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来々軒繁盛記 ~ 寒くなったねぇ。ここで、熱いラーメンを一杯、食べていきなヨ  作者: 白河夜舟
第1章 寂れた俺、寂れた店、寂れた親父

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3/12

3 悪かったな

 自分しか来ないはずの店に、他の客がいる。

 普通は気にしません。

 気にはしない、んですが…

 二時間位残業のあった仕事を終え、アパートに帰る。

 秋分を過ぎると日の入りは早い。辺りはすっかり暗くなっている。

 雨はようやく小降りになってきたが、仕事中には感じなかった肌寒さを覚えた。

「来々軒、まだやってるかなぁ…」

 こう寒い時には、熱いラーメンが急に恋しくなる。

 来々軒は確かに不味くて遅いが、その分、安いのだ。

 やる気の無い親父の、ささやかな良心というところだろうか。

 そのおかげで「味なんてどうでもいい」客がついて、細々と食いつないでいるようなものだ。

 薄ぼんやりとした蛍光灯の明かりが瞬いているのをみて、俺はスクーターをアパートに入れ、そのまま来々軒に向かう。

 なにぶんヤル気のない親父だから、時々気まぐれのように店を早仕舞いする癖があるのだ。

 店の玄関を開けようとすると、中から大きな話し声がする。

 珍しく、俺以外に客が来ているらしい。

 ちょっと気後れしたが、今さら帰るのもシャクだ。

 自分は客なんだから、堂々と入ればいい。

 そう自分に言い聞かせて、ドアを開けた。

 カウンターに、背広姿のサラリーマン風の男が座っていた。

 俺を見て、ちょっとギョッとした風な顔を造ったが、すぐに親父の方に向き直った。

 親父といえば、ちょっと困った風な感じで、この目の前の男をどう扱ったらいいのか判らない様子だった。

 俺にしても、今さら帰れない。

「いつもの」

 そう言って、サラリーマン風の男の脇を抜けて、カウンターの奥に座る。

 雨合羽を脱ぎながら様子を見ると、どうも男は、ラーメンの不味さに文句を付けているらしい。

 「麺の茹で方がなってない」とか「スープのダシの取り方が違ってる」とか「具で全部台無しにしている」とか、言いたい放題である。

 いや、言ってる事はもっともだ。

 俺も、全く同感である。

 もっと言えば「もう少しセンスや清潔感のある内装にして欲しい」とか「胡椒や七味唐がらしの瓶は、業務用をただ置くんじゃなくて、お客用に詰め変えておけ」とか言いたい事は山ほどある。

 だがしかし、この親父にそんな事を言うだけ無駄だという事が、この男には判らないらしい。

 俺に「折角合格したのだから、大学に行け」というのと同じ位に無駄である。

 やる気の無い者に、何を言っても意味はないのに。

「こんな不味いラーメン、よく出す気になれるな。お前さんの舌は、紛い物か?」

「手際も悪ければ、愛想の一つもない。これでよく商売になるもんだ」

 …男は、しつこく親父に絡んでいた。

 どうも、ちょっと酔っている風でもある。

 しかし、困った事に親父の手が、すっかり止まっている。

 これでは、俺の分のラーメンがいつ出来るのか判ったものじゃない。

 適当にあしらいながら、手だけでも動かしてくれればよいのだが。

 まあ、そういう器用な真似が、この親父に出来るはずもない。

 俺だって、多分出来ない。

 だから、ずっと留年しているのだろう。

 …それにしても、しつこいなこの男。

 なんか会社で嫌な事でもあったのか?

「こんな犬も食わないようなものに、金を出して食いに来るような奴の気が知れないぜ」

 ちょっと、カチンときた。

 一応、俺はこの店の常連で、不味い不味いと思いながらでも、金を出して食いに来てるんだぞ。

 あんたなんかの一見さんに、とやかく言われる筋合いはないね。

「…悪かったな」

 ぼそっと言った一言が、間の悪いことに男の話に相槌でも打つみたいに、店内に広がった。


 お店に文句を言い出す、クレーマー体質な方って、困りますよね。

 今は、大分マシになったんでしょうか。

 代わりに、SNSで広げているようですけどね。

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