一杯、床の上においてあった。
「親父…」
部屋に持ち帰り、食ってみた。
麺は伸びきっているし、スープもなってない。
だいたい、準備に手間取ったらしく、やたらヌルイ。
マズい。
とことんマズい。
よく、これで客が来るもんだ。
でも…
俺は、残さず全部、来々軒の味噌ラーメンを平らげた。
~ ・ ~
翌日の夕方。
俺は空のドンブリを抱え、来々軒の暖簾をくぐる。
「いつもの」
「へい」
客の一人もいない店内で、俺と親父はいつもの会話を交わした。
ただ違ったのは。
カウンターに、俺が空のドンブリを置いたのと。
親父の頭に包帯が巻いてあったのと。
俺の鼻に、大きな絆創膏が張ってあったことだった。
(つづく)
マズい、マズいんだよ、このラーメン。
何でこんな店が、営業し続けていられるんだよ。
俺が常連だから、か。




