30 イタズラが見つかった子供の様に
こんな時間に、親父が出勤?
やる気十分だな。
いや、俺なんか、もっと早くから来てるもんね。
そして早速、シゴかれてるもんね。
俺の方が、やる気にあふれてるもんね。
「おお、鳴人君、さっそく来たのか」
「あ、親父…さん、おはようございます」
「マスター、おはようございますッ!」
「ああ、おはよう」
掃除が終わった八時頃、親父が店に現れた。
以前の来々軒では、俺がバイトに通う時に店に人の気配などあった試しはなかったはずだ。
十一時開店の、せいぜい一時間前に来ていればいい方だった。
俺もそうだが、親父も随分やる気になったものだ。
「鳴人君、調理服、様になってるじゃないか」
「い、いや、その…」
それこそ、よれよれのズボンに白いTシャツの親父よりは、ずっと様になっているようには思える。
だが、ラーメン屋としては、親父の格好の方が正統派だと思うのだが。
俺のような新人がこんな格好をするのは、かなり気恥ずかしい。
「そうでしょ?だから、マスターも…」
「判った、判ったよ。彰油さんには叶わんなあ…」
へっ?
心得ているかのように、れんげちゃんは紙袋を親父に差し出す。
親父も、女の子の前でいきなりズボンを脱ぎ出した。
「えっ、ちょっ、ちょっと…」
何する気だ、親父?
と思ってたら、紙袋から着替えを取り出した。
俺と同じ、白い調理服だ。
れんげちゃんも何にも言わないし、親父もそれが当然のように目の前で着替えている。
そうか。親子、かどうかは知らないけど、血縁関係だもんな。いいのか。
なんて、馬鹿な事を考えている間に、親父、着替えてしまった。
明らかに、俺より着替えるのが速い。
いつ、そんなに素早くなった、親父?
「ほらぁ、とってもお似合いですよ。鳴人さんと、親子みたいです」
「そ、そうか? 鳴人君、どう思う?」
お、親子って言われても、ねえ。
赤と白のチェックの前掛けが、なんか不釣り合いなのだが。
それでも、親父、結構、様になっている。
元々、ラーメン屋の親父としての貫祿がついて来た事もあるのだろうが。
これはこれで、調理場の主という雰囲気があって、いい感じだ。
「いい、ですよ。うん、結構、いい感じ」
「そ、そうかい…」
照れてそっぽを向いているが、まんざらでも無さそうだ。
「鳴人さんがお仕事を覚えて、お店を改築したら…」
「おお、そうだな。思い切って、来々軒の制服を作ってみるか?」
「ええ、ええ!」
なんかとても楽しそうな、れんげちゃん。
親父も、すっかり調子を合わせている。
あっ…
「そ、そうかっ!」
「なんです?」
「れんげちゃん、俺をダシに使って、親父さんにこんな格好を…」
「エヘッ…だってマスター、あんまり嫌がるんで…」
イタズラが見つかった子供の様に、れんげちゃんは舌をペロッと出してみせた。
お揃いの制服。
い、嫌だヨ、お揃いの制服なんて。あっしは、もうそんな歳じゃないんだヨ…
大丈夫ですよマスター、きっとお似合いですよ!
い、嫌だヨ、そんな恥ずかしいモン、絶対に着ないヨ…
うん、コレは手ごわいですね。作戦を練らないと。
マスター、鳴人さんがお気に入りなんだから、彼に着せれば、きっと説得できそう。
それに、私ともお揃いになるし…




