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来々軒繁盛記 ~ 寒くなったねぇ。ここで、熱いラーメンを一杯、食べていきなヨ  作者: 白河夜舟
第7章 働く鳴人、教える彼女、見守る親父

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31 美味いラーメンを造るのって、腹が減るだろ?

 具の下ごしらえの、お仕事。

 鳴人君、一応自炊してますから、包丁位は握れます。

 ただ、れんげちゃんの要求レベルには、まだまだ程遠いんですけどね。

 なので、文字通りの、手取り足取りの指導です。


 こんなに近くに彼女の体温を感じるのに、とってもいいニオイなのに。

 くそっ、それどころじゃねぇっ!

 調理場の隅で、専用のイスを貰って、俺はラーメンの具を下ごしらえする役目を仰せつかった。

 といっても、れんげちゃんに手取り足取りの指導を受けてだが。

「包丁の握り方、違いますね」

「ここは、こう筋を入れて」

「ナルトの厚さは、一定にしないとだめです」

「ネギは薬味なので、まだ切らなくていいんですよ」

「あっ、そうそう、いい感じです」

「うん、いいですよ、鳴人さん、その感じを覚えてください」

 一度に沢山言われても、覚えられないと思っていたのだが。

 れんげちゃん、時には見本を、時には俺にやらせながら、要所要所をビシビシ指導してくれる。

 正直言って、彼女がこんなに側にいてくれて。

 その体温、吐息、仕草が俺を刺激しているのだが。

 しかし、彼女の厳しさは、そんな事を考えさせる余裕など与えてはくれなかった。


 親父は親父で、大型冷蔵庫で寝かせておいた麺の管理に忙しいようだ。

 朝の段階で二百食分用意するのは、確かに大変な作業ではある。

 だが、俺もそんな親父の様子に気を配っている暇や余裕はない。

 具の下ごしらえだけで、かなりの仕事量である。

 来々軒のラーメン、具が少なくて良かった。

 こんなに手間暇がかかるものに、種類を沢山用意するだなんて、どうかしている…

 いや、言い出したのは、俺だったか。

 まったく、自分でやってみないと、何事も判らないものだ。


 れんげちゃんがチョコチョコと俺の側を離れるようになってきた。

 スープが出来て来たらしい。

 メインのスープ用の大鍋の中に順に注いでいく。

 来々軒本来の、煮詰めないであっさりとエキスを染み出させた牛骨スープ。

 元々の来々軒では、このスープのみを用いていた為“あっさり”というより“水っぽい”としか言えなかった。これに味噌を混ぜれば“油っぽい味噌汁”ができる事請け合いである。

 今の来々軒のスープは、この基本スープにブレンドスープを加える事で、元の味を残しつつ“美味いラーメンスープ”、“全国に通用するスープ”作りに成功している。

 どうやら鳥ガラで取ったらしいサブスープは、さっぱりしているのに深みのある味わいを醸し出すための味付け用の基礎となっているようだ。

 確かに鳥は、単品で出汁を取るにはインパクトの弱い素材だが、それをブレンドさせる事で、ラーメンに相応しいスープとしている。

 種類は判らないが、根魚で取ったらしい魚介類系スープは、味の取り合わせ加減が難しいと言われている。下手に混ぜるとお互いの味を殺し合って台無しになるのだが、巧くいけば複合系スープとしてこの上ない力となる。

 来々軒のメインスープは、その数少ない成功例とはっきり言いきれる。

 そして、かなり濃く煮詰めたらしい、野菜スープが仕上げに注がれる。

 来々軒のあっさり系スープには、この優しい風味の野菜スープがよく似合う。

 具が少ない来々軒ラーメンだが、その物足りなさを感じさせないのは、この煮詰めに煮詰めたにも関わらず、自己主張の少ない味わいのスープがあるからなのだろう。

「よっこいしょっ…」

 可愛らしい掛け声と共に、並々と入った重そうなスープ鍋をメインスープ用の鍋に注ぎ込むれんげちゃん。

「れんげちゃん、そんな力仕事、俺が…」

「大丈夫です。ブレンドの量、間違えると全部ダメになっちゃうし…」

 そ、そうか。

「でも、力仕事ではありますし、鳴人さんにもそのうち、覚えて頂きますから」

「おいおい、あっしも男だぞ」

 すでに汗を滴らせて麺をほぐしている親父が、思わず振り向いて声を掛けてきた。


 気がつかないうちに、もう十時近くになっていた。

 具の準備の手が遅い俺の分を、一気にれんげちゃんが仕上げてしまった。

 さすがに、速い。

 半分以上残っていた具材の山が、あっというまに下ごしらえされてしまった。

 と、れんげちゃん、俺の仕上げた具を見て、ひょいひょいと抜き打ちで弾いていく。

「っと、後は大丈夫です。具一つにしても、丁寧に正確に、そして素早くですよ」

 トホホ、半分近く、ダメを出されてしまった。

「ゴメン。こんなに具をだめにしちゃって」

「いいですよ。賄いにして、食べちゃいましょう。ちょっとボリュームあるけど」

 スープの様子をちらっと確認すると、れんげちゃん、大きな中華鍋を持ち出して、俺のできそこないの具材をどんどん放り込んだ。

 手慣れた様子でご飯を混ぜて、強火で一気に炒め上げる。

「マスター、賄いにしましょう」

「おお、もう終わるから」

 ラーメンドンブリに山盛りに盛られた、ボリュームあり過ぎのチャーハン。

 しかし、これがなんとも美味い。

 飯の一粒一粒が完全にばらけており、豊富な具材がまた様々な感触を味合わせてくれる。

 ラーメンの出汁を使って味付けしているようで、食べれば食べるほど食欲をそそられていく。

 見る間にドンブリの中は空になっていった。

 親父も、そしてれんげちゃんもドンブリ一杯のチャーハンにも関わらず、綺麗に平らげてしまった。

「鳴人君、美味いラーメンを造るのって、腹が減るだろ?」

「そ、そうですね…」

 そんなこといったって、俺、まだ何にもしていない。

 でも、腹は確かに、減るよなあ。

 来々軒のラーメンスープ。

 前にもちょっと書きましたが、四種類の複合ブレンドです。

 牛骨メインのあっさり目なので、鶏ガラ、魚介、野菜で整えています。

 今は、この辺までしか描写しません。

 鳴人君の視点が、ラーメンレベルが上がってくると、より細かく認識できるはず。

 もう少し、成長を見守ってやって下さい。


 な、なんか、寒気が…

 どうしました?

 れんげちゃん、目が笑ってないんですけど?

 ウフフ、これからもガシガシ、シゴいて行きますからね。

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