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来々軒繁盛記 ~ 寒くなったねぇ。ここで、熱いラーメンを一杯、食べていきなヨ  作者: 白河夜舟
第7章 働く鳴人、教える彼女、見守る親父

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32 それは、なんとも美しさすら感じさせる共同作業だった

 こんな時間から並ぶとは、随分と暇な奴らだな。


 いや、並ばないと食べられないんだから、当然でしょ?

 うかつに遅くに来ると、スープ切れで店が閉まっちゃうよ?

 十一時開店だというのに、外にはもう人の気配がしている。

 朝飯とも昼御飯ともつかない時間から、まったく暇な連中だ。

 まあ、店の方は準備万端で、どっからでもかかって来なさい状態だが。

 事前の打ち合わせで、俺はスープと具の用意をする事になっている。

 親父は麺を茹でる専門で。

 後の事一切は、れんげちゃんが取り仕切っているわけだ。

 今まではれんげちゃんも調理場に入ったり出たりを繰り返していたので、だいぶ効率が良くなるらしい。

「マスター?」

「ああ、そうだな。少し早いが、店を開けていいだろう。鳴人君にも、慣れて貰わないとならないしな」

「ハイ」

 慣れる…俺が一番のネックってわけか。

 よぉし、俺の“やる気”を見せてやるぜ。

 れんげちゃん、暖簾を抱えて店の外にでる。

「いらっしゃいませドウゾ」

「ドウゾ、奥の方へ」

「ようこそいらっしゃいました」

 声と共に、客がぞろぞろ入ってくる。

 開店からすでに満席とは、完全に“儲かっているラーメン屋”モードである。

 親父はすでに麺を茹で始めており、俺は事前の指示通り、醤油、味噌、塩を各五人前ずつ支度し始める。

 味に関しては、調味用スープとメインスープは別になっており、俺はドンブリの底に調味用スープを専用のおたまで入れておき、メインスープを注ぐ。

 その上から茹で上がった麺を親父に入れて貰って、具材を載せて出来あがり。

 だから、俺の手早さはラーメンの味に直結する。

 そう、直結するのだ。

 判っている、判っているのだが…

 自分の手の遅さが、なんとももどかしい。

 底の方に調味スープが溜まってしまわないように、メインスープの注ぎ方に工夫が必要なのだが、激しく注ぐと汁が跳ねるし、そろそろ注ぐと全然混ざらない。

 親父は親父で、そんな俺の様子を見てみぬ振りでもしてるのか、どんどん麺をドンブリに入れようとするし。

 そうなると、具を載せなければならないので、スープを注ぐ手がお留守になる。

 すると、麺が茹で過ぎになってしまう。

 急いでスープの準備をすると、調理台の上が未完成のラーメンで埋まってしまう!

「マスター、醤油四人、味噌三人追加ですッ!」

「アイヨっ!」

 れんげちゃんのよく通る声に合わせて、親父も威勢のいい声を返す。

 しかし、俺はとても、そんな余裕は無い。

 うわぁ、どうしよう…

 と、そんな呟きが聞こえたかのように、颯爽とれんげちゃんが調理場に現れた。

 素早い手つきで具材をラーメンに載せていく。

「鳴人さん、これとこれ、ダメ。作り直してください」

「えっ?」

 聞きなおす間もなく、れんげちゃんは出来上がったラーメンを大きな銀色のお盆に乗せて、客席の方に行ってしまった。

 ダメ、といわれてもなあ…

 仕方なく、出来立てのラーメンを流しにぶちまけ、同じ味のドンブリを準備し始める。

 すぐにれんげちゃんは戻って来て、俺の手伝いをしてくれる。

 速い。

 異様に、速い。

 ちょっと待ち気味だった親父も、すぐにれんげちゃんのリズムに合わせて麺をドンブリに注ぎ始める。

 麺が入ったと同時に、れんげちゃんは左右の手でチャーシューとメンマを盛りつけている。

 次の瞬間にはナルトとネギが乗っており、そのままお盆に乗せられている。

 同時に、親父は次のドンブリに麺を注いでいき、同じようにれんげちゃんは具の盛りつけを始めているのだ。

 息が、ぴったりあっている。

 そしてそれは、なんとも美しさすら感じさせる共同作業だった。

「鳴人さん、手がお留守ですよ。追加のドンブリ、用意してください」

「あ、は、はい…えっと…」

 しまった、追加の注文の味、忘れた。

「醤油四つ味噌三つです。復唱すると忘れませんよね」

「ゴ、ゴメン…」

 どもる間に、れんげちゃんはもういない。

「お待たせしました。醤油四つに味噌三つです。ごゆっくりどうぞ」

 客席で、れんげちゃんの柔らかい声が響いて来る。

「れんげちゃん、今日も元気だね」

「ハイッ!皆さんのおかげですよ!」

 お客さんと愛想話すらしている余裕があるらしい。

 改めて、彼女、スゴイ…

 なんて、感心している余裕なんてない。

 チャキチャキと食べ終わったお客さんの会計を済ませ、玄関までお見送りしているその足で、次のお客さんを店に入れている。

 そのまま注文を聞いている声がしたかと思うと、もう調理場にラーメンを取りに来ている。

 親父も親父で、心得たようにいいタイミングで茹で上がった麺をドンブリに入れていくのだ。

 う、うわっ、メインスープを入れるの、追いつかない…

 と、れんげちゃん、ささっと俺のフォローしてくれて、具も自分で入れちゃって、そのまま持っていく。

 俺、何にもしてない、いや、出来ない…

「マスター、塩三丁ッ!」

「アイヨッ!塩三丁っ!」

 なんとも、絶妙の掛け声、そのタイミングだった。

 先読みして、注文を取っているのだ。

 他のお客さんが、食べ終わるタイミングを見計らって。

 うわあ、俺、もしかして、足引っ張ってる、よな…

 焦ってやろうとして、逆に手が動かなくなる。

 緊張しているので、分量が一度で定まらない。

 ドンブリの、この辺りまで注げばいいのは判っているのに。

 多過ぎたり、少なかったりしている。

 ただ、スープを注げばいいだけなのに…

「鳴人さん。丁寧に、正確に、そして素早くですよ」

 ささっとれんげちゃんが来て、予備のおたまでドンブリのスープを掬ったり足したりしていく。

 そこに親父が茹で上がった麺を入れ。

 具をれんげちゃんが手早く盛りつけ、客席に持っていく。

 そして俺は、何も出来ずに見てるだけ。

「ありがとうございましたっ!」

「アリガトヤシタッ!」

 掛け声もハモッテ気持ちいいし。

 来々軒のいつもの熱気、十二分に伝わってくるし。

 俺、すでに汗だくだし。

 親父も、汗だくだし。

 でも、親父はしっかり働いている。

 俺、なんにも出来てないし。

 仕事は山ほどあるのに。

 なんにも、できてないし。

 できて、ないし。

 ない…


 鳴人、ボロボロです。

 待った無し、容赦無し、手加減無しです。

(白河はこの辺、手心なんて絶対加えません。徹底的に痛めつけます。作者権限です。ウフフ)

 元々、親父とれんげちゃんの二人で、余裕で回しているんですから、鳴人君はいてもいなくてもイイ。

 むしろ、足を引っ張るな、という事です。


 ウフフじゃねえよ、なんだよこれ、ヒドイじゃないか!

 そうですね。でもこれが、来々軒の普通なんです。

 そうだよ鳴人君。あっしも苦労した、苦労したんだヨ…

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