33 俺如きが、ラーメンをどうこう語る資格なんて…
客はただ、美味しそうにラーメンを食べるだけ。
厨房の中は、実は戦場なんですよね。
でも、熟練兵のように、黙々と平ザルを振るい続ける親父。
頑張れ、鳴人。これからもガシガシとシゴいちゃうからね。
さ、作者めぇ…
て、てめぇ、覚えてろよ…
あれ、何か言いましたか?
れ、れんげちゃんっ!
い、いや、なにも…
こんな調子で、あっという間に時間が過ぎていった。
いつの間にか、客の数が減っていき。
気がつくと、昼の営業の終わる時間だった。
スープの切れた大鍋が、午後の部の大鍋に切り替わったのは、覚えて、いる。
覚えて、いる、だけだ。
れんげちゃんがやってくれた。
俺は、ただ、もう大鍋が空になったとしか、思っていなかった。
来々軒のメインスープは100食用の大鍋が二つ用意してあるので。
ああ、あと半分、としか、思っていなかった。
その辺から、頭がぼうっとしてきて、自分が何をしているのか、判らなくなっていった。
途中でかなり頻繁にれんげちゃんが俺の額の汗を拭いてくれたのは、何となく覚えている。
親父の汗も、拭いていたような気がする。
でも、よく覚えていない。
それ位、よく動いたような、気がする。
あくまで、それは気のせいであり、多分親父やれんげちゃんからすれば「足手まとい」でしかないと思うが。
でも、それなりに、しか出来ないけど、それなりに俺は働いた。
それなりに、頑張って働いたのだ。
けど…
けれども…
「親父、れんげちゃん…」
俺、とても、勤まりそうにない。
とても、無理だよ。
こんなに手が遅くて、足引っ張っていて…
俺如きが、ラーメンをどうこう語る資格なんて…
「鳴人さん、じゃあ、掃除から始めますよ」
「え、いや、あの…」
「要領は朝と同じです。でも、五時から店をまた開けますから、時間は余りありませんよね。
丁寧に正確に、そして素早く、ですよ」
さっさとれんげちゃんは掃除を始め出す。
だめだ、言い出せない。
タイミングを、逃してしまった。
…しかた、ない、よな。
…とにかく。
とにかく、今日一日だけは、仕事しないと…
「鳴人さん?」
「は、はいッ!」
俺は、慌てて掃除を始めた。
朝と同じ要領で、下ごしらえはどんどん進んでいった。
れんげちゃんは勿論のこと、親父も麺にかかりっきりとはいえ、手つきも素早く、熟練していた。
それに引き換え、俺はナルトすらまだ満足に切れないありさまである。
れんげちゃんの厳しいチェックの前に、俺の用意した具材はまたも半分近く弾かれてしまった。
「そんなに気にしなくても大丈夫ですよ、誰でも最初は初心者ですから。でも、鳴人さん、見込みありますよ」
優しく気づかってくれる、れんげちゃん。
でも、仕事は絶対に手を抜かないんだよね。
具材の準備も、結局大半は彼女がやったようなものだし。
その合間にスープのアクを抜いたり、ダシに使った素材を引き上げたりと、休む様子などまったく無かったのだから。
でも。
俺の失敗した具材を使って彼女が作ったチンジャオロースモドキは、やたら美味しかった。
来々軒の営業時間。
開店11時で、スープが切れるまでが午前の部。
一旦仕込みを入れて、5時から夕方の部。
大体、4時間を見込んでいますが、その前にスープ切れで閉店なのがマスト。
普通のラーメン屋さんは通し営業が当たり前。
でも、れんげちゃんが来て店が繁盛し始めてからは、スープ切れになるので通しは無理なんです。
カウンター6席、小上がり4人掛けが2脚。満席14人を約14周させて、200食を捌き切ります。
それを、午前と夕方の2回、ですね。
出来んの?
ええ、普通に出来ますよ?
1時間60人、3時間で180人。一回の営業で4時間あるんですよね?
14人満席を4周で、いいんですよね。
普通に、出来ますよね?
余裕、ですよね?
あっしは、麺を茹でるので精一杯だヨ。これは、人手がいる、いるんだヨ。
…そうだ、あの常連さんの若者。彼にバイトを頼めないもんかねぇ?
聞かなければ、良かった…




